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噂にこの全身を突き飛ばされた。
噂などという物理的質量を持たないしろものに、人間の肉体を攻撃するなどと言う芸当が出来るはずもない。
しかし今の俺は、そう表現するしかないほどの状況なのだ。
唐突だった。
何の前触れもなかった。
夏が意図的に置き去りにしたかのようなひたすら暑苦しい九月の後半、俺はそれを聞いてしまった。
その時、俺は何かを言ったかもしれない。
言わなかったかもしれない。
覚えていない。
「で?」
千石がそう聞いた。
よくはわからないが、それは二回目か三回目か四回目の「で?」だったような気がした。
俺の脳と口はそれに反応した。
「それ…本当か?」
我ながら耳に入る自分の声は、とてつもなく間が抜けていた、
「本当だとも」千石が答える。