22 贖罪
人類誕生という目標のため、私の力で何度も生き物を淘汰してきた。
殺すことに罪悪感はある……しかしいつの日か何も考えずに事務的に命を取捨選択するようになるんじゃないか……そう思うと不安でたまらなかった。
そんな中で起きた巨鎧種騒動。
最後に残ったカブトはちゃんと自分の手で屠ってあげたかった。
自分でもエゴだということはわかっている。
けじめだなんだと言いながらも、結局は自分のための贖罪でしか無い。
それでも……それでも私は、命の重さを再認識したかった。
流されてしまわぬよう…………忘れてしまわぬように。
ありがとう、カブト。
あなたのおかげで私は自分を見失わずにいられそうだ。
せめて最後は、安らかに
「そういえばシア様も酸欠で死にましたね」
「思い出させないでよぉ……というかそれ今言うことかな? ん? ん?」
私を気遣ってかルナが珍しく軽口を叩く。
いつまでも落ち込んでられないと顔を上げたとき、カブトの体に起こった異変に気がついた。
「あれ……? なにこれ……カブトの体が光って……」
「これはカブトの魂ですね。長命で知能が高い生き物の魂は大きく強い輝きを放ちますが、この魂の大きさと輝きはすごいですね。シア様には及びませんが低級の神に準ずる大きさです」
「これってこれからどうなるの……?」
「いかに大きくても魂だけでは何もできませんし、このまま放置しておけば自然と星に還元されていきます。シア様の力も大きく上がるはずですよ」
「そう…………」
「どうしました? シア様」
「ルナ…………私は……この子が望む形で、もう一度生きられるようにしてあげたい」
ほんとに少しだけど……魂がむき出しになった今ならわかる。
突然変異として生まれたこの子が今までどれだけの孤独に耐えてきたのかを。
ならばせめてもう一度ぐらいは、普通の生き物として生きてほしい。
何が原因かはわからなかったが、私の都合で殺してしまった償いでもある。
「わかりました。魂は生まれ変わった生き物にあった大きさになりますが、くれぐれも巨鎧種のような規格外の存在には生まれ変わらせないでくださいね」
「わかったわ」
私はカブトの魂へ手を向け、この星に存在する生き物の中でカブトが希望するものに生まれ変われるようにと願いながら『星の願いを』を発動した。
カブトの魂から溢れた光が辺りを照らし、魂の輪郭がカブトが願う形へと収束していく。
ひときわ明るく輝いたあと、魂があった場所にはカブトが望んだ姿があった。
そこにいたのは白く透き通った肌に赤い長髪が印象的な、眠たげな瞳の少女であった。
虫の触覚のように左右に束ねられた髪の毛がぴょこぴょこと可愛いらしく動いている。
人型となったカブトは突然のことに狼狽しながらも、私と目が合った途端に勢いよく突進してきた。
「ぐへぇっ!! あばばばばばばば」
人型となったカブトの身長は私より低めだけど、姿勢を低くして勢いよく抱きついてきたため頭が思い切りお腹にめり込んできた。
カブトは私の腰に手を回して強く抱きしめ追い打ちで激しく頬ずりしてくる。
「ってあれ!? なんで人型に!? いま星に居る生き物に限定したはずなんだけど!?」
「シア様……『いま』ですと『人型の私達』も居るのですが……」
「あっ……」
顔からサーーと血の気が引いていく。
私やらかした? はい、やらかしましたね!
あぁぁぁぁぁ…………お、落ち込んでても仕方ない少しでも状況を確認しなければ。
お腹にめり込んだままのカブトを優しく抱きしめながら、とりあえず話しかけてみた。
「わ……私はシア。あっちはルナよ。あなたは……えーとなんて呼んだらいいのかしら?」
そもそも巨鎧種だったカブトに名前の概念があったかも怪しいが一応聞いておく。
「……わたしは……ラーヴィー……あなた達が……カブトと呼んでいた個体……」
まだ人型に慣れていないのか、少しづつ紡ぎ出された言葉はたどたどしいものだった。
「……この姿になった時……知らないことが……頭の中にたくさん流れ込んできた……おかげで大体の事情は……把握してる……」
「それなら話は早いんだけど……ラーヴィーはどうしてその姿を望んだの? 私の勝手な都合であなたもその子供も殺してしまったのに……」
「……あの子達は……私とは似て非なるもの……共に歩めなかった……それに自然界は弱肉強食…………この姿を望んだのは……シア様が私に……優しくしてくれたから……同じくなりたくて……」
「シア様……こんないたいけな子をたらしこむなんて……」
「だれがたらしじゃぁい!!」
うーむ、しかしどうしたものか。
こんな子をひとりで恐竜時代においていくわけにもいかないし、なによりさっきから私の腰にしがみついて離れないんだけど……
「ルナ、私この子を神の部屋に連れて行くわ」
「それしかないですね。ほとんど消滅するはずの魂もその大きさのまま宿っていますし、なぜか神格も得ているのでこのまま地上には置いていけません」
「……ん……いっしょ……」
「それじゃ帰りますか、マイホームへ」
ラーヴィーを神力で部屋へと転移させ、私とルナも分身体を光に還しながら意識を本体へと戻しその場を後にした。
部屋に戻るとひと足先に着いていたラーヴィーが、ソファに腰掛けていた私の腰元にしっかりとしがみついていた。
いや……懐きすぎじゃないですかね……?
「あの、シア様よろしいですか?」
「なになに?どしたのよ?」
「ラーヴィーという名称で記録庫を精査したところ、『古生代の終わり』ごろのペルム紀にシア様が『ラーヴィー』と名付けた個体が見つかりました。」
「……はい?」
「場所は巨鎧種のトンネルが始まった地点と一致します。」
『『うんうん、大きく育つんだよラーヴィーちゃん』』
「…………あ!」
「その際、名付けが擬似的な加護となって『星の願いを』の力を一部行使できていたようです。異常な長命や巨大化、そして高い知能や生まれ変わった際の神格付与はおそらくその影響かと……」
ま た や ら か し たーーーーーーーーーーー!!!!!
てかやらかしてた!
なになに!? 今回の巨鎧種騒動は私がなんとなーく付けた名前が原因だったの!?
オーマイゴッド!! いやいや私が女神だよ!! 見習いだけどね!
あっはっはっはっは……
「すいませんでしたぁ……」
「いえ、私も名付けでこのような事態になると予想できませんでしたし、無事解決できたので問題ないです」
腰に回された手が緩められ、密着していたラーヴィーが顔を上げてこちらを見つめてくる。
「……シア様は……私のおかーさん……なの?」
「ん? ん~~? そこらへんどうなるんですかね? ルナさん?」
「なんでこちらに振るんですか……まぁ……名付け『親』ではありますね。いえ、そもそもこの星の命はすべてシア様の子供のようなものです。『母なる大地』ともいいますからね」
「ん、シア様は『親』で『母』……つまり……私の……おかーさん……」
「そ、そうだねー…………うん! それじゃ今日からラーヴィーはうちの子だ!」
「……うれしい!」
私の腰にゆるく抱きついていたラーヴィーが、むぎゅーとお腹に顔を埋めてくる。
いままで誰にも頼ることができなかった彼女には甘えられる存在が必要なんだろう。
つらい思いをさせてしまった彼女に報いるためにも、ここはひとつ盛大に甘やかすとしよう。
「そうだ、ラーヴィーはなにか好きなものってあるー? 出せるものなら出してあげるよー」
「家の近くに生えていた……ギザギザの葉っぱが甘くて好きだった……あと……シアさま好き……でもルナは嫌い……」
「なっ!?」
珍しくルナが目を見開いて驚いた顔をしている。
というかルナのあんな顔は初めてみた。
「……シアさまは優しくしてくれたけど……ルナは私のお腹に角……刺したり……踏みつけたりしたから……」
「ねー。ルナケラトプス怖いよねー?」
「シア様まで! あのときは仕方が……ほ、ほらラーヴィーちゃんギザギザの甘い葉っぱですよ?」
ルナはラーヴィーが好きだと言った葉っぱを生成し恐る恐る手渡す。
ラーヴィーはルナからの贈り物ということで警戒していたがしばらくすると口に含み、モシャモシャと食べ始めた。
兎のようなその姿にシアもルナも頬が緩んでしまう。
「……おいしい……ルナも……好き……」
嫌いと言われたことがよほどショックだったのだろうか、好きと言われた喜びでルナはガッツポーズを決めている。
そうして私とルナしかいなかったこの部屋に、かわいらしい同居人ができたのだった。




