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19 覇者の対決

 ――シアノサウルスとルナケラトプス、二体の大型恐竜が動き回る振動は森の奥まで響いていた。

 大空洞にて佇む大型巨鎧種『カブト』にもそれは聞こえてきた。

 それまで沈黙を保っていたカブトであったが、騒音が気に触ったのかそれともただの気まぐれか、巨体を揺らしながらゆっくりとトンネルの入口へと歩きだした――


 

「だいぶ動きが良くなったんじゃない? ルナ!」

「これだけ付き合わされたら嫌でも慣れますよ!」


 どうやらルナはトリケラトプスをお気に召さなかったらしい。

 あんなにかっこいいのに……


 ザワ……ザワザワ……


 何やら森の動物たちが騒がしい。

 なにかから逃げるように森から草原へと飛び出してくる動物が何匹もいた。

 

「どうやらおいでなさったようね……ルナ! 準備はいい?」

「はい。いつでも大丈夫です」


 森の奥から巨大な影が木々をなぎ倒しながら、シア達にむかって歩いてくる。

 森を抜けて草原へと姿を表したのは大型巨鎧種『カブト』

 見るものを威圧するその存在感はまさに巨鎧種の王と呼ぶにふさわしいだろう。

 シア達を明確に捉えたのか、カブトは地を揺るがすようなくぐもった大きな鳴き声をあげた。


「先手必勝! 行くわよ!」

「はい! シア様!」


 私は神力の補正がかかった脚力を活かしてカブトとの距離を詰めて鋭い牙で左側の脚へと噛み付く。

 しかし牙は硬い甲殻に阻まれ浅く食い込んだだけだった。

 そのまま右足の太く尖った爪で蹴り上げようとするが、軽く身をよじったカブトに避けられてしまう。

 だがその絶妙なタイミングで後方に回り込んでいたルナケラトプスが頭部の鋭い角を突き出しながら突進し、カブトの腹部へと二本の角を深々と突き刺した。

 確かな手応えを感じた私達は一度カブトから距離を取った。

  

「タイミングばっちりね!」 

「えぇ。今のでおそらく気嚢を損傷させたはずです。呼吸器系にダメージがあれば運動能力も著しく落ちるはずです」

「そうね! どんどん行くわよ! ……って……あれ?」


 次の攻撃を行おうとカブトの方を向いた時、異様な光景を目にした。

 カブトの腹部に空いた2つの穴から粘性のドロドロとした体液が染み出し、空気に触れたところから固まっていき琥珀色をした半透明なかさぶたが傷口を完全に覆ってしまったのだ。


「あれじゃ無敵じゃない!」

「いえ、表面を塞いだだけのようです。内部のダメージはありますから多少の効果はあると思われます」


 予想外のことに狼狽えていた私の隙をカブトは見逃さなかった。

 カブトの背中が真ん中から開き、血管のような赤い筋が幾本も走った三対六枚の翅を展開した。

 翅を激しくはばたかせ、カブトは私に向かって鋭利な角を突き出しながら突進してくる。

 その速度は今までの比ではなく、油断していた私の喉元へ一直線に迫ってきた。

 しかしその必死の一撃も突如割り込んだルナの首周りにある堅牢な盾で逸らされ、私の肩部を薄く切り裂くにとどまった。

 カブトは突進の勢いのまま距離を取り、片側の足を地面に引っ掛けながらすばやく方向転換を終えている。

 私達は再び睨み合いの状態になった。

 

「ありがとう助かったわ」

「感謝は後で……次が来ますよ!」


 先ほどと同じように翅を広げたカブトに対して私は姿勢を低くして身構える。

 カブトは警戒したのかルナとは反対側から大きく弧を描いてこちらに迫ってきた。

 しかし万全の体制で迎え討った私は、角をかわして横合いから思い切りカブトを蹴りつけた

 爪で損傷を与えることは出来なかったけど地面に転がす事はできたようだ。

 姿勢を崩したカブトの脚を咥えて体を捻りながら体重をかける。

 全身を使ってサブミッションさながらにカブトの巨体を押さえ込む。

 そこに助走をつけたルナが突進してくる。

 押さえ込んで動けなくしてから、修復できなくなるまで何度でも突進を繰り返そうという作戦だ。

 突如バギィッと嫌な音が耳元から聞こえてきた。

 それと同時に丸太のようなカブトの脚が横薙ぎに叩きつけられ、ルナは真横に吹っ飛んでいき木をなぎ倒しながら地面を転がっていった。


 カブトは自ら脚を折って押さえ込まれた状態から脱していた。


 脚に噛み付いて押さえていた私はバランスを崩し、予想外の出来事に状況が飲み込めなかった。

 カブトに密着している状態でまたもや隙を晒した私は容易に大地に組み伏せられた。

 喉元にカブトの鈍く光る鋭い牙がガチガチと音を鳴らして迫ってきた。

 後ろ足で払いのけようと抵抗するが、昆虫特有の返しのついた脚がしっかりと皮膚に食い込み離れる気配がない。

 

 膠着状態ではあったがカブトの牙はじわりじわりと距離を詰めくる。

 私がもうだめかと諦めかけたそのとき、草むらから飛び出したルナが猛烈な勢いのまま両前足でカブトの腹部へとスタンピングを叩き込んだ。


 ベキッと甲殻がひび割れ、ギィィィと叫び声を上げてカブトはのたうち周りながら距離を取った。

 ようやく開放された私は素早くルナの隣で反撃に備える。


「大丈夫ですか? シア様」

「えぇ、問題ないわ。でも……」


 体勢を整えこちらに向き直ったカブトはギチギチと顎を鳴らし、時折羽を広げてブゥン! と蜂の羽音のような音をだしている。

 初めて見るカブトの威嚇行動だ。


 手傷は与えられたが予想以上に頑丈で賢く、本気で警戒された今では致命打を与えることは困難を極めるだろう。 


「うん、いままで本気じゃなかったのね。このままじゃ無理だわこれ」

「そんな無責任な……」




 私達はここに来て手詰まりとなった。

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