0 プロローグ
永いまどろみの刻を終えて、私は実体への転生を果たし覚醒の時を迎えた。
実体を得た感触に歓喜し、一糸纏わぬその体を震わせる。
体の奥底からは、とめどなく熱いものが湧き上がってくるのを感じる。
徐々に熱を帯びた肌は赤みを増していく。
艷やかな口から熱い吐息が漏れ、そして……
「んっ……あっ……あ……あつーーーーい! あついあついあついあついあつーーーーい!」
身を焼くような熱さに床をのたうち回る。
転生していきなり焼け死ぬのか!? いやいやいやおかしいでしょ!
滾り過ぎじゃない!? 私の体! ていうかそういう問題じゃなくて!
このままだと焼け死ぬよりも先に頭がおかしくなりそうなんですが!
ダレカタスケテーーーーー!!
実際私の体が燃えてるわけではなく、半身とも言える『ある物』が燃え盛っているからなのだが、なんでこんな状況になっているのか説明するとちょっと長くなる……
あれは今から数千……いや数億年前の出来事だったはず……
夏も終わりに近づいたある日、星を見るのが大好きだった私は流星群を見るため近くの丘へ向かっていた。
私の格好はTシャツにデニムのショートパンツ、風よけの薄手のジャンパーを羽織り、母譲りの黒い髪を左右にまとめたいつのも散策スタイルだ。
野外散策で肌をなるべく出さないのは基本だけども、虫よけスプレーで対策したから多少は大丈夫だろう。
日はすっかり沈んで夜の帳が下り、静寂が周りを包み込んでいる。
近くのコンビニまで十数キロなんていう田舎なので、こんな時間に出歩いてるのも私ぐらいだ。
珍しくすれ違ったのはこんな田舎ではめったに見ない大型トラックだったけど、村唯一の信号を無視して目の前を猛スピードで走り抜けていったのでびっくりした。
開けた丘の斜面には草地が広がっており私は持ってきた風呂敷を敷いて寝っ転がった。
ん? なんで風呂敷かって?
そのまま寝っ転がると頭と背中に葉っぱがくっついて大変だったから敷くものが欲しかったのだ。
レジャーシートも試したけど、微妙にかさばるしガシャガシャと音がして星に集中できなかった。
結局は、小さく畳める柔らかい布地の風呂敷になったのである。ビバ風呂敷。
流星群の時間まではまだある。
それまでのんびりと空を眺めていよう。
特に星座に詳しいわけではないが、夜空に輝く星々を見つめているととても澄みきった気持ちになれる。
こんな田舎だと人工の明かりは少なく、星は空から零れ落ちそうなほどに光り輝いて見える。
手を伸ばせばすくい取れそうなほどに。
しかしそんな身近に感じられる星々も実際は何万、何億光年と離れた彼方にあり、真空という文字通りなにも無い空間の中で佇んでいる。
その輝きと有り様はまさに『孤高にして孤独』としか表現しようがない。
まぁ厳密に言えば宇宙空間にも微量なガスが漂ってて完全な真空じゃないとか、地球や月のように他の星の近くを回る惑星や衛星なんかもあるからすべての星が孤独ってわけではないんだろうけどね。
今回の流星群は降り注ぐようなタイプで、大気圏に斜めに突入するタイプと比べると軌跡は短いが数が多く見られる。
流星群となる隕石達というのは元は大きな星だったらしい。
他の星との衝突で細かい破片となり何億年と宇宙をさまよい、地球の重力に引かれて落ちてくる。
隕石が大気圏に突入する際に空気との摩擦で明るく輝く現象を流れ星、まとまった数が一斉に来るものを流星群と呼ぶ。
極稀に燃え尽きずに地表に落下するが、そのほとんどが大気中で燃え尽きその生涯を終える。
孤独だった星の欠片が長い旅を地球で終えるのだ。
見届けたいと思うのは私だけだろうか。
そんな事を考えているうちにいよいよ流星群が見られる時間になった。
キラッと空に短い一筋の線が引かれ、瞬きの間に消えていった。
しばらく間をおいてからまた一筋の光が空に浮かんでは消えていく。
徐々に間隔を狭めながら現れる流星を眺めていると、唐突に流星群のピークは訪れた。
空の一点から放射状に降り注ぐ無数の星の煌めき。
まるで流れ星のシャワーだ。
流星のトンネルの中を進んでいると錯覚させられるほどに、輝きの密度は増していき幻想的な光景が広がっていく。
その光景に見とれていると、ひときわ輝く流星があった。
その煌めきは徐々に大きさを増していき、吸い込まれてしまいそうなほどに輝きを増していった。
その光が辺りを白く包みこんだ瞬間、私は今まで経験したことのない衝撃を感じ意識を失った。