9 原初の海
隕石衝突により荒れていた大気もだいぶ落ち着いてきた。
ルナも『星の願いを』を使えるようになったので、どの程度使えるか確認しながら星を修繕を進めていく。
二人で割れた地表部分を補修して、衝突の余波で加熱された大気もガンガン冷ます。
隕石が落下した衝撃は凄まじくて、落下地点周辺の岩盤が大気圏外にまで打ち上げられていた。
それらは重力に引かれ無数の流星となって降り注いで、せっかく綺麗にした地表がまたボコボコになってしまった。
ルナとなんとかできないかと考えた結果、大気圏外で周回軌道に乗せることにした。
元は私の一部だったのだから能力で干渉して軌道に乗せるのは容易すかった。
衛生ルナに合流させても良かったのだけれども、今回のような隕石が来た場合に備えて周回軌道の破片を超高速で射出して迎撃できるようにしておいた。
対隕石迎撃遊星群、その名も『女神のおはじき』
その名前はどうなの? って思うかもしれないが、これには理由がある。
『星の願いを』は具体的で局所的な願いほど強く作用するけども、銃の知識など無い私の願いでは具体性に欠け、ルナでは知識はあっても単純に力不足だった。
そこで採用されたのが『おはじき』だ。
能力発動の際に実際に指ではじく動作をすることで、願いは具体性を増し巨大隕石をも迎撃するだけの威力となる。
しかし、おはじきで数千キロ先の目標に精確に当てるなんて私にはイメージできない。
そこでルナの補助である。
私が撃ち出した破片に彼女の高度な情報処理能力による補正を加えることで、確実に隕石へ当てられる正確性をもたせることに成功したのだ。
やはりルナは細かく精密な能力運用がうまい。
さらに名は体を表すとはよく言ったもので、『女神のおはじき』と名付けることでより具体的なイメージとなり撃ち出す力を増幅させることができた。
まだ女神じゃないだろうって? 将来的に女神になるんだから良いんだよ!
……なれるよね? どうやったらなれるか見当もつかないが……今は気にしないでおこう……
地表の補修をあらかた終えたので、将来的に生き物が住みやすいように大陸の形を調整していく。
緯度が高いと寒くなるのでなるべく緯度は低めにし、広すぎる大地は海からの湿った風が届かず砂漠のもとになるので、様子を見ながら程々の大きさに整えていく。
将来的に役立つかもしれないので『極東の島国』も片手間に形成しておいた。
水源を確保するため山もニョキニョキと生やしていく。
水分を含んだ湿った海風が山肌にぶつかることで上昇し、上空の冷たい空気にさらされて水分が凝固する。
凝固した水分は雪や雨となって山へ降り注ぎ、地表から地下へと染み込んだ水は地下水脈となって時間をかけて再び地表へと湧き出す。
湧き出した水は沢を下って平地へと向かい、やがて大地を潤す川となる。
それらの仕組みは安定した水源確保のために欠かせないものだ。
すべての生き物にとって水は生命の源であり、それは人とて例外ではない。
まだ見ぬこの惑星の住人に思いを馳せているとルナがやってきた。
隕石騒動の一見でランクアップしたルナは見た目も可愛らしいが、背中に生えている羽がぴょこぴょこと動いておりとても愛くるしい。
「シア様、衛星の調整が終わりました。シア様の周りを30日で周り自転周期を連動させて常に同じ面が地表から観測できるようにしました」
「ありがとう。だいたい地球の月と同じようにできたわね。ルナ、力の使い方には慣れてきた?」
「ご安心ください。私はシア様のナビゲート役です。シア様の能力に関する知識もありましたので、まだ力は弱いですが運用についてはすでに掌握しております」
はぁ~~~~~! ホント優秀な部下を持つと辛いわ~! 主に精神的に辛いわ~!
いや冗談だけどね。
ルナが疎ましいとか妬ましいとかそういうんじゃないんだけれど、まだ能力を扱いきれてない自分が歯がゆいというか情けないと言うか……うん、頑張ろう!
私には頑張ることしかできないのさ!
「それと先程海水の組成を分析したところ生命体が観測されました」
「はいっ!? いつの間に生まれてたの!?」
「おそらく隕石の衝突がきっかけとなったのかもしれません」
「なんでまた隕石なんかで……」
「その瞬間を観測できなかったので細かいことはわかりませんが、衝突の熱エネルギーや衝撃で様々な化学反応が起こり原子生命を生み出す環境が整ったと思われます。隕石によってもたらされたこの星になかった有機化合物も影響したかもしれません」
「有機……化合物? ……って宇宙生命体的な?」
それじゃこの星の人類は宇宙生物由来になってしまう……支障はないんだろうけどなんだかもやもやする。
「いえ、隕石同士の衝突など自然環境によって起きた科学反応で偶然合成された極めて単純な有機化合物です」
ひとまずこの星の子はエイリアンの子孫にならずに済んだようだ。
「それにシア様の能力が働いてますから、シア様が望まない要因で影響を及ぼすことは基本的にありません」
「なるほど、それなら安心ね」
隕石がくる直前に生命誕生について話していたし、『人とともに歩む』という目標に必要な『生命誕生』という願いを叶えてくれたのかもしれない。
望む結果につながる可能性があれば私の能力はそれを掴み取ってくれるらしい。
『人とともに歩む』という願いを叶えるために、様々な事象が最適化され選択されているが、その過程を私は逐一確認していない。
制御できないというわけではなく、後から取り消すことも修正することもできる。
無意識での能力行使でも確認ウィンドウが出るようにはしてあるが、それは新規に能力が発動する場合であり、すでに発動されているものには適用していない。
……できなくはないのだが、やってみたら一瞬で部屋が埋まるほどのウィンドウが開いて慌てて無効化した。
能力による可能性の選択は私の想像以上に働いていたようだ。
そんな事もあっていつ生まれたかはよくわからないが、見事最初の生命が生まれたのである。
地球では六億年かかったといわれている原子生命の誕生だが、この星では一億年目の出来事だった。




