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俺はなにかを言おうとしたが、なにも口から発することが出来なかった。
口の中がからからだった。
その異常な表情は、あの千石にもなにかを伝えたようだ。
少しばかりの動揺の色を見せ、無言で小久保を見つめている。
恐怖を感じ取る能力が退化しているような千石が、怖がっているのだ。
「おい、おまえ……」と千石がようやく言った。
すると小久保が千石を強く指差すと、一瞬でその姿を消した。
少しの間の後、千石が「えっ?」と小さく言ったかと思うと、ゆっくりと歩き出した。
ギクシャクとした、歩くこと自体に慣れていないかのような妙な歩き方で。
「えええええっ?」
千石は断崖に向かって歩き、やがてその縁に立った。
俺はなにもしなかった。
というよりも、一体なにがどうなっているのかわからなかったのだ。
「おい、よせ、やめろ!」
千石はそのまま崖下に身を投じた。
「うわわわわわーーっ!」という叫び声が聞こえ、それが下降しながら少し小さくなったと思ったら、ぐべちゃ、という音で止まった。




