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25 海竜大決戦

「でもせっかく生で大迫力の恐竜達を堪能できるかと思ったのに残念ね……」

「……シア様……ごめんなさぃ……」

「んーん、ラヴィーはちっとも悪くないわよー」

「でも……シア様楽しみにしてたのに……」

「……ラヴィー……」


「恐竜、いますよ」

「え!?」

「シア様は陸上の調整を担当なさっててご存じなかったようですが、恐竜なら海にいますよ」


 いましがた壁に窓を作り、そこから顔を出したルナはワイドビジョン覗き窓の景色を海へと変える。


 そこには巨大な竜がいた。

 大きなヒレを巧みに使って海中を進み、長い尾でバランスをとり蛇のようにうねる首で魚を捕食するその竜は海へと進出した恐竜……首長竜だ。

 現代と同じような姿の魚が多く泳いでいたが首長竜は群を抜いて大きくそして勇ましかった。



 三畳紀後期に現れジュラ紀と白亜紀を通じて栄えた首長竜だが、彼らには大きく分けて二種類いる。

 首が長いものと首が短いものだ。

 首長竜なのに首が短いとはどういうことなのか? と思うかもしれないが水棲の恐竜をまとめて首長竜と呼称するので仕方がない。

 なんでそんな話を持ち出したのかと言うと、今その両者が海中で睨み合っているからだ。

 

 小さめの頭に胴体より長い首と尻尾をもちなめらかな肌の巨大な首長竜と、首は短いがワニのように巨大な顎と鱗に覆われ引き締まったスマートな体と太い尻尾の首長竜。

 普段は住処の違う両者が出会ってしまったのは、海水温の変化にともない餌の生息域が変わったせいか、はたまた繁殖期にともなう縄張りの拡大かは判らないが、お互いに引くといった選択肢はないようだった。


 先に仕掛けたのは『ワニ顎』、体全体をバタフライ泳法のように蠢動させて高速で『首長』へと迫る。

 首の目前で巨大な顎を開き急所である首へと噛み付こうとするが、首長は首の動きだけで難なく躱す。


 噛みつきが空振りに終わったワニ型はそのままのスピードで通り抜け、首長の牙が届かない距離に達してから水泳のターンのように体を折りたたむようによじって方向を転換し、再び首長の胴体へと突進を仕掛けてきた。


 流石に躱しきれないと踏んだか、首長がヒレを使って回避行動を取る。

 首長はワニ型の噛みつき突進を躱しながら首を上手に使い、すれ違いざまにワニ型のヒレの一部を噛みちぎり、海中にワニ型の血が薄く広がっていく。


 ヒレの傷が痛むのか一瞬たじろいだ後、ワニ型は先程より距離をとってからターンをしてその場に留まる。

 助走を長くとり素早く食らいつくつもりか、軽く身震いしながら再びワニ型が突進を仕掛けるが、首長はそれを見て先程より早めに泳ぎだして回避行動をとり、再び噛み付こうと待ち構える。

 

 猛スピードで迫ったワニ型の突進は首長に難なく躱され首長が追撃を加えようとした瞬間、ワニ型は首長の真横でターンをし、キリモミながら首長の左後ろヒレの根本へと噛み付いてきた。

 

 ブワッと広がる首長の血はその傷が浅くないことを物語っているが、不安定な体勢で無理やり食らいついたためにワニ型の顎の力は充分に発揮されていなかった。

 噛みつき直そうにもこの近距離では首や尻尾を器用に動かせる首長に巻き付かれて絞め殺されかねない。

 

 いっぽう首長もやられっぱなしではない。

 後ろヒレの根本に噛みつかれたままだが、長い首を活かし反撃へと移る。

 ワニ型の左前ヒレ、首、頭部、上唇、左目……噛みついているのを活かして猛攻をくわえていく。

 しかしワニ型はびくともしない。

 首長の頭部は小型で牙も相応に小さく、いくら攻撃を加えてもワニ型への致命傷へとはならなかった。


 膠着状態に陥った両者だったが決着は唐突に訪れた。


 それは一匹の乱入者、肉食の大型魚類だ。

 大型と言っても首長竜に比べれば格段に小さいその魚は、血がにじむワニ型のヒレへと噛み付き少量の肉を削り取っていく。

 その程度で動じるワニ型ではなかったが、ふと気がつけば血の匂いに誘われた数十の肉食魚の群れが首長竜達を取り囲んで周遊していた。

 

 先程の一匹を皮切りにして次々と首長竜へと殺到してくる肉食魚達。

 ワニ型は首長への噛みつきを中断して襲い来る魚に牙を向ける。

 素早く閉じられた口には一匹の魚が捉えられ、鋭い牙で魚の胴体はズタズタになっていた。

 他の魚は硬い鱗に阻まれワニ型に噛みつけずにいたが、何匹かは鱗の薄いヒレの肉をこそぎ落としていった。

 

 五匹ほどの魚を仕留めた時にはワニ型のヒレはほぼ失われ根本からは骨が露出していた。

 満足に泳ぐことができない状態では魚たちの猛攻を凌ぐこともできず、ついに食い破られた腹部からは血と臓物が飛び出し海中をどす黒く染めていく。

 周りの魚たちも我先にと群がり肉を食いちぎっていく最中、どす黒い血煙の中から巨大な顎が飛び出して群がる魚を噛みちぎった。

 手足を失い臓物を食われながらも体のバネを生かして射程圏内の魚を次々と食いちぎっていくその姿はまさしく海の王。

 その闘争本能は凄まじく、まさしく『竜』の名に恥じぬ姿であった。


 しかしその闘争も圧倒的な数には抗えず、彼はその体積を徐々に減らしていく。

 やがて竜は骨だけを残し……暗い水底へと沈んでいった。





 いっぽう首長は襲撃早々にガッ! ガッ! ガッ! と三匹の魚が首に食らいつき、鯉のぼりのような絵面で即死していた。


 ワニ型のように奮闘して欲しかったが、運が悪かったとしか言いようがない……



 首長竜の決闘に乱入した魚たちをよく見れば、その姿は現代でも馴染み深いものだった。

 古生代から現代までほぼ変わらない姿で種を残してきた生きた化石……大型の軟骨魚『サメ』である。

 獲物を食い尽くしたサメ達は骨となって沈みゆく竜の骸を気にも留めず、ゆったりと周遊するのであった。

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