30 モンキーレボリューション
豊かな森林で樹上生活に適応した猿たちは、自らのテリトリーを守るために同種間での闘争に勝ち残る必要があった。
闘争において大きなアドバンテージを持つのは体の大きさだ。
体の大きなものが小さきものを排除して種を残していくのだ。
他の哺乳類がそうであったように、猿の進化も大型化の道を歩んでいた。
だが猿たちは他の大型哺乳類のような極端な大型化はせず、その進化においてある一定のところで頭打ちとなる。
それは彼らの特殊な生息環境と、鋭い爪や牙などの強力な武器を持たない肉体のせいであった。
げっ歯類から追い立てられたあとも地上には凶悪な捕食者たちがはびこり、それから逃れるために樹上での生活が必須だった猿にとって大きすぎる体は邪魔でしかなかったのだ。
樹上生活に適した体の大きさながらも、縄張り争いに勝利する強靭な肉体を持つ個体が種を残していくことで彼らの肉体は極限まで鍛えられていった。
現代のチンパンジーの握力は片手で三〇〇キログラムあり、興奮状態なら五〇〇キログラムを超える。
ライオンの顎の力が三〇〇キログラムというのだから、チンパンジーの肉体がどれほど強靭なのかおわかり頂けるであろう。
進化の途上であるこの時代の猿たちも肉体の強靭さは見た目以上なのである。
猿の進化においてもう一つ重要なのが集団化である。
他の動物でもそうだが群れることで外敵を素早く発見して身を守ったり、広い縄張りを確保することで安定して餌を確保できるようになる。
しかしここでもまた、猿たちは独自の変化を見せる。
立体視のために扁平化した顔には細かい表情筋がいくつもあり、高い視力と相まって表情によるコミュニケーションを可能にした。
表情による複雑な意思疎通は群れにおいて秩序をもたらし、円滑なコミュニケーションがとれている群れほど困難な状況での生存率が高まっていった。
個の力から群れの大きさへ、そして単純な数の力からコミュニケーションによる共生能力へと生き延びる基準が変わっていくのだった。
「ちょっとずつ人っぽくなってきたわね!」
原猿の登場から時代は進み、寒冷化と共に森林が減少する中で彼らは猿人と呼ばれる種へと至っていた。
ワイドビジョン覗き窓には、開けた所が多くなった森で生活する彼らの様子が映し出されている。
「この子達が、猿から少しづつ背を起こして人になっていく進化図みたいに、どんどん人っぽくなるのかしら?」
「そうですね。ですけど猿人類から原人類、現生人類へと進化するなかでも様々な亜種が生まれています。原人から現生人類まででも15種類以上が絶滅したとも言われています」
「思ってたよりずいぶんと多くの人類がいたのね……そしてなんとも過酷な生存競争ね……」
「シア様……あれ……立ってる……」
「おぉ! 二足歩行し始めた種類が居るわね!」
木の幹の上で直立しているのは猿人アウストラロピテクス。
樹上での繁栄を極めた猿達のなかで二足歩行を習得した種が、この時代にいち早く対応できた。
環境が変化したことで森林が減少し餌となる果実の発見は偶発的になった。
一度見つけた食料を他の生き物に取られる前に、より多く確保する必要があり、その点において両手が自由に使える二足歩行はとても有利だった。
覗き窓に映る猿人も新たな食料を目指して縄張りの中を散策しているようだ。
「お猿さん……ご飯見つけたみたい……」
猿人は見つけた果実を抱え込むように確保していき、こぶし大の果実を十数個も抱えて先程の巣へと帰っていった。
「私も……この体になって便利になった……」
そういうラヴィーはぬいぐるみを両手にぎゅっと抱きかかえている。
最初に作ってもらった始祖鳥とラヴィー人形のほかに、いつの間に作ってもらったのかシアとルナの人形も抱きかかえている。
ラヴィーお気に入りの四体だ。
これらの他にも最初にぬいぐるみを作ってもらった日から、のぞき窓でみかけた可愛らしい動物をちょこちょこ生成してもらっていたので、今ではラヴィーの部屋にはかなりの数のぬいぐるみが置いてある。
そんなラヴィーをみてほのぼのしていたシアとルナだったが、覗き窓の向こうで変化があった。
果物を抱えた先程の猿人が一匹の仲間に獲物を分けている。
その相手の腹部は大きく膨らんでおり、どうやら妊娠しているようだ。
「いままでは群れの中の強いオスほど多くの雌を従えていましたが、この頃になると一夫一妻制に変化し、オスが妊娠したメスの餌を確保して子育ても協力することでメスと子供の死亡率が低下していきます」
こんな時代から一夫一妻制があったのねー。
この星で私のお相手は見つかるのかしら?
ん?でもこの星の生き物って私の子供みたいなもんだったわね……
子供と結婚とかまずいわねぇ……
あーでも地球の神話だと近親婚姻当たり前だし良いのか……?
いやでも……んーーー!!??
「旦那さんとか私には縁がなさそうだけど、ラヴィーは気になる子とか居た?」
「この間みつけたカブトムシはカッコよかった……」
「おーこれは脈ありかしら?」
「でもちっちゃかった……」
「あー……」
「ラヴィーちゃん、巨鎧種の体を基準にしたら大抵の生き物は小さいですよ……」
ラヴィーは私達の手伝いで、通常サイズの昆虫の分身体を生成して地上の様子を観察しに行ってくれている。
生態系や環境の調査がメインだが本人も結構楽しんでいるようで、いろんな草の味見をしているそうだ。
うん! 楽しそうで何よりだ!




