2/14
2
「何人も見てる。十人以上にもなるかな。おまえの知っているやつも、その中にはいるぞ」
いつもよりも半オクターブ高い声で、俺は聞いた。「誰?」
「磯野、それに小野田」
磯野。小野田。
二人とも知っている。
真面目と堅物をそのまま擬人化したような二人だ。
冗談とか嘘とかいった日本語をまるで知らないその様は、誠実さなどは軽く通り越して、もはや奇人変人の領域に達している。
「あの二人か……」
「似たもの同士でつるんでいるからなあ。二人とも自分に似ているやつなんて滅多にお目にかかれないせいか、男同士なのに、気味が悪いほど仲良くしている。だから当然のことながら、二人同時に見たんだ」
今度は俺が言った。「で?」
「で、とは?」
「だから、それ、俺に言ってどうすんだよ」
千石は、にまあ、と笑った。
こいつはたまにそんな顔をするが、いつ見ても気持ちのいいものではない。
顔の肉が常人と比べて異様なまでに柔らかいせいか、その顔は人間ではなく、人間の目と鼻と口を持ったなんだかの軟体生物が笑っているように見えるのだ。




