魔法の授業 その3
長らくお待たせしました。
呼吸を行う。そして瞑想を行うように自身の身体の魔力を感じ取り、マリーの器を壊さないように魔力を込めていく。魔力がある程度行き渡ったら崩壊しない程度に動かし始める。慎重に細心の注意をしながら。
「身体の中にある魔力が分かるか?」
「このグワーって感じのがそれ」
「ああ、今から魔力を動かすのを止めるから、今度は自分で動かしてみて」
自分で動かすことの出来る切っ掛けを用意した、それから先はやってみなければ対応の仕方が違ってくる。
「うーん、うーん」
今まで触れたことのない部分を動かすのは難しい。どれくらい難しいかと言えば右利きの人が左で生活をするような物だろう。だが、最初から出来る子もいるが、それは世で天才と呼ばれるような存在だ。
「自分の呼吸の循環を意識しながら、自分の中にある魔力をそれに乗せるようにして動かすとやりやすいぞ」
感覚は人それぞれだが認識するという感覚は誰しも同じらしく、俺の村でもこの手で感覚を掴めたという奴は多かった。
「あ!」
マリーが大きな声を上げて喜んで居る。それが魔力を動かす感覚を掴んだのだと理解するまでに造作も無かった。
念の為に確認するために、彼女の魔力に自分の魔力を同調させ動かしているかを調べる。
「よし出来たみたいだな」
調べ終わったため、頭を撫でながらマリーに向けてそういうと、頬を赤く染めて嬉しそうに誇った。その表情が可笑しかったが、それを指摘してしまうとマリーは不機嫌になりそうなので止めておくことにする。
「じゃあ次はゼクウの番だな」
「おう、わかった」
「一応言っておくが、これまでの感覚を忘れておいた方が良いぞ。今までの感覚でやっていたら、魔力を操る事はできないからな」
左手で右手と同じ物を動かそうとしたら場合失敗する。例として上げるなら蛇口が良いだろう。右手で開けて右手で閉めるのなら普通にうまくいく。だが左手で閉めようとすると逆に開けてしまうのだ。同じような感覚で行うからそうなってしまう。だから気を付けなければならない。
「魔力を今から流し込む、それが気味の悪いように感じるだろうがその感覚を覚えれば魔力を操作できるようになる」
「おう」
「じゃあ流し込むぞ」
「やってくれ」
魔力を流し込んでいく。だが、彼の中で鍛えられてきた闘気がそれを邪魔し始める。だが、闘気も操れるようになった今の俺だったら闘気を乱さずに扱い方を教えることが出来る。
「闘気を動かすなよ。今から魔力を闘気とは逆方向に動かすからやったら危ないぞ」
あえて、どんな危険があるかを教えないで行う。教えてしまったらやりそうな気がしてならない。やってしまったら最悪、爆発四散するから恐い。今の俺だったら他の属性と合わせて治せそうだが、子供の前で親の身体が爆発したのを見たらトラウマになり・・・言わない方がやりそうだ。
今更になって気付いた。言わない方が興味を引いてしまうと。だから小声で聞かせる、爆発すると。その瞬間彼の表情が青ざめて行くのが分かる。それを見てこいつやろうとしていたのがよく分かった。
「やる前でよかった、でなかったらマリーにトラウマを植え付けていたぞ」
そう忠告すると闘気を動かさないようにしてくれたため、そこに魔力を流し込むことにする。右回転をする渦に、左回転の渦を入れ込み、一つの円になるようにする。それはどちらもそれなりの技術がないと行えない。
「今魔力が通ったのが分かっただろ、それになぞる様に魔力を動かしてみてくれ。爆発しないように俺が調整するから気にせず動かせ」
「ああ」
集中しているからなのか、返事はその一つしかなかった。
魔力が動き始めるのが感じ取れる。ゆっくりと動き始めているが、初めてとしてはそれなりに良い方をいっていた。
「そのまま練るんだぞ」
その後は忠告を繰り返しながらやってくれた。マリーはその横で魔力を動かしており、ゼクウの邪魔をせずに静かに行っていた。
「よし、これ位でいいだろう、この感覚を忘れるなよ」
「わかったぜ、闘気とは全然違くてこうもやりにくいとはな」
「闘気を覚えていなければもっと早いんだがな」
「それじゃあ、自然と偏りが出来るのも当たり前なのか」
「そうだな、二つ出来るようになれまでに時間が掛かるし、二つのことを極めようとすれば才能が必要になってくるしな」
世の魔法と闘気の二つが相容れぬような存在だが、熟練すれば合わせて一つに出来ると聞かせると面白そうな顔をしていた。多分この顔は自分の新たな可能性に喜んで居るんだと思う。
「じゃあ明日は魔法言語についてやるからな」
そう言って、今日の魔法の授業は終わったのだった。