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鬼の嗤う世界  作者: 雪華
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第1話 陰り

始まりです。

偽りの人生を歩んできた。


いつからだろうか。自分を偽り、周りを騙すようになったのは。


いつからだろうか。人でありながら、人の皮を被り、自分をも騙すようになったのは。


いつからだろうか。

人でなくなったのは。



***



小学校に上がった頃。まだ、純粋無垢な子供たちの中でいじめが始まった。標的は俺。


鬼羅 狛(きら はく)。我ながら変な名前だと思う。学校で広まり始めたいじめの原因は、俺のこの名前にあった。


どこから、誰から聞いたのかは知らないが、ある噂が短い時間で広まったのだ。


"鬼羅君の家は鬼の末裔らしい"と。


「馬鹿げている。」「鬼なんて空想、仮想上のものであり、信憑性がない。」と声高に言いたかった。


しかし、たかが一人の喚き、踠きは誰の耳にも届かず、大多数の言葉にもみ消されていく。


人の噂も七十五日と言うが、この噂は6年間忘れられずにずっと根を張っていた。小学校の生徒は皆、親に「あいつとは関わってはだめだ」とでも言われたのか、話しかけられることは無かった。誰だって不安因子は取り除きたいものだ。


だからだろうか。いじめの殆どは陰湿なものだった。靴を隠されることから始まり。机への落書き。ひどい時には、上靴の中に画鋲が敷き詰められていたこともあった。


正直、「お前ら関わるなと言われているのに、ここまでやるのか。」と思った時もあった。もちろんはじめの1年くらいは抵抗もしたのだが、すればするほどいじめの酷さは比例して増していくばかり。


小学2年生になった俺は、抵抗と言う無駄な足掻きをやめ、何度も繰り返されるいじめをただただ無言で見つめるようになった。


6年生になると、流石に少しは大人になった周りの奴らは、子供じみたいじめをすることは一部を除きなくなったのだ。だが、根本的な事は変わらず、俺はまるで居ないもののように、いや、要らないものであるように無視し続けられた。


中学校は、地元から遠く離れた都会にやってきた。


ここなら誰も噂を知っていないし、大丈夫だろうと、不安を持ちつつも、日々を楽しもうと。


生まれて初めて友達も出来た。クラスでも毎日仲良く喋るし、放課後、休日遊びに行ったりもする。


しかし、そんな充実した毎日に、とつじょ影がかかった。


実家からの急な呼び出し。相手は、今年70になるおばあさん。厳格な人で、昔からあまり得意な人ではなかった。


そして、おばあさんの開いた口から漏れた言葉は、俺の身体の血や、内臓、骨までもを凍りつかせた。


"お前は鬼の血を受け継いでいる"


その言葉が空気を震わせ、俺の耳から脳へと抜けていく。手足が震える。どういう事だと、口を開こうにも震えて声が出ない。出せない。だが、脳だけは正常に状況把握をして、事実を浸透させていく。


鬼などいないと思っていた。存在などしていないと。


現実は非常で無情だ。


また、あの6年間と同じ様なことを味わわなければならないのかと。それも今度は真実となって、俺の身体を蝕んでいく。


だからだろうか。俺は人に合わせボロがでないよう、自分が鬼の末裔だとまた言われないよう、人に嫌われないよう、俺は"分厚い仮面"を皮膚の上に被せたのだ。


学校から家に帰ると、心臓がドクドクと早鐘を打つ。


バレてないか。大丈夫だろうか。バレてない。大丈夫だ。

おれは、おにじゃない。



***



中学校3年間幸いにもバレることは無かった。自分で言うのもなんだが、運動も勉強も出来るし、顔だって悪くない…と思う。


それも相まって疑いをかけられることもなかった。まぁ噂の元がないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。火のない所に煙は立たないと言うし。



高校受験を見事に突破し、第一志望校に合格した俺は、今、まぁまぁレベルの高い所へ通っている。勉強も運動も難なくこなし、日々の生活もまぁまぁ楽しい。部活には入ってないが。


「鬼羅君!」


教室の椅子に据わって、机に頬杖を付き、昔の事を思い出していると、横から声が掛かる。

誰だ…人がセンチな気分になっている時に…と思い横を見ると、最近話すようになった、女子が立っていた。


「話し聞いてたの?」


「あー聞いてた聞いてた。昨日の晩飯はシチューだったぞ?」


「へぇ、シチューだったんだ。私はねぇ…って違うよ!」


ちょっと抜けたところがあるこいつの名前は、

篠崎 奏(しのざき かなで)。黒髪ロングで、紛いもない美少女だ。抜けたところはあるが、こいつは、成績が学年で2位だ。頭は良いのだがなぁ…。

え?1位は俺だけど何か?聞いてない?…さいですか…。


「そうじゃなくて、鬼羅君、今日の放課後空いてたりする…かな?」


放課後…か。中学の時は友達とよく遊びに行ったが、

ばあさんから真実を聞いたあの時から、一切遊びに行くことは無かった。と言うより自分から止めたのだ。


真実がバレるのが怖くて、今でも1日の多くは一人でいる。


俺の目の前にいる少女は、どんな顔をするのだろうか。俺が鬼の血を受け継いでいるなどと知ってしまったら。


俺の事を恐れた目で観るのだろうか、化け物と、罵るのだろうか。そうしたら、またあの時みたいな地獄の日々に戻ってしまうのだろうか。


心臓が杭を打ち込まれたかのように、酷く痛む。そして、追い打ちで、上からカン、カンと金槌で叩かれているかのような痛み。


「用事があったらいいんだけどね?その…どうしても話したいことがあって…」


そんな潤んだ瞳で見ないでくれ。そんなに不安な目で見ないでくれ。

どうせ、真実を知ったら、君は俺の事を敵として睨み付けるのだから。


だが、男の本能なのか。目の端に溜まった涙を見ると、どうしても断ることが出来ないのだ。

そして俺は、選択を間違える。


「はぁ…別に今日は用事無いけど。」


「ほ、ほんと!?じゃあ…その、一緒に帰ってもいいかな…?」


「…あぁ。」


「やった!」


篠崎は俺の返答を聞いて、胸の前で小さくガッツポーズをとる。


そんな光景を見て、不覚にも、笑が零れてしまった。


まさか、あんなことになるとは微塵も思わずに。




良ければ第2話も。

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