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12 天国と地獄

「ルナ……なんだか体が暖かいんだけど……」

「先ほど大量の生き物が一度に死滅したため神格が増したのでしょう」

「どういう事?」

「生き物は星から与えられた微量な魂を宿すことで生まれます。生命は生涯を通して様々な経験をして魂を育てて格を上げていきます。そして死した後に星へと魂が還元されていきます」

「還元された魂の分だけ私の神格も上がるってこと?」

「そういうことです。例外的に一部、もしくはそのすべてが他の生き物に宿って生まれ変わることもあります」

「というか魂って……おばけみたいな?」

「いえ、最初の私のような光の粒です。ですが今いる生き物の魂はまだまだ小さくて神格があっても見るのは難しいです。長命種や知能の高い生き物になると、手の平くらいの大きさにはなりますね」

「へーまだまだ知らないことばかりだわ」


 ルナ先生のためになる授業はまだまだ続く。

 

「次はシルル紀ですね。海では顎や鱗をもった魚類が生まれ、サンゴが大繁殖しました。オルドビス紀に形成されたオゾン層によって地上の紫外線量が減ったことで、生物はやっと海から陸上へ進出します。この頃から脊椎動物が生き物の主流となっていきます」

「やっと上ってきたわね!」


 窓から見える海では今までよりしっかりした見た目の魚と、色とりどりの珊瑚が広がっていく様子が見て取れた。

 海岸線に目をやればラッパのような植物が少しずつ広がっている。

 他にもなにか蠢いているものが居るのだが……あれはもしや……


「まず陸上に進出してきたのは植物と節足動物ですね」


 蠢いている生き物をよく見れば複数の多足動物であった。

 

「げっ! 虫は苦手なのよねぇ……」

「これからの時代は昆虫が繁栄してきますから慣れてくださいね」

「うぅ~私の能力で少しでも可愛い方向に進化しないかしら……」

「その可能性はありますね」

「ほんとっ!?」

「絵本の、とまではいきませんが、まるみを帯びたフォルムなら補正範囲内だと思われます」

「虫よ―! まるっこくなーれ! まるっこくなーれ!」


 私の必死の祈りを横にルナの授業は続く。


「……続けますね。次のデボン紀はシシル紀の流れを大きく受け継ぎます。海では板皮類、淡水域では棘魚類が繁栄しますが、板皮類はデボン紀の末期、棘魚類も古生代末期にはその姿を消します」

「盛者必衰ってやつね」

「といいますか環境要因による自然淘汰ですね。一方この時代に生まれた魚で現代までほとんどその形を変えずに種を受け継いでいるものもいます。軟骨魚類として登場したサメや、肺を持つ魚として有名なハイギョとシーラカンスが代表的ですね。他にも現代の魚のルーツとなる硬骨魚類もデボン紀に大発展を遂げます。あとアンモナイトもこの時代に誕生していますね」

「まさにお魚天国」


 窓から見える海の中ではたくさんの魚が泳ぎ回る中、馴染み深いフォルムのアンモナイトがゆらゆら漂っていた。

 海面では鎧のような皮膚の巨大な強面の魚が跳ねている。あれが板皮類だろうか?


「陸上では前時代のシシル紀に上陸していた多足類とは別に、淡水域に棲む甲殻類から陸棲へと進化を果たした昆虫がその版図を広げようとしています」

「まさに虫地獄」


 陸上ではもぞもぞと虫たちが動き始めていたが……あんまりキモくない?


「ルナあの虫なんだけど……やけにまるくないかしら」

「お気づきになられましたか。先程の願いが叶ったようですね」

「う、うん! 計画通り!」


 必死過ぎていつもの調整感覚で『星の願いを』を発動してしまって確認ウィンドウまでスムーズに処理してしまった!

 いや! しかし! ここは使い所として間違ってないと思う! 少しでも嫌悪感が少ないほうが良いよね!


「陸上の植物もどんどん進化して、種子植物が登場し次第に森を形成していきます。シダ植物もこの頃からすこしずつ繁栄してきます」


 海辺にしか生えてなかった植物達が種類を増やしながら、川辺を中心にどんどん内陸へと広がり森になっていく。


「古い地層の地質調査からデボン紀末期から石炭紀初期にかけては、気候変動や酸素濃度の急激な低下などの激しい環境変化が繰り返し起こり、多くの種が絶滅したと考えられます」


 窓から見える景色から多くの生き物たちが消滅していく。

 賑やかだった海も閑散とし、あの巨大な板皮類の魚もいなくなっていた。


「石炭紀に入ると年間を通して湿潤な熱帯気候となり豊富な降水量に支えられてシダ植物が大繁殖します。森林が広がったことで光合成による酸素供給量が増え、大気中の酸素濃度が三五%まで上昇し、生き物の大型化が進みます。海から陸へと上がった魚類は両生類へと進化し、大型の昆虫と共に繁栄していきます」


 窓に映る森林がぐんぐんと育ち、巨木が絡み合い苔で覆われ湿度の高い熱帯雨林の様相へと変化していった。

 そこは太ったオオサンショウオのような両生類が闊歩し、五〇センチメートルを超える巨大サソリが這いずり回り、広げた翼が七〇センチメートルを超えるような巨大トンボが中を舞い、全長二メートルはあろうかという巨大ムカデが死肉に集るような、混沌とも言える風景だった。

 それでも昆虫はやたらまるっこくて、その大きさと相まってぬいぐるみのようだ。

 他の昆虫をバリバリと捕食してるとこを見なければ、思わず抱きついてしまいたくなるほどだ。


「両生類から進化した有羊膜類は単弓類と双弓類に分岐します。単弓類は哺乳類、双弓類は鳥と爬虫類の先祖となります」


 木の陰から二匹の動物が顔を出す。

 のぺっとした顔のまるまるとしたトカゲと、キリッとした顔の素早そうな細身のトカゲだ。

 私にはどっちが双弓類か単弓類かはわからないが、二匹ともまだ子供なのか周りの草よりだいぶ小さく、可愛らしい見た目で心がほんわかと温まる。

 そんな私の思いをよそに突然まるまるとしたトカゲが何者かに連れ去られてしまう。

 空を見れば先程の巨大トンボがバリバリとトカゲを食していた。

 うーん弱肉強食。

 

「先程、酸素濃度の上昇が生き物の大型化を促進したと言いましたが、植物も例外ではなく二〇メートルを超えるようなシダ植物がどんどんと森を広げていきました」

「まさに生き物の楽園ね」

「そうですね。しかしこのことが石炭紀末期に訪れるある出来事を引き起こしてしまいます。シア様、寿命を終えた木はその後どうなると思いますか?」

「え? そんなの腐って微生物に分解されて土に還るに決まってるじゃない」

「シア様の生きてた時代ではそうです。ですが石炭紀には木材を完全に分解できるほど微生物が進化していなかったため、木材は腐りきらず大量の炭素を地表に留めることになります。これらの木材が化石化したものが石炭ですね」

「だから石炭紀なのね」

「正解です。地表に炭素がとどまるということは炭素化合物である二酸化炭素も大気中から減っていきます」

「ん? それって良いことじゃないの? 地球では温暖化防止のために二酸化炭素の排出量削減なんてやってたじゃない。……あれ? なんかこの部屋寒くない?」


 能力で上着を出して厚着するが、それでも寒気はおさまらない。


「温暖化が問題となった地球では良かったのですが、石炭紀末期の地球では温室効果を持つ二酸化炭素の濃度が減ったため、数百万年に及ぶ過酷な氷河期へと突入してしまいます」


 窓から見える景色は一面の白、白、白!

 空は雲に覆われ寒さで海までも凍りつき降り注ぐ雪は轟々と世界を白く塗りつぶしていった。

 

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