5 テラフォーミング
「シア様はご自身をどのような星にしたいとお考えですか?」
「どのようなと言われても……星なんて恒星か惑星か~とか、主成分が石、氷、ガスどれなのか、ぐらいしか思いつかないんだけど」
「シア様、もう一つ大事な要素が抜けております。生命体が居るかどうか、というのがあります」
「確かに生き物がいたら見てて飽きないでしょうけど、生命誕生なんて宝くじに当たるより圧倒的に低い確率じゃない?」
「確かにおっしゃるとおりですが、シア様の力を使えば容易に可能です」
「あ……なるほど……!」
「それを踏まえてシア様はどのような星にしたいとお考えですか」
……『星の願いを』……この力はチートとかそういうレベルじゃない。
まさしく神の力……私はこの力ときちんと全力で向き合わなければならない。
そんな私の願いは……
「私は……人と一緒にこの星で生きていきたい……!」
いくら力があっても私達だけで生きていくには、この宇宙は広すぎる。
「わかりました。それではシア様、星に向かって願いを念じてみてください」
私は窓の前に立ち、そこから見える私の本体である星に両手を向けて私の思いを願った。
『人と共に歩める星になりたい……』
《新規目標を設定しました》
唐突に脳内に響いたアナウンスにビクッと体を震わせる。
「な……なんか……目標がなんとかって聞こえたんだけど……」
「はい。星へ大きな影響を及ぼす場合は自然な形で少しづつ願いが反映されていきます。願いが具体的で局所的なほどすぐ反映されますが、抽象的な願いや大規模なものほど時間がかかります。ステータスを確認してみてください」
確認してみると私のステータスの他に『星の願いを』というウィンドウが追加で表示されるようになった。
『人とともに歩む』という項目の横にゲージが表示されていたが、かろうじて確認できる程度にしかゲージは進んでいなかった。
「新しい項目が追加されたけど……この感じだとまだまだかかりそうね」
「今の状態で人を誕生させようとすると、星の環境変化と生命誕生など様々な要因を満たす時間が必要となります」
「つまり生命誕生までのプロセスを一個づつクリアしていくほうが、願いも具体的で局所的で早く実現できるってことね」
「そのとおりでございます」
「でもそれなら体感時間を早めればすぐなんじゃないの?」
「たしかにそうです。ですが能力のおかげで通常より早いとはいえ、限り有る星の寿命を浪費することになります」
「あっ! たしかにそうね……それに考えてみればこんな貴重な体験を一瞬で終わらせるのはもったいないわね」
なんだかんだでルナは私のことをよく考えてくれている。
本当にありがたい。
「それじゃ早速やっていくわよ!」
「頑張ってください、シア様」
やり方はわかったしあとは実践有るのみだ!
ご褒美もでるみたいだし頑張らないとね!
何よりこれは私の切実な望みでもあるのだ、手を抜くことなどありえない。
私は星の地球化……テラフォーミングに取り掛かった……のだが、具体的な数値がわからない……地球の大きさってどのくらいなんだ……?
「私の目標としては地球とほぼ同じ状態にしたいんだけど……」
「シア様。地球のデータなら私が所持しております」
優秀な助手を持つと本当に助かる。
まずはサイズ調整だけども、近くの小惑星帯から物資を引っ張ってこようにも、私の力が届くのは星とその大気圏内だけであり、およそ高度800kmまで。
近くとは言っても数万キロ先の小惑星帯までは届かない。
私の力を使えば物質生成して直接増やすこともできたのだが、なるべく自然物で星を構成したかったので、別な方法を取ることにした。
星が規定の大きさになるまで、大気圏を通過するはずだった隕石の移動方向を変えて墜落するように願った。
ちょうど通りかかった小惑星が掠めるように大気圏に触れた瞬間、カクッとありえない軌道で曲がり、いまだ赤く燃え盛る地表へと落下していく。
自然に変化するとは何だったのか……
ルナによれば具体的な願いなら多少の無茶は効くらしく、あのありえない小惑星の軌道も大気圏ギリギリを漂っていたデブリを複数同時にぶつかるように確立操作されたらしい。
回りくどいと思ったが、能力による影響が最小限になるようになってるとのことだ。
しばらく時間がかかりそうだがサイズ調整のめどが付いたので、次は自転と公転の周期を調整する。
ルナから正確なデータをもらっていたけど、4年周期だけども100年に一度なくて、でも400年に一度あるという閏年は非採用にした。
早かった自転と公転の速度を少しづつ遅くして、ついでに地軸の傾きも修正しておく。
《星の大きさが規定値に達しました》
そんなこんなしてるうちに隕石による肉体増強が終了したようだ。
ふと星へと目を向けると、ドロドロと真っ赤に溶けた高温の溶岩で覆われていた。
その様子はまだまだ生き物が生息できるような環境ではない。
眼の前の光景に向かって強く願いを念じると溶岩から熱が失われ、徐々にゴツゴツとした岩へと変化していった。
しばらくすると頭の中にアナウンスが流れた。
《事象変化の影響が規定された値の許容値に収まりました》
《備考、外部要因による環境影響を考慮し、適切に保たれるよう複数の要因を調整しました》
どうやらきちんと温度操作が完了したらしい。
そればかりか、恒星からの熱の影響も考慮して、それでいて公転周期がずれないように速度と距離を調整してくれたらしい。
優秀過ぎて能力様に頭が上がらないわぁ……
地表温度が下がったことで今まで荒れ狂っていた大気も徐々に安定してきている。
気温が下がり大気中の水分が凝固することで雨となり大地に降り注ぎ、大地に幾筋もの川を作る。
川は次第に低いところへと溜まっていき巨大な水たまりとなり、そのかさを増して星を覆っていった。
ゴツゴツとした岩石に覆われるだけだったこの星にもやっと海が誕生したのである。
これまでの成果を確認しようと自身の体へ意識を向けてステータス画面を表示させる。
惑星 シア 年齢 2552万才
大きさ 半径6371 km
自転周期 1日
公転周期 365日
傾き 23.4度
表面温度 20度
中心温度 5700℃
うん、だいぶ地球らしくなったんじゃないかな!
「うまくいったようですね。シア様」
「うん、そうなんだけどいつの間にかすごい時間が経過してたのね……」
「変化に必要な時間を経過させるために、おそらく無意識のうちに体感時間のリミッターを調整されたのでしょう。惑星全体を改変する規模でしたのでそれなりに時間がかかってしまいますね」
「そういうことね。そういえばルナと普通に会話とかしてたけどそのへんの体感時間のズレってどうなってるの?」
「この部屋の中ではシア様に合わせて時間が流れますので、私の体感時間もシア様と同じですよ」
ちゃんと同じ時間を歩んでくれる仲間がいるというのはとても心強い。
しかし無意識のうちに能力が発動するのは困る。
せっかく時間を有意義に使うと決めたのに……これでは先が思いやられる。
今回は必要な時間分しか進まなかったからいいが……
能力行使については発動時に確認ウィンドウが出るはずだけど、どうやら無意識下での発動には対応していなかったようだ。
無意識での発動にも確認ウィンドウが出るようにルールを追加しておこう。