29 新生代
巨大隕石以来の大騒ぎとなった中生代を終えて、地上はいよいよ新生代に相当する時代に突入する。
恐竜たちの時代が終わったことで哺乳類が地上の覇権を得る時代だ。
そんな哺乳類のひとつの種が、いくつもの偶然を経てやがて人へと進化していくことになるのだ。
「恐竜がいなくなってちょっと寂しいけど、やーっと哺乳類の天下ね!」
「ところがそうもいかないんですよ」
「えー! どういう事なのよ? 楽しみにしてたのに!」
「そう言われましても……巨大恐竜がいなくなったことで、今まで肩身の狭かった小型の爬虫類や肉食の鳥類なども活動を活発にしていきます。まだ小型の哺乳類が多かった新生代初期では、天敵とも言えるそれらが徘徊する地上は恐竜の時代よりも危険な環境でした」
「……ちゅうちゅう……よわい……食べられてる……」
ワイドビジョン覗き窓には蛇に丸呑みにされるネズミモドキの姿が……一方では鳥の鋭い鉤爪に捕らわれたネズミモドキも……
「ご覧のように危機的な状況に陥った哺乳類は急速に、そしてより多様に変化し様々な環境へと適応していきます。新生代に入って一千万年ごろには、現在の哺乳類につながるグループに別れたと言われています」
少し時代を進めてみれば哺乳類の多様な進化で目まぐるしく生態系が変化していき、草原へと画面が移れば様々な生き物であふれていた。
二本の巨大な角が並んで生えているサイが居るかと思えば六本角のサイも居る。
少し離れたところには足と首が短い馬のような生き物が群れていたり、それを狙う狼のような頭とライオンのような体を持つ肉食獣や、更に遠くでは鼻の短い象のような生き物もいた。
多様な動物であふれる草原の茂みには獰猛なハンターがその身を隠していた。
それは異様に長い牙をもったネコ科の大型肉食獣、サーベルタイガーと呼ばれた生き物だ。
まだ差異はあるものの、現代地球の生態系にだいぶ近づいてきたようだ。
景色を眺めているとふと、森のなかで大きな影が動いた。
八メートルほどの巨大な体躯、手足には長い爪、厚い毛皮に覆われた熊のような体に長く太いしっぽを揺らす様は地球では見たことのない姿だ。
「ルナ! 何あれ!? また巨鎧種みたいな突然変異なの!?」
「落ち着いてください、シア様。あれはメガテリウム、史上最大のナマケモノです」
「へ? なま……獣? あっ! ナマケモノね! ……にしてもだいぶ大きいわねぇ!」
「うん……でっかい……!」
言われてみればゆっくりとした動作や長い爪などはナマケモノに似ているが……ぱっと見ではどうあがいても怪獣である。
「多様な進化の中で巨大化する哺乳類も多くいましたが、そのほとんどが現代までには絶滅してしまいます」
「燃費悪そうだもんねぇ。やっぱり小さい方がいろいろメリット多いのかしら?」
「……省エネ……!」
しばらく様子を見てると草原の奥から、頭はサイなのに体は象の生き物がのっしのっしと歩いてきた。
ルナによればパラケラテリウムという陸上史上最大の哺乳類らしい。
先程のナマケモノもそうだがとてもゆったりとした動きで温厚そうだ。
「そういえば人類のご先祖様になる哺乳類はどれかしら? ルナ説明よろしくたのむわ」
「はい。新生代に入ると小型哺乳類のネズミの仲間が登場します。彼らは繁殖力と集団性を武器に寒冷地を含めて世界中に広がっていきます」
「さすが人類のご先祖様ね!」
「……いえ、そのネズミに生息域を追い立てられたモグラのような哺乳類が人類の祖先となります」
「……え?」
覗き窓に目をやれば、ネズミモドキに追い立てられて、困り顔になっているモグラモドキがキューンキューンと鳴いていた。
「ちょっとちょっと! そんなんで大丈夫なの? 人類のご先祖様!?」
情けない姿に不安に感じながらもシア達はモグラモドキの観察を始めるのだった。
「土と腐葉土の間の餌が豊富な環境をねずみに取られて、その姿のまま土に潜ったのがモグラとなり、鉤爪を活かして木へと生息域を移したのが猿の祖先の原猿となります」
「ん? それじゃモグラが進化したら地底人になるのかしら!?」
「ちょっとシア様……変な妄想をしないでください。進化の道筋に余計な補正がかかってしまいますよ?」
「妄想とは失礼ね! でもまぁ気をつけるわ」
「よろしくおねがいします。原猿の続きになりますが、彼らは敵対生物の多い地上に降りなくても生活できるように、樹上での生活に適応していきました」
木の幹をよじ登ったり枝の上を動き回るだけだったモグラモドキ達だったが、時代が進むに連れて樹上に適した姿へと変わっていき、より活発に行動するようになっていった。
「……なんか……ピョンピョンしてる……?」
「跳んでるわね!」
「そうですね。親指の骨格が発達して枝を握れるようになって、枝から枝へ飛び移れるようになります。さらに長い手足と柔軟な背中、バランスをとるための長い尾は樹上での行動範囲を飛躍的に広げました」
モグラモドキだった人類祖先は、今ではキツネザルのような姿で枝から枝へと縦横無尽に動き回っている。
「原猿類から類人猿までの進化の中で一番大きな変化は視覚機能の変化でしょうか。餌を求めて、もしくは敵から逃れるために木から木へと移動する際に正確な距離を把握することが必要とされ、次第に立体視を獲得していきます。顔の両側にあった目は顔の正面に移動し、鼻の突き出たフォルムからだんだんとのっぺりとした顔つきになっていきます」
「……私もこの姿になってから……見え方が変わった……距離がわかりやすい……」
「見た目も獣っぽさが抜けて猿っぽい顔になってきたわね 」
ルナの説明を受けながら時代を少しづつ進めてみれば、キツネザルモドキのほかにもスローロリスのような猿もチラホラ見られるようになってきた。
「彼らの器用な手先は様々な刺激を脳に与え、知能の発達を促します。奇しくも地上から追い立てられ、樹上に生活の場を移したことが人類誕生の第一歩だったのです」
「環境による外圧が新たな進化を促す……だっけ? モグラと猿ではだいぶ違うけど……」
「えぇ、大きな分かれ道でしたね。他の哺乳類も多様な進化を遂げて、新生代が半分以上過ぎた頃には現代でも見られるような生物種が多数生まれてきます」
色々と見覚えのある動物が増えてきたが、草原にはマンモスやサーベルタイガーなどの動物もまだ多く見られた。
その様子をひとことで表すならば『世紀末なサバンナ』だろうか。
こんな過酷な環境で無事に人類は誕生できるのだろうか……?
……うん、がんばれ! 人類のご先祖様!




