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――おいおいおい!
もちろん躊躇はした。
俺は死んだ人間などとは、お近づきにはなりたくはない。
しかし千石が小久保にどんどん接近しているのだ。
いくらなんでもそのままにしておくという訳にもいかない。
しかたなしに、現実の重量が本当に重くなったのではないかと感じられる両の足で、千石に続いた。
千石は崖の先を見ている男のすぐ後ろまで行くと、声をかけた。
「おい、くぼちん」
千石は小久保をそう呼んでいた。
男が振り返る。
その男は、わかりきってはいたが、やはり小久保だった。
「……ああ、千石君か」
生きていたときと寸分たがわない、小さく弱弱しく、少しばかり甲高く、そのくせこもり気味の声だ。
その声を聞いただけで、おれは何故だかすこしばかりいらついてきていた。
そして千石も同じく、というより俺以上にその覇気のなさ過ぎる声にいらついていたものだ。
「おいおまえ、いったいこんな所でなになにやってるんだ」