2、少女遭遇《彼女も疲れ気味》
しばらくはバトルないんです。
…どうしてこうなったのだろうか
「はぁ、はぁ、…間に合った」
椅子で膝を折り、肘をそこに置いて紫苑はぐったりとなっていた。
紫苑は今バスの窓側一人座席で息を整えていた。
誰もまさか走りながらバスに向けて叫んで5分間、ずっと気づかれないとは思わないだろう。
その間ずっとバスと並走できた自身の持久力を褒めたい。
その代わりとは言ってなんだがバスに乗る人々が自身から距離がある。
周りの一人用座席にはだれも居ない。
…心の距離も遠いのだろう。
少し辛い。
『ーーーっ!!ーーー!!?』
そんな孤独感が生み出したのか幻聴すらも聞こえる。
俺はいつのまにこんな孤独になったのだろうか。
お母さん、お父さんすみません。
俺、こっちでも友達できなさそうです。
『ーー!!ーーーー!?』
まだ聞こえるなぁ。
俺はどれだけ精神的にやばいのだろうか?
『ーーーーー!!!!』
…いや、これ本当に幻聴か?
幻聴ではなく思えるのだが…。
でも他の乗客はその音が聞こえていないのか反応していない。
…どっちだ?
紫苑はチラリと外を覗いた。
するとそこにいたのは美女。
純黒の長髪は風にたなびきながら朝日に輝く。
華奢でほっそりとした腕や脚は汗で濡れていて青春の一ページのようだ。
そして右腕を挙げながらその女性は言った。
『止まってぇえええええ!!! ストップ!! ストップ!! ハリィイイイイイイイイ!!!!!』
…せっかくの美しさすらも台無しにするこの声。
いや声自体は高らかで聖歌を歌っているみたいなのだが…
それでもなんといいますか…残念感が否めない。
だけれど流石にこのまま放置すると罪悪感が暴れてきそうなので俺は運転手さんに言う。
「すみませーん、そこにめちゃくちゃ爆走しながら叫んでるバスに乗りたそうな女性がいるのですが…」
その瞬間、皆さん首が捻れる!
その様子はまさしく「え? 助けるの? おかしくない?」という感じ。
どうされました!?
人形みたいな無機質な目が怖いですよ!?
しかも運転手さんはしぶしぶといった雰囲気でバスを一時停止する。
いやいや、仕事ですから溜め息つかないでください。
やがて乗り込んできた女性は息切れを起こしながらもにこりと笑顔を浮かべて青年の隣へと座る。
「すみません。…ふぅふぅ。ありがとうございました。この御礼は貴方が命の危機に陥った時に…」
「いやいや!! お礼内容が俺が危ないことに突っ込む前提で話さないでくださいよ!!」
「…え?」
「『…え?』って言わないでください!! 物騒すぎてもはやツッコミきれませんから!!」
怖い!?
この子、なんだがとても怖い!
紫苑はぶるりっと肩を震えさせる。
「いやー、最近、皆さんバスに遅れても乗せてくれないので助かりましたー」
「いや、それほどでも…最近?」
「はい! 遅刻しなかったのは…だいたい小学生の時ぐらいですかね? 友達が起こしてくれたので」
「自分じゃ起きられないんですか?」
「恥ずかしながらー」
なるほど、皆さんが無視したのも頷ける。
毎日毎日バスを止めてたらそりゃあ面倒だしね。
「それにしても…ええっと貴方のお名前は?」
「俺の名前は紫苑です。 …もしかして神楽学園の生徒ですか?」
「はい! その制服を見るに貴方もそうみたいですね! 私の名前は青澄 静です! 学校で会ったら仲良くしてくださいね?」
「…はい」
「…なんで一瞬真顔になったんですか?」
「いえ…なんでも」
いや何でもあるんですよ。
言えないけれど。
綺麗な人に『仲良くしてくださいね』って言われるともちろん頭の中真っ白になっちゃいますとも。
あと…この人天然っぽいしこちらの精神的にキツそうだしね。
そんな感じで少し戸惑ってしまう。
中学校まで友達がいなかったというのも理由の一つですとも。
…俺はこの頃から一人だったんだなぁ。
「あっ! ここですよ、私たちの学校は!! 行きましょう!!」
「え!? 待ってください!! まだお金払ってませんよ!!」
「え? …お金、忘れた」
「…俺が二人分払います」
「ありがとうございます!」
初日からなんだか不安になりながらも紫苑は手を引く同級生とともに脚を踏み出す。
“神楽学園”に。




