27 インパクト
「そういえばまだ白亜紀の途中だったじゃない!」
海の生き物たちが映るワイドビジョン覗き窓をアクアリウムに見立てて、のんびりとスイーツタイムを堪能していた私達だったけど画面を優雅に泳ぐアンモナイトを見て唐突に思い出した。
「そうでしたね。一度片付けてから続きへと参りましょうか」
「んあっ……」
ルナが指を鳴らすと、残っていたおやつやティーセットは光の粒子となって消えていく。
木の実をラヴィーが慌てて口に頬張るが消滅しかかっているためか、ラヴィーの口から光が溢れてきている。
「ラヴィー、またおやつの時間になったらルナが出してくれるから……」
「ん……木の実が……口の中で溶けて……新食感……」
ラヴィ子! それ溶けてるんちゃう! 消えてるんや!
まぁ似たようなものか……美味しそうだし私も今度試してみよう!
「それでは白亜紀の続きとなります。恐竜たちの繁栄の裏でひっそりと生き延びていた哺乳類も大きな変化がありました。それは卵生から胎生になったことです」
覗き窓には木の穴に巣を作った小さな生き物がもぞもぞと動いている様子が映し出された。
その小さな体の下では生まれたばかりの赤ん坊達がみぃみぃと鳴いており、もぞもぞと動いていたのは赤ん坊の毛づくろいをしている母親だった。
「卵生に比べて出生数は減りましたが母胎で大きく育てることができたため、子供の生存率は遥かに上がりました。この進化がなかったら人は卵から生まれる世界になってたかもしれませんね」
「あれ? 哺乳類なのにいままで卵だったの? おへそがあるのが哺乳類って覚えてたのに……」
「進化の途中ですからね」
「そっか、まだまだ哺乳類なりたてってことね」
「地球でも極一部ではありますが、カモノハシやハリネズミの仲間など卵生の哺乳類はいましたよ」
「……私は卵から生まれたけど……おへそある…………ん~?」
ラヴィーは服の裾をめくって自らの腹部を確認するが、卵生なのにへそがあるという矛盾に首を傾げてしまった。
そんなラヴィーの頭をシアは優しく撫でながらふんわりと抱きしめる。
「ラヴィーはいろいろ特別だからね~」
「ん……シア様が……おかーさん」
「シア様ずるいです。といいますか人の解説中にいちゃつかないでください!」
「えーいいじゃなーい。親子のスキンシップよ!」
「ん……シア様……いいにおい…………物知りなルナおねぇちゃんも……好きだよ……?」
「むーー! 仕方ないですね! ラヴィーちゃんの可愛さに免じて許します!」
ルナさんちょろい。
ラヴィーにはほんと甘々だな!
ラヴィーはソファに座る私の太ももに膝枕をしながら腰に手を回している。
すっかりいつもの体勢になってしまった。
「だいぶ見てきたけど白亜紀もそろそろ末期かしら?」
「そうですね。そしてその白亜紀末期には生物の大量絶滅があります」
「……恐竜を滅ぼしたっていう巨大隕石だっけ?」
「はい。ですがそう都合よく隕石は落ちてきません。ですのでシア様の『女神の鉄槌』で擬似的に再現します」
「前にもやったあれよね。わかったわ」
「地球の地質調査では直径十~十五キロメートルの隕石がおよそ秒速二十キロメートルで落下したと言われていますが、現在その大きさの小惑星は軌道上にありません。ですので私の補助で代わりの小惑星を相応のエネルギーになるように速度調整いたします」
私は『女神の鉄槌』の準備のため腕を目の前に伸ばして指を弾く構えを取って、『星の願いを』を利用する際のイメージをルナとパスを繋げて共有する。
ルナが必要な隕石のエネルギーを算出し、それに見合った力の大きさと向きを表す円錐状の仮想領域をターゲットとなる小惑星付近に展開させる。
そのイメージに合わせて『女神の鉄槌』の発動に必要なイメージを構築していく。
ふと私は自分の都合で殺してしまう生命に思いを馳せる。
陸上でなんとか生き残った小さな恐竜達も、海で繁栄した恐竜達もこの隕石で滅びるだろう。
「私の都合で命を弄ぶなんて……ほんと罪深いことよね……」
「私はどこまでもついていきますよ。シア様」
「……だいじょうぶだよ……シア様……私もいる……」
「ありがとう。ルナ。ラヴィー」
私は……覚悟を決めて指を弾いた。
この日、大地に降り注いだ隕石の影響で、惑星上の七〇%の生物種が絶滅し栄華を誇っていた恐竜もその姿を消したのだった。




