3/14
3
その顔のまま千石が言った。
「決まっているだろう。見に行くんだよ」
「おい!」
「そうと決まれば、今すぐにでも見に行くか。お互い、今日は午後の授業はないんだし」
俺の抗議は、完全になかったことになっていた。
それでも最初のうちは、あれやこれやと抵抗はしていた。
しかし千石は驚くほどに押しが強いたちで、この俺は、どちらかと言えば押しには弱いほうだ。
つまり勝負にはならない。
千石が「見に行く」と口にした時点で、二人で見に行くことは決定事項となっていたのだ。
車は俺の車。
運転しているのは車の持ち主である俺。
知らない人から見れば、俺が千石をどこかに連れて行っているように見えるだろうが、実際はその逆だ。
ハンドルもアクセルもブレーキも、助手席で腕を組んで前を睨みつけている千石が思うがままにコントロールしている。
行き先は大学からさほど離れていない場所にある、小ぶりなキャンプ場。
そしてここからが重要なことであるのだが、キャンプ場の奥にある断崖の縁に、その姿を現すというのだ。
小久保という名の男が。