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短編

私は雪の日に死にたい

作者: 津月あおい

私は雪の日に死にたい。

そう思いながら、また一年が経過してしまった。

彼のお墓の前で「ごめんね」とつぶやく。


あの人が死んだのは、十年前の大雪の日だった。

家の前で心臓発作を起こしていたようなのだけど、真夜中だったので家族の誰も朝まで気づかなかったらしい。


私もぐっすりと眠っていた。

だから、彼が雪の中、震える手で遺したであろう最後のメッセージを、私も朝まで気づけなかった。


「今までありがとう。もう君に何もしてあげられない。できたら僕の」


そんな途中で途切れたままの文章を、普通はいたずらか、下手な別れ話だと思ってしまうだろう。

私もそう思っていた。

私は文句を言ってやろうと彼に電話した。そうしたら彼の母親が泣きながら出た。


「――」


彼の死。

そのことに、もう十年も経つのに納得できないでいる。


「僕の」の続きは何だったのだろう。

それも私を余計に混乱させるものの一つだ。「僕のことを忘れてほしい」なのか。それともその逆なのか。


なんにせよ、私は彼に直接会ってそれを確かめなければならないとずっと思っていた。

そのためには私も死ななくてはならない。

でも、普通に死んだってきっと会えない。だから私は、彼と同じ、大雪の日に死のうと決めていた。


けれど、あれから大雪どころか、全く雪が降らない。


この街にだけ、降らないのだ。

隣町には普通に降るのに。この街だけ。



いつしか私はこれは彼の呪いなんじゃないかと思いはじめていた。

私が彼の後を追わないように。同じ街で死んでほしくないと、彼がそう思っているのだと、そんな妄想を抱くようになった。


別の町で死ねばいいと思うだろう。

でもなぜか、私はこの街に固執した。


彼は私を拒否し続けている。死なせないようにしている。

それだけがはっきりと感じられる。

理由がわからないまま、年月だけが過ぎていく。そして、私はいよいよこの奇妙なルールにこだわるようになった。


毎年雪が降るのを、大雪になるのを待ち望んでいる。

そして大人になってゆく。

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