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41 氷河期の終わりと人類の夜明け


 地球で最後の氷河期に該当する時代が過ぎ、惑星シアの気候は温暖なものへと安定していった。

 曇天に覆われていた空は澄み渡った青い空へと変わり、地上ではあらたな生命の息吹に満ち溢れていた。

 氷河期の鬱憤を晴らすかのように降り注ぐ太陽は植物の生育を大いに助け、森林面積は飛躍的に拡大していった。


「氷河期も終わってだいぶ暖かくなってきたし、こたつともお別れかしら」 

「……おこた……バイバイ……」


 『星の願いを』によって湧き上がるように立ち上った淡い水色の光に包まれながらこたつが消失していく。

 シアがソファへと座り直すとラヴィーがそばに寄ってきて、さも指定席だと言わんばかりにちょこんと横に腰掛ける。



「気候も安定してきたし生き物たちもだいぶ過ごしやすそうね」

「……おひさま……ぽかぽか……!」

「森林が広がって餌となる果実も増えましたし、暮らしが安定した生き物が多くなりましたね。ですがその一方で住処を追われた生き物もいます」


 森林面積の拡大は裏を返せば草原の減少を意味する。

 激しい環境変化に耐えきり草原でほそぼそと暮らしていた大型の哺乳類達は、草原の減少にともなって生息域を追われていき次々に絶滅していった。

 サーベルタイガーやマンモスなど、原始時代と言われて思い浮かべるだろう有名な動物たちが絶滅していったのがちょうどこの頃である。


 氷河期の終わりは旧人の時代の終わりでもある。

 いよいよ新人類、人の時代が本格的に幕を開けるのだ。


 温暖な気候に後押しされた人類は世界各地にその版図を広げ、その土地に合わせた多様な文化を築いていく。

 旧人の頃から培われ、受け継いできた多様な知識は文化を形作る重要な因子である。

 石器一つとってみても、武器、調理器具、素材に合わせた加工器具など用途に合わせてさらに細分化していく。

 さらには石や骨などの素材を加工し、形を整え装飾の模様を入れたアクセサリーも徐々に作られるようになってくる。

 それらは創造力や抽象的思考が高度に発達した証だ。

 生きるのに必ずしも必要というわけではない装飾品などは、生活を彩るまさに文化の芽生えである。




 ぶびょー

 ぶびびょー

 

 神の部屋になんとも気の抜けた音が響き渡る。

 その正体はシアとラヴィーが手に持っている骨製のフルートだ。

 以前にホモサピエンスの儀式で見たものよりは高度に加工されてはいるものの、楽器としての程度は低いと言わざるを得ない。

 しかし……


 ぼびゅびゅー


「ひぃー、な、なんて、うへ、情け、うひひ、情けない、お、音なの」


 ぶびーびょぶびー


「うぇーひゃっ、ひっひっひぃー、やめてふぃー、ひゃっはっは」

「ん……たのしい……」


 ぶーびゃびゅー


 何がツボにはまったのか、腹を抱え涙を流し過呼吸気味に笑い転げるシア。

 時折自分で吹いては笑い転げているのだからどうしようもない。

 純粋にフルートが楽しいのか、笑い転げるシアが楽しいのか……ラヴィーも満足げに吹き鳴らしている。

 

 

 現代地球の紀元前二万年には、動物の骨や牙を使った装飾品や縫い針、それらを利用した服飾と簡単な楽器などがすでに作られていた。

 地球の歴史をなぞる惑星シアでもそれらは誕生していた。

 今回シア達が生成したのもそんな原始的な楽器の一つだ。



「ひ、ひー……ひー、ひー……」

「シア様……だいじょうぶ……?」

「あーありがとラヴィー、もう大丈夫よ」


 ぶびょびゃー


「ぶっ、ちょ……ちょっとルナ! やめ、やめてよ! ひー、せっかく落ちついてきたのに……!」

「……何がそんなに面白いんですかね? 理解しかねます」

「それより! うちの人類もだいぶ進歩してきたわね!」

「ん……いろいろ楽しそうなことやってる……」

「楽器を用いた音楽だけでなく、動物の脂を絵の具として用いた壁画なども盛んに描かれていますね」

「んー」

「シア様……? どうしたの……?」

「いやね、色んな所の壁画を見てるんだけど、このライオンの頭をしたヒト? が結構色んな所で描かれているなぁって思って」

「儀式で司祭役を務めていたライオンマンが宗教を通して各地に伝播したようですね」

「……歌って踊れる人気者……?」

「この時代のアイドルなのかしら?」

「えーとですね、ライオンマンそのものを崇拝していたわけでなく、自然の驚異など人の手に負えない超常の存在をライオンマンを通して畏れ奉っていたんです」

「イタコとかシャーマンみたいなものなのね」

「あ……また儀式……始まった……」


 夜の帳が下りた頃いつか見た儀式のように、大きなかがり火が集落の中心に据えられる。

 大勢が集まる広場の片隅には楽器とそれを演奏する者たちが十人ほど座っている。

 骨や角製の笛、中をくり抜いた丸太の側面を叩くだけの太鼓など様々な楽器を携えた奏者達の周りには、彼らを照らすように小さな明かりが灯っていた。

 油分を含んで燃えやすい木材を松明にし、地面に突き立てて作った簡易照明だ。


 以前よりも豪華になった儀式の様式。

 しかしこの広場には肝心のシャーマンらしき人物はおらず、集まっている者もすべて男性だった。

挿絵(By みてみん)

 ここまで読んでくれてありがとう!

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