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16 巨鎧種

 むしむし観察日記をつけ始めて数日が経過した。


「ルナ! 唐突だけど調査目標を『巨鎧種』と名付けるわ! 一番でっかいのは『カブト』よ!」


 キラーン!


「わかりましたからドヤ顔してないでちゃんと生態観察しててください」

「しーてーるーわーよーー」


 なにもサボっていたわけではない。

 私だってやるときはやるのだ。

 巨鎧種を観察してわかったことと、それによって生まれた疑問がいくつかある。

 まずは食事に関して。

 雑食で何でも食べるが肉食の割合が多く、その体の大きさの割には食べる量がかなり少ない。

 小さい巨鎧種でさえアジアゾウほどの大きさがあるというのに、あんな少食であの巨体をどうやって維持しているのか。

 ちなみにアジアゾウの体重はおよそ三トンで一日に食べる野菜はおよそ五〇キログラムほどだが、巨鎧種はその一割も食べていない。

 とはいえ数がかなり多くて生態系に及ぼす影響は無視できない。


 そもそもあの大きさが異常だ。

 この時代の酸素濃度に比べて大き過ぎる。

 今より酸素濃度が最も高い石炭紀でさえあそこまで巨大な昆虫はいなかったし、あの食事量であそこまで成長する事ができるものなのだろうか……


 他にわかったことといえば、あの一際大きな個体は一匹しかいないということと、巨鎧種同士は形が違っても群れを作るということぐらいだ。

 あまりに歪な進化と生態……なんとしてもこの異常事態の原因を突き止めなければならない……が、繁殖方法が未だ不明であったりまだまだ情報が足りない。


 もうしばらく観察が必要だろう。




 あの大きな巨鎧種の集団が恐竜の群れに遭遇した。

 ここ数日で一番大きな群れで、一個体の大きさも通常の巨鎧種より大きい恐竜だ。


 いつものようにカブトがその巨体を生かして勢いよく突っ込んでいき、恐竜たちは混乱と怒りで叫び声を上げる。

 一部の勇敢な恐竜は牙で噛み付こうとするが硬い甲殻に遮られて文字通りが歯が立たず、目にも留まらぬ速度で振るわれた大木のように太い足で吹っ飛ばされてあえなく絶命した。

 他の巨鎧種も次々に群れへと襲いかかる。

 体格では劣っているものもその圧倒的な数を活かして蹂躙していく。

 しかし恐竜側も必死に抵抗を見せておりなかなか決着がつかない。

 そんな中、ある一匹の恐竜の体当たりが小さな巨鎧種にあたり、バランスを崩した巨鎧種は複数の恐竜に囲まれる形となった。

 珍しく巨鎧種側に被害が出るかと思われた次の瞬間、取り囲んでいたうちの二匹がカブトによって踏みつけられ、あっけなく絶命した。

 取り囲んでいた別の恐竜もカブトの鋭利な角に串刺しにされてビクビクと痙攣している。

 

 恐竜に運がなかったように見えるが、私にはカブトがピンチに陥った仲間を助けたようにも思えた。

 まだ確信はできないが、どうやらあの個体にはある程度の知能があるのかもしれない。


 恐竜たちの抵抗もむなしく最後の一頭が複数の巨鎧種に絡まれ、体のいたるところから血を吹き出しながら地に倒れた。

 それを確認したカブトはくぐもった鳴き声を上げる。

 その鳴き声を聞いた途端、巨鎧種たちは今まで齧っていた恐竜の死骸を持ち上げて森の方へと運び始めた。

 今回の狩りは流石に被害ゼロというわけにいかなかったのか、動かなくなった巨鎧種の骸が幾つか見てとれた。

 カブトは動かなくなった巨鎧種の骸をしばらく見つめたあと、向きを変えて群れへと合流していった。




 森に入ってから半日ほど進んだころだろうか。

 てっぺんに大きな穴が空いた円錐状の小高い丘が現れた。

 巨鎧種たちは次々にその丘を登って穴に入っていく。

 おそらくここが彼らの巣なのだろう。

 視点を移動させて巣の中を観察すると巨大なトンネルを中心に、壁に小さな枝道が何本も作られていた。

 入り口の近くには大きな空洞があり、そこには巣に戻ったカブトが鎮座している。

 その周りには五〇センチほどの卵が無数にあり、少し離れたところには一メートルほどの巨鎧種の幼虫が今しがた届けられた餌をバリバリと音を立てながら食べている。

 成虫に比べるとものすごい食欲だ。

 大空洞の壁は蜂の巣状に区切られてひとつひとつに蛹が詰まっており、今しがた孵化した二匹の巨鎧種は全く違う形をしていた。

 信じがたいことだがカブトから多種多様なすべての巨鎧種が生まれているらしい。

 念の為に大空洞から伸びるトンネルをたどってみたところ、その直径は少しずつ狭まり最終的には数センチになりながらもなんと数万キロメートルに渡って掘られていた。



 というかカブトってメスだったの……角があるのはオスだったはずなんだけど?

 つがいになるような個体が確認されてないから単性生殖なのかもしれないけど……

 そもそもこんな大きくて長いトンネルは何のために掘ったのかしら……

 小さい枝道は通常サイズの巨鎧種の寝床みたいだけど……

 少しずつ狭まっていくこの異様な作りも謎だし……


 いや……もしかして逆……?

 トンネルの始点は細いほうで、数センチの幼虫が少しずつ大きくなりながら掘ってきた……?

 そしてあの大空洞で蛹から成虫になって地上に出てきた……とか?

 セミのように数年間土の中で過ごしたあと地上に出てくる虫も居るけど、この距離を掘るのにかかる時間が問題よね。

 このトンネルは全長数万キロメートル……一年で一〇キロメートル掘っても数千年はかかる計算……

 いったいカブトは何年生きてきたのか……


 巣を発見できたし生態調査も進んだけど、わからないことも増えちゃったわね……

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