33 燃やすぜ!
現代生活で欠かすことのできない『火』
可燃物が空気中の酸素と激しく結びつく化学反応によって大量の熱と光を放出するこの現象は、原人がより高度に発達するために不可欠な要素であった。
『火』の利用は原人たちに多くの恩恵をもたらした。
第一に火を使った調理は肉や炭水化物の摂取を容易にした。
肉に含まれるタンパク質と脂質は加熱調理することで栄養とカロリーの吸収率が上がる。
これだけで何倍もの食料を得たに等しい効果だ。
さらに充分な加熱は寄生虫や細菌を死滅させる事ができる。
これにより食品衛生も向上し、川魚や傷んだ肉なども安全に食べることができるようになった。
他にも植物に含まれるデンプンは加熱することで糖化が進み、摂取カロリーを増やすことができたのだ。
「……ルナの説明はわかったけど原人の台所事情が人類進化の鍵を握ってるとはどうしても思えないんだけど?」
「ところが大アリなんです。加熱調理によって摂取カロリーが増加するということは、そのまま活動限界を伸ばすということに直結します。」
「……なるほど。次の獲物を見つけられなければ餓死してしまう過酷な世界だものね。食料が安定供給されないこの時代では摂取カロリーの増加はそのまま生存確立に直結するのね」
「そうです。それだけでなく摂取カロリーの増加は、脳容量の肥大化にも影響したと見られています」
「猿人から原人になったときも脳が大きくなったのにまだ大きくなるのね」
「……あたまでっかち……?」
「まだそこまでは行かないかなー?」
その後もルナによる火に関する講義は続いていく。
火がもたらした恩恵は食物に限らない。
暗闇を照らし暖かな熱を発する火の光は、夜間の活動を可能にした。
日が沈めば寝るしかなかった人類が、夜の時間を手に入れたのだ。
同じ寿命でも一日の活動時間が長ければそれだけ出来ることが多くなる。
より多くの経験をした一日一日が人類の進歩に直結する確実な歴史の積み重ねになるのだ。
火を使う以前の人類は草原の真ん中で日没になれば、暗闇に潜む猛獣に狩られる危険性と隣合わせだった。
だが焚き火で獣を寄せ付けないことで、安全に休息することができるようになる。
これは活動範囲の拡大に繋がり拠点から離れたところへの長距離狩猟を可能とし、より多くの獲物を見つけることにも繋がっていく。
「火を使えるだけで他の生物よりかなりアドバンテージが取れるじゃない……」
「……原人はチートを手に入れた……!」
「戦闘力ならラヴィーのほうがよっぽどチートだったわよ?」
「……照れる……」
「照れてるラヴィーちゃんもかわいいですねー!」
火はとても生活の役に立つものだったが、使い始めた頃は自然発生した野火に頼るしかなかった。
自らの力で着火できるようになれば、氷河期などの環境変動が起こっても生存確率はぐっと上がるだろう。
しかし自力で着火できない現状では、野火を利用する希少性から火は集団生活で共用され、種火を絶やさないためにも集団で居ることの重要性が高まった。
火の利用は栄養状態と衛生環境の改善だけでなく、社会性を育むことにも大きな影響を与えたのだ。




