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見えてしまうのだ。
はっきりと。
一人の男が立っている。
痩せて低身長。
今時流行らない肩まで伸びたぼさぼさの髪。
わざとではないかと思えるほどの、極端な猫背。
そしてよれよれの半そでシャツに、一見作業ズボンに見えるが作業ズボンではない非日本製のズボン。
ファッションと言う概念が欠片も感じられない服装だ。間違いない。
後姿だが、あんな男は俺の二十年の人生の記憶において、ただ一人しか存在しない。
小久保だ。
二ヶ月前に確かに死んだはずの。
「……」
俺は小久保を見ていた。
呆けたように口を開けたままで。
すると千石が動いた。
ためらいなどというものは露ほども感じさせない動きで、つかつかと真っ直ぐに小久保に向かって歩いて行くのだ。