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まるでまだ生きている小久保に話しかけるかのように、千石がさらりと言った。
正真正銘の幽霊。死人。
あの世に行きそびれて現世に置き去りにされた自縛霊。
そんなものに普通に声をかけるなんて。
しかもその相手が小久保、あの小久保だというのに。
人によっては千石のことを、恐れを知らない勇気のある男と評する者もいる。
男らしくて素敵、とたわけたことを言った女も一人だけだがいた。
しかし恐れを知らないというのはある意味で当っているが、千石の場合は、それは勇気とか男らしさというものとはかけ離れたものであることを、少学校そして中学からの付き合いで、高校で一旦離れたものの大学に入って不幸にもまさかの再会を果たしてしまった俺にはよくわかる。
千石は、恐怖や恐れを感じる神経のうちの軽く半分以上が、ぷつりと切れてしまっている。
それだけなのだ。
恐怖を感じながらも立ち向かう勇気とはまるで別物だ。
それゆえに、恐れを知らない男らしい男よりも、確実にたちが悪い。
「何をしてるって? 確かキャンプ場に遊びに来たんだけど……気付いたら誰もいなくなっていて……」
小久保が以前なら俺をサディスティクな人間に変貌させたであろう口調を普段の五割り増しでそう言ったが、今目の前にいる小久保は死んでいるので、俺はそれどころではなかった。
しかし千石はそうではない。