14 古生代の終わり
部屋を温めながら地表の様子を観察していると日が差し始めていた。
「氷河期になり森林が減ったことと、木材を完全に分解できる微生物が台頭してきたことで炭素は大気へと還元され酸素濃度はどんどん下がっていきます。この氷河期の終わりは石炭紀の終わりでもあり、ペルム紀の始まりでもあります」
「なるほど。あ~だいぶあったまってきたわ」
「ペルム紀になるとシダ植物の他にイチョウ類などの裸子植物も誕生します。地上の植生もより豊かになっていきますね」
「イチョウってことは銀杏とか食べられるようになるのかしら!?」
「シア様……なんでそんなに食い意地張ってらっしゃるんですか……」
「いや、みかん食べられないってわかったら食べ物がきになっちゃって」
「まだ食べられるような味じゃないと思いますよ。現代地球でも食べられる品種だけ人為的に増やされてるわけですから」
「むーなかなか美味しいものにありつけないわね」
「ムカデでも唐揚げにしましょうか?」
「なんでよりによって虫なのよ! もー次行きましょ! 次!」
「それでは次へ参ります。地上では巨大な両生類と爬虫類が繁栄するなど豊かな生態系が構築されます。この頃に昆虫は蛹になってから成虫へと変わる完全変態を獲得します」
熱帯雨林のときと違って乾いた感じはするが、それでも緑豊かな風景の中では灰色や薄緑色の大きなイグアナのような生物が何匹も日向ぼっこをしていた。
背中に大きなヒレを持ったものや、木に張り付いた小さなものまで実に多種多様だ。
水辺に近い木々の根本には湿り気を帯びた枯れ葉が積もっており、その中では能力の補正によって丸みを帯びたメルヘンチックな虫の幼虫が腐葉土を一生懸命もぐもぐと食べている。
うんうん、大きく育つんだよラーヴィーちゃん。
ちなみにラーヴィーとは英語で虫の幼虫全般を指す単語だ。
「ペルム紀は生物が生まれてから一番暑い時代といわれています」
「あ、やっぱり? 氷河期と比べてずいぶん暑いわねー」
こたつとストーブを片付けてから、髪を束ねて薄着となった私はうちわを片手に半袖の下から風を送り込む。
うん、涼しい。
「シア様、はしたないですよ。もう少ししっかりとした振る舞いをですねぇ……」
「う~ん、もう少しこのままでー」
「仕方ありませんね……先へ進めますよ。地球では大陸移動による環境変化も大きかったのですがシア様の場合は能力による補正が大きいようですね」
この星の大陸は調整した当初からほとんど動いてない。
おそらくは大陸部で地震が起きにくいようにプレート境界を調整したせいだろう。
石炭紀の氷河期も地球では大陸が南極域まで移動したことも要因として大きかったが、この星の場合は二酸化炭素濃度をより低くすることで氷河期が来るように能力の補正が働いている。
この暑さも二酸化炭素濃度が高めになることでもたらされているのだ。
ここに来て温暖化問題である! おもに私の体感温度的な意味で。
「そしてペルム紀の末期には地球史のなかでも最大規模の大量絶滅が起こり、生物種の九割以上が滅びました。この最大の大量絶滅は、同じく最大規模の火山活動によって引き起こされたと考えらています」
窓に映る山々が轟音を上げて爆発し、真っ赤な溶岩をその火口から吹き出している。
私の肌が荒れないか心配になったが、地上はそれどころではなかった。
空は火山灰に覆われて日が遮られたことで、光合成が満足にできなくなった植物が次第に枯れ始めそれらを餌にしていた動物たちも次々と姿を消していく。
「火山活動によって発生した二酸化炭素が温暖化を進め、これによって深海のメタンハイドレートが大量に気化し、メタンによる温室効果でさらに気温が上昇するという悪循環に陥り、環境は激変してしまいます」
「悪意を感じるレベルの連携ね……」
「さらに急激に増加した大気中のメタンは酸素と化学反応することで大気内の酸素濃度は急激に低下しました」
「火山に温暖化に低酸素……そりゃ九割以上の生き物が滅びるのも仕方ないわ……むしろよく生き残った生き物がいたものね」
「この低酸素環境の時代にいち早く対応したのは当時、発達した肺機能を持っていた生物種です。彼らはその優位性を活かし、次の時代の覇者となっていきます」
「いよいよ哺乳類の時代ね!」
窓に映る景色の中で小さなネズミモドキが周りの様子をうかがうように立ち上がっている。
「いいえ、哺乳類の先祖となる単弓類は低酸素環境に対応できずに衰退いたしました」
一瞬何かが横切ったと思ったらすでにネズミモドキの姿はなく、猫ほどの大きさのトカゲのような生き物の口元に咥えられていた。
「多くの種が生まれて覇権を得ては滅んでいった古生代と違い、中生代はある生物種がその覇権を得ます」
あぁ……そうだった。
それは史上最も長く繁栄し力強く生命力に溢れた陸上生物。
「中生代で最も繁栄したのは恐竜です」
偉大なる太古の支配者たちの時代がいま幕を開け…………
うん……開けるはずだったのだ……




