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2 期待の超新星

 地球が存在する世界とは別の異世界……

 暗黒に包まれた宇宙の中でまばゆい光を放つ古き恒星がその長い生涯を終えようとしていた。

 輝きの源である核融合反応、それを起こしていた燃料が尽きて今、光を失った。

 次の瞬間、膨大な光と熱のエネルギーで支えられていた質量が重力崩壊をおこし急激に中心部へと落ちていく。

 星を構成していた物質が一気に圧縮され、その刹那、天文学的な圧力と熱によって星のすべてを利用した最後の核融合反応がおこる。

 五〇光年先まで焼き尽くす極光と、秒速一〇〇キロメートルにも及ぶ爆風が宙域へと弾ける。

 恒星の最後の輝き……超新星爆発である。

 

 物理法則と時空間すら歪めかねないこの爆発は、星の終わりと同時に新しい星の誕生のきっかけでもある。

 まさにこの時この瞬間、私の意識は新しい世界へと転生を果たしたのだった。

 


 超新星爆発のエネルギーで、星を構成していた原素はガスやチリとなって猛烈な勢いで拡散した。

 やがてそれらは長い年月をかけて集結することで、いくつかの星として生まれ変わるだろう。

 その新しい星の核となる重金属のガス雲のひとつに私の意識は存在していた。

 

「綺麗……」


 眼の前に広がる光景に思わず呟く。

 超新星爆発の余韻で広がったガス雲は何千、何万度という高温で色鮮やかに輝き、不規則にその領域を変動させながら拡散していく。

 それはまるで様々な色の宝石が水に溶けて輝いているような幻想的な光景だった。


 転生する前は不安しかなかったが、今は頭の中にもやがかかったように思考がおぼつかず、目の前の光景と相まってまさに夢心地である。

 それもそうだろう。

 私はいまだ星ですら無く、星の卵のようなものだ。

 あらためて自分の体を見渡してみれば、私が宿った重金属のガス雲とは別に人の形があった。

 だがそれは半透明で輪郭すらおぼつかない、今にも消えてしまいそうなものだ。

 まるで幽体離脱のようだと思ったが、実際ここに存在しているのは前世の私の魂的な物なのかもしれない。

 私は幻想的な光景を見つめながら、ただ微睡みの中で揺蕩うことしかできなかった。

 



 この世界に転生してからしばらく経った。

 超新星爆発で拡散したガスの大半は近くの星の引力に引かれて吸収されたりするらしいが今回は近くにそういった星がなかった。

 拡散したガス星雲の中で密度が偏って重力の強い何箇所かに、徐々に原素が集まってきいる。

 私のところにも少しずつガスやチリが集まってきており、ある程度の大きさになって赤く輝き始めていた。

 恒星サイズではないため温度も低いようだが、それでもおそらく数千度はあるだろう。

 大きな塊が合流するたびに私の意識も徐々にクリアになっていく。

 そのおかげか今では自分の星の周りなら、ある程度自由に動き回れるようになっている。


 意識がはっきりとして気づいたことがあるが、人だったときと比べて時間の感覚がだいぶ違う。

 私の中ではまだ転生してから三日程度なのだが、おそらく実際には数千万~数億年は経過していると思われる。

 時計もないこの状況でそれに気づいたのは、せっかくだからこの世界の星座でも作ろうかと周りの星を観察していた時だった。


 星が動いていた。

 誰しもそんなの当たり前じゃないかと思うだろう。

 しかしそれは一般的な『自転する地球』からみた話だ。

 自転しているのだから相対的に星空はすべて弧を描くように同じ方向に動いて見える。

 といっても人の目でわかるほどのスピードではないが。

 私が見た星空はそうではなかった。

 星の移動が目に見えてわかるほどでの速さでそれぞれが別な方向に動いていたのだ。

 まるでたくさんのビリヤードの玉が、縦横無尽に動く様子をスローモーションで眺めているようだった。

 一瞬どころかしばらく目を疑った。

 そんな有り様だからちょっと目を離せばガラリと星の配置が変わっており、星座を作るどころではなかった。

 前世の太陽系だって二億年以上をかけて銀河の中を公転しているのだ。

 絶対的な座標に静止している星などなく、長い年月をかければ星の配置は変わるし自分がいる惑星の位置も大きく変わる。

 その長い年月の経過によってもたらされる変化をほんの僅かの間に知覚できていたのだ。


 それだけならこの世界の星が異様に早く動いてると無理やり説明できなくもないのだが、それに気づいてからよくよく星空を観察して気づいたもう一つが決定的だった。


 多くの星の色が変わり、その中のいくつかは消えていったのだ。

 通常、恒星は青、白、黄、橙、赤の順に温度が高くおよそ一万度から四千度と言われている。

 若い星ほど温度が高く、古くなるほど温度が下がり光の色も変わっていく。

 太陽の寿命はおよそ百億年。

 恒星の寿命は体積比に反比例し、太陽の十倍の質量なら千分の一の一千万年と言われている。

 つまり多くの星の色が変わったということは、それだけ時間が過ぎたということに他ならない。

 それもおそらく数千年……もしくは数億年単位で。


 そこまで考えたところで思い至ってしまった。

 このままだと私の体感で百日もしないうちに自分の星としての寿命が訪れてしまうのではないのか? ……と。 


 まぁ細かいことは気にしてもしょうがない。

 それに人のときの感覚でこんな長い時間を無為に過ごすのは精神的によろしくない……

 某究極生物のように、『――そのうち私は考えるのをやめた』状態になりかねない。

 超新星爆発の直後なんていう普通じゃ見ることなんかできない物も見せてもらったし、『ハズレ』に転生した割にはこれだけでも儲けもんだと開き直ることにした。


 もうあまりにスケールが大きすぎて、成るように成れと半ば投げやり感はあるが……期待の超新星はどっしりと構えていれば良いのである。


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