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妖怪転生  作者: 骸骨紳士
心境の妖怪変化
8/13

押し寄せる恐怖

一応小説の大賞に応募を考えているわけですが、思っているよりも文字数が足りていないことに気づいたので、長引きます。

俺はヘルディアに一通り事情を説明し、ついでに浮気は絶対しないことも伝え安心させたところで床に就いた。

次の日俺とヘルディアは平妖京へいようきょうの町を並んで歩いていた。


「で、結局その悪魔の目的までは分からなかったわけね」


訝しむ様に顎に指を当てて考え込んでいる。


「あぁ、管理委員の事を目の敵にしておいて、俺らが邪魔だと言って排除しようとしていた。管理委員の奴等は何をしているんだ?悪魔が人間界に入り込んでいると言うのに」


アイツらの仕事はそもそも不当に人間を殺す妖怪と許可なく侵入してきた外国の悪魔を取り締まる仕事だ。なぜ野放しになっている。


「いえ、恐らくは仕事はしていると思うわ。ただ、追い付いていないのかもしれないわね。沢山の悪魔が入り込んでいる可能性が高いわ」


ヘルディア曰く人魔大戦に敗北した後人間と妖魔族は一つの条約を交わしたが、悪魔族はそれに納得がいっていないらしい。だが悪魔は契約に弱いはず。そう簡単に破る事は出来ない。


「何故アイツらは契約違反をものともしないんだ?アイツらにとって契約は鎖でできた枷の様な物だろ?なのに何で?」


「人魔大戦から結構な時間が経ったわ。きっと契約外の悪魔を作り出してそれを攻め込ませているのよ。今の人間たちに対抗する手段は無いに等しいし」


「契約外の悪魔か……。つまりそれの対処に追われて管理委員も忙しいと言うわけか……。しかもそれ以外の妖怪……詰まる所俺らにも邪魔をされて攻撃を仕掛けてきたって訳か」


迷惑な話だ。管理委員の奴等には敵わないと感じ俺らに八つ当たりを仕掛けてきた。そんなところだろうか。


「おう、光一にヘルディア。今日は二人揃ってるだべな」


遠くからやって来た狸三郎が明るい表情で近付いてくる。


「っと、昨日ぶりだな狸三郎」


「久しぶり」


挨拶もそこそこに、こちらの表情を伺ってくる。


「うん?どうしたべ、真面目な顔して」


「ちょっと考え事をしていてな」


「考え事だべか。一体なした?」


「コウイチが人間界で悪魔に襲われたのよ」


ヘルディアが代わりに答える。

狸三郎と別れたあとの出来事だからな。知らなくて当然だ。


「悪魔だべか、おかしなこともあったべな」


「だよな、デスバレア大陸の魔王は何してんだ。少なくとも魔王はそういうのは治める立場の悪魔だろ?」


デスバレア、アメリカ合衆国の裏側の魔界に存在する大陸だ。悪魔といえばデスバレアと相場が決まっている。


「きっと、あっちの国にはこっちにある管理委員的な存在はいないのかもしれないわね」


魔王仕事しろ。

というか普通イメージとしては率先して人間界に攻め込むよう指示しそうだが、そこは国の賢者だから無闇に人間を殺したり支配するのは自分たちの首も締めかねない事を理解しているわけだ。


「うーん、そうなるとかなり厄介かな・・・。もしかして俺達が管理委員に探りを入れてたのに見つからなかったのって、全員出張っていたからか?」


「可能性はあるわね。でも、大した相手でもないはずそこまで苦戦するかしら?」


確かにそうだ。俺みたいなまだ弱い妖怪ならいざ知らず、管理委員は魔界最強クラスに加えてかなりの手練ぞろいと聞く。


「魔獣の存在を忘れているべ」


「魔獣・・・?あっそうね、そういう事もあるわね」


不意に狸三郎が口にした存在、魔獣。

ヘルディアは納得がいったようだが。


「なぁ、魔獣ってなんだ」


「あれっ?教えてなかったっけ?」


「うん、聞いてないな」


「そっか、えっとね魔獣っていうのは妖怪や悪魔と違って知性が低くて、見た目も悍ましい獣の様な姿をしているいわば魔界の動物ね。魔界ではほぼ無限に湧いて出るから食料にする場合もあるわね」


「ただ、下手な妖怪や悪魔より強い場合もあっから、弱い奴は返り討ちにされるべ」


魔獣という存在については大体把握した。


「それで、魔獣は人魔大戦の契約外の存在なの。基本人間界に出ることはないんだけど・・・」


「意図的に外に出す事は可能というわけか」


やっと理解が追いついた。そいつらを人間界に放てば契約に違反せずに間接的に人間を襲うことが可能という訳か。


「そう、その通りよ。後は前の時みたいに人間を誑かして力を与え紛れ込ませる。陰険で条約違反ギリギリの行為だけど、それも契約外の悪魔なら全て可能ね」


そういうわけか、確かに聞いていた通り悪魔っていうのは陰湿な連中ばかりの様だ。

ここまでされちゃ管理委員も忙しくなるってもんだ。


「あと考えられるのは、特異種ユニークイレギュラーだべか」


特異種ユニークイレギュラー?また聞いた事ない者が出てきたな」


狸三郎は腕を組みながら考え込むように答える。


特異種ユニークイレギュラーは、突発的に発生する妖怪や悪魔の事だべ。その引き金は人それぞれだべが、大体が元は人間のケースが多いって聞くべ」


って事はヘルディアも得意種ユニークイレギュラーに属するわけか。


「なるほどね、私もそうだったけど妖怪になりたてだと魔界のルールを知らないから力を持て余して暴れてしまうってことね」


そういうケースもあるって事か、なんか管理委員の奴らに同情してきたな。これは相当多忙だよな。


なんて話をしていたら、奥の広場の方から何やら騒ぎ声がする。


「何かあったみたいだな」


「そうね、あっちの方角は、何もない草原の広がった場所だったと思うけど」


「とにかく行ってみるべ」


俺たち三人は一斉に広場へ走り出した。


――――――


「これは、どういうことだ?」


辺り一面芝生で覆われた地面に、四人ほど妖怪が倒れていた。


「襲撃かしら?それにしては敵影が見当たらないけど・・・」


「いや、近くにいるべ。隠しきれてない妖気が漂っているべ」


狸三郎の言う通り何処かから妖気が感じられる。

何処だ。地上にいないって事は。


「上空よ」


上を見上げれば凶悪な数のガーゴイルが上空を覆っていた。

一体何体いやがるんだ。つまりコイツらはあの醜悪な顔の黒い蝙蝠の翼をつけた悪魔にやられた訳だ。

幸い全員意識はある。

戦闘になる前に全員を安全な所に運び寝かせる。


「さてと、一人頭何体だ?」


俺達に狙いを定めたか紅色の目玉でこちらを見据えている。


「イチ・ニイ・サン・シ・・・一人十体ね」


「おう」


臨戦態勢に入る。一人十体か雑魚とはいえこの数は油断はできない。

今は何でここに居るのかなんて考えるのはなしだ。眼前の敵をねじ伏せるのみ。


相手は一斉に飛びかかってくる。

恐らくこいつらの親玉がいるはずだ。それまで妖力の消費を抑えたい。断罪のシザークロスは使わずに戦おう。


「っ!」


斜め上から鋭い爪を顔目掛けて突いてくるので、それを右斜めに屈む様にして回避。同時に突き上げる形で右拳を腹部にめり込ませる。


「ギギェ!?」


背後から気配を感じたので左足を軸足に回転し目の前のガーゴイルを蹴り飛ばし勢いを殺さずに背後にいたガーゴイルの脇腹に蹴りを入れる。

しかししぶとく俺の右足を両手で掴みかかってきた。振り払う為に左足をバネにその場で飛び、反り返る形になりながら左足を思いっきり上にあげて、空中で体を起こしそのまま踵を頭頂部に突き落とす。

その痛みに耐え兼ねたか両手を離したので、右足で着地しそのまま左足で地面に叩き落とす形で頭を潰す。

すると黒い霧になって霧散する。

まずは一体仕留めた。

さっき蹴り飛ばした奴はまだ生きているな。


「ギェーー!」


奇怪な叫び声を上げて背後から襲ってくる。

すぐさま背後に向き直し振り下ろされた右腕の爪を紙一重で躱し、瞬時に背後に周り頭を両手でつかみ捻る様にして首の骨を折る。

霧散したのを確認し、一度周囲を見渡す。


ヘルディアも武器は使用せずに素手で戦っている。

向かってくる敵の攻撃を見事に躱し、カウンターで斬鉄爪ざんてっそうで切り裂いている。


一方の狸三郎は相変わらずの手刀で敵を薙ぎ倒している。

人間に対しては優しいが、相手が悪魔となると意外に容赦ないな。


「ギギャー!」


「っと、油断してたな」


正面から突進してきたガーゴイルを右に体を動かし躱す。それと同時に左足で足を払い、体制を崩したところで相手の顔の側面に右斜め上から腕を曲げて左肘をめり込ませ地面に叩きつける。

その勢いで地面で体を弾ませたので、右足で思いっきり体を蹴り上げる。

それにより体が横に断裂し霧散する。


「アギャー!」


後ろから殺気を感じたので、右回転し右肘を背面のガーゴイルの顔面にめり込ませる。


「ギェ!」


間髪入れずに右足で腹部に蹴りをかまし、悶えているところを両手を組み合わせて高く振り上げ頭頂部に叩き込む。倒れたところで右足で頭を踏みつぶし止めをさす。


「ギギッ」


突然背後から羽交い絞めされ動きを止められる。

振り解こうと考えている合間に、正面から鋭い爪をぎらつかせてもう一体のガーゴイルが突進してくる。

俺は腰を落として軽く飛び上がり空中で前回りに回転し、背後にくっついているガーゴイルを突進してきている奴の正面に来るようにした。

狙い通りそのまま突進してきた奴の爪は俺の背後にいるガーゴイルを貫いた。その拍子に両腕が解放されたので体制を立て直し着地すると同時に戸惑っている先程のガーゴイルの顔面を抜き手で貫く。


残り大体四体か。


「「ギェェェ!」」


両側面からガーゴイルが猛突進してくる気配を感じ、ギリギリのところでバックステップで躱す。

そのまま二体のガーゴイルは正面衝突をしていた。

―――馬鹿だと思いつつ、右手に妖力を込めて手刀の構えをして二体のガーゴイルの首目掛けて横薙ぎに振るい首を切り落とす。

大分数も減ってきた。ラストスパートって言ったところか。


目の前で狼狽えているガーゴイルがいるのでこちらから突進し、斬鉄爪ざんてっそうを右手で振り下ろし切り裂く。

最後に上空から襲撃を試みているガーゴイルがいるので俺も高く飛翔し、相手の突き手を左手でいなし、右手で斬鉄爪ざんてっそうを繰り出し仕留める。


「ふぅ、これで全部か?」


「みたいね。親玉が出てくると思ったんだけど、見当たらないね」


「妖気を探っても、悪魔の反応は感じられないべ」


おかしいなこれだけの量のガーゴイルが襲ってきたんだ。仕掛けてきた奴が必ずいるはずなんだがな。

周りからは平妖京へいようきょうに住んでいる妖怪の妖気は感じるが、それ以外のものは感じない。


潜伏能力ハイディングスキルか・・・?」


「もしそうだとしたらかなりの手練よ?完全に妖気をも消すなんて」


確かにそうだな。姿だけじゃない、妖気も一切感じ取れない。

それは相当な能力者という事だ。

俺達で敵うのかそんな相手に。そう考えるとゾクリと嫌な寒気がした。


「気にはなるが、何も仕掛けてこない上に手掛かり無しじゃどうする事も出来ないな」


「今日は一旦戻ろうよ。ここにいても何も分からないしね」


「そうだべな。また何か分かったら情報交換するべ」


「そうだな。そうするしかないか」


ここで一旦退散し、それぞれ家に帰る事にした。


――――――


「っはあぁぁぁ、つっかれたーー」


俺はヘルディアの家のソファーに倒れ込むようにして座り込む。


「雑魚もあれだけの数がいると疲れるわね」


俺とは違いそこまで疲れていない様子のヘルディアが、ちょこんと俺の隣に座る。


「うーマジ疲れた。こういう時は」


「ひゃぁ!?」


思いっきりヘルディアに抱きつく。ふわりとした髪から甘く良い香りがする。

肌は柔らかくてとても抱き心地が良い。


「きゅ、急にどうしたの?コウイチ?」


「疲れた時は癒しが必要だ」


キリッ。


「もう、可愛いんだからコウイチってば♪」


ヘルディアに頭を撫でられる。少し擽ったいが、気持ちがいい。

取り敢えず今は今回の事は一度忘れて体を休めたい。なにせ二日連続で敵と戦っているからな。

それにこの後何が起こるかわからない以上一度リラックスするのも必要だ。


「あぁー、生きてて良かった。じゃないとヘルディアと付き合えなかったわけだし、こんな幸せを味わうことは出来ったよ」


しみじみと感じる、生きている事の喜び。ヘルディアと会う前は死にたいとまで思っていたが、今は全くそんなこと思わない。人間生きてりゃ良い事もあるってもんかな。


「私もだよコウイチ。私もあなたに会えて本当に良かった。今すごく幸せよ」


お互いに抱きしめ合いながら幸せを感じていた。


「そうだ、汗かいたでしょ?一緒にお風呂入ろっ」


「そうだな、そうするか」


「よーしそれじゃあ決まりね。すぐ行きましょ」


俺達は直ぐに立ち上がってお風呂場へ向かった。

念の為互いにタオルを巻くことを釘を刺しておいた。

まだヘルディアの裸を直視できるほど俺にその耐性はない。


――――――


お風呂で汗と共に疲れを流した俺達はまだ午後の九時半だったが、早めに床に就く事にした。

お互いに向き合いながら寝ている。時々頬に触れたり、キスしたりしながら夜を楽しんだ。


次の日、朝の八時という少し遅めに起きた俺達は早々に着替えを済まし、昨日ガーゴイルが大量発生した場所へと向かっていた。


「ここだったよな」


「ええ、間違いないわ」


辺りに広がる草原を見て昨日の事を思い出す。


「確か襲われた妖怪がいたはずだよな。そいつらに話を聞けば何かわかるかも」


「そうね、あの後ガーゴイルを倒した時そのまま放置しちゃったけど大丈夫だったかしら?」


そういえば放置してたな大丈夫だったのかな。


「あっもしかして昨日助けてくれた人たちですか?」


不意に声をかけられたので声のする方角に体を向ける。

そこにいたのは昨日倒れていた妖怪の一人で、金糸のような煌びやかな長髪と黄金色の瞳。

そして雪のように白いドレスに身を包んだお嬢様然とした見た目の女の子だった。


「あら?どうして分かったのかしら?」


「いえ、なんとなく。昨日(わたくし)が襲われたところで何やら考え事をしていらっしゃるようでしたので」


「なるほどな。昨日の怪我はもう大丈夫だったのか?」


「はい!狸のお兄さんに治癒の術をかけていただいたのですっかり元気になりました!」


狸のお兄さん、て事は狸三郎か。あの後介抱していたのは狸三郎だったか。


「えっと、俺は光一って言うんだがあなたは何故ここに?」


「私は新川魔姫乃あらかわまきのと申します。ここに来たのは助けてくださった方に是非お礼をと思い探していましたの」


「あ、新川って確か平妖京でも名の知れた豪族のお家じゃない!?て事はあんたまさか・・・?」


「はい、新川家現当主でございます」


マジですか。そんなお嬢様がわざわざ平民の立場の俺達にお礼とはすごい事もあったもんだ。

にしてもなんでそんなお嬢様が襲われていたんだ。


「ま、魔姫乃お嬢様。何故なにゆえこんな何もない草原に居らしたんですか?」


「ふふっ、魔姫乃で結構でございますわ。堅苦しいのは苦手ですの」


「そ、そうか。じゃあ魔姫乃さん。あんたはあの時誰に襲われた?」


「そうですわね、昨日はお散歩を兼ねて歩いていましたらここから何やら不穏な空気が流れていましたので立ち寄ったってところですわね」


「って事はあの時いた他三人はもしかして、あんたの従者かしら」


「えぇそうなりますわね。私共を助けていただき誠にありがとうございますわ。光一さんに、えーっと」


「ヘルディアよ」


「ヘルディアさんですわね。本当に助かりましたわ」


魔姫乃は深々とお辞儀をした。そう大した事はしていないつもりだが、こんなお嬢様に頭を下げさせるのは気が引ける。


「それで魔姫乃さん。昨日襲ってきた奴はどんな奴でしたか?」


「それが全く覚えていませんの。新川家当主としてとても恥ずかしいことですわ」


顔を紅潮させて、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

彼女から感じられる妖気の大きさからいって俺達より強いはずだ。そんな人がガーゴイルごときに倒されるはずがない。ましてやお付の者が三人もいた状況での敗北、これは益々怪しい。

ここまでやって姿を現していない黒幕も何が目的なのかさっぱり分からん。


「今回の黒幕の目的が一体何であれ、相当強い相手って事だけはよく分かったわ」


ヘルディアがかなり険しい顔をしてもう一度辺りを見渡している。

相手の強大さを知ったからこそだ。俺達で勝てる相手ではないな。


「そうだ!魔姫乃さん。あんたなら管理委員について何か知ってないか?」


「えぇ、存じております。それが如何致しましたか?」


「なら、管理委員がどこで活動しているとか魔界最強クラスの奴の事とか知らないか?」


縋る様に俺は必死に訪ねた。ここまでの事態が起きていて管理委員が動かないわけがない。それに俺達じゃどうにもならない相手だ。こういう時こそ頼れるのはそいつらだけだ。


「申し訳ございません。流石にどこで活動しているかの詳細までは存じ上げませんの。それに光一さんの言う強い管理委員の方はお知り合いなのですがとある事情により口止めされていますの。お役にてず申し訳ありません」


再び申し訳ないといった表情になって、頭を下げる。

豪族の妖怪なら知っていると思ったが、他の奴らは詳しくは知らなくてその上一番重要な魔界最強クラスの奴の情報は口止めされているときた。

正直八方塞がりだ。


「そう・・・ですか。すみません。困らせるようなことを質問してしまって・・・」


「い、いえお気になさらずに。助けていただいたのに何のお礼もできずこちらこそ情けない話です・・・。そうだ、よろしければ私のお屋敷にいらっしゃいませんか?精一杯のおもてなしをさせていただきますわ」


「コウイチ・・・ここは悩んでも仕方ないよ。今ここで集められる情報を聞く為にも魔姫乃の家に行かない?」


「そうだな、じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらうか」


「はい!是非ごゆっくりしていってくださいな」


俺達は魔姫乃さんに案内されお屋敷に行くことになった。

魔姫乃さんはかなり上機嫌でウキウキした様子で歩いていた。


――――――


「ここが私のお屋敷ですわ」


案内されたそこは東京ドーム三個分はあるかというくらいの広い土地に、大きな庭と和風な木造作りの建築物が鎮座していた。

いうなれば大昔の武家の屋敷のような立派な場所だった。


「さ、流石に凄いわね・・・」


「「「お帰りなさいませ当主様」」」


大きな門を開けた所で挨拶してきたのは昨日魔姫乃さんと一緒に倒れていた妖怪少女たちだった。

桜吹雪を模した模様の着物に身を包み、石畳の上で綺麗なお辞儀をしていた。

何で魔姫乃だけ西洋風なのか気になるが、きっと気にしたら負けだ。


「ふふっ、私がドレスに身を包んでいるのは少しお洒落だなと思いまして、そこにいる二ツ花(ふつか)に作っていただいたものですわ」


魔姫乃さんが指した人物は、横に三人並んでいる人達の一番左側の茶髪で短髪、特徴的なのは桜色をした一本の通常より少し太い髪が額のところから飛び出している事だ。


「二ツ花は裁縫が得意でしてね。今三人が着ている着物も二ツ花が作ったものですのよ」


「へぇー、凄いわね」


「私はヘルディアさんのゴスロリというものにも興味がありますわ」


「ご所望とあればこの二ツ花、いつでもご用意致します」


「もうっ、二ツ花ったら、そういう言い方はやめてっていつも口を酸っぱくして言っているではありませんか」


「ですが、当主様にご無礼な言動は・・・」


「えいっ」


ピシッ、と軽く音を立てて魔姫乃さんはデコピンをしていた。

肝心の二ツ花さんは「あぅ・・・」と言って額を抑えていた。


「むー、分かったわよまきのん」


「はいっ、素直でよろしい。では客室に案内いたしますわね」


まきのんと呼ばせようとしていたのか。なかなかフレンドリーな当主様だこと。


風情のある長廊下を庭の景色を見ながら進んでいく。

しばらく歩いたところでこれまた桜吹雪を模した模様の麩の前に到着する。


「ここですわ」


そう言ってゆっくりと襖に手をかけ横にスライドさせていく。

そこに広がっていたのは何十畳もある立派な座敷だった。


「広いな」


思わず声に出るほど広く立派で、座敷からは中にはを見ることが出来る。


「どうぞ適当にかけてくださいな。今美祢(みね)ちゃんが料理を用意してくださっていますから」


言われるがまま取り敢えず幾つかある座卓の中から手前側のところに座り、ヘルディアも俺の右隣に座る。

魔姫乃さんは俺の真正面に座り微笑んでいた。


「そんなに緊張なさらなくて結構ですわよ自分のおうちだと思って寛いでください」


すみませんできません。

こんな立派な家に入ること自体初めてなのに・・・。

ヘルディアが俺にくっついていなかったらもっと緊張していたはず・・・。


「って、ヘルディア・・・、人前でもくっつくのはどうなんだ?」


「コウイチの傍にいないとなんか落ち着かない」


「うふふっ、仲がよろしいんですね。羨ましいですわ。私も殿方に甘えてみたいものです」


「へーこんなに美人なのに彼氏とかいないんですかってイッタイ腕がぁあ!」


ヘルディアが抱きついている右腕を、へし折るつもりかってくらい抱きしめてくる。めっちゃ痛い。


「コ・ウ・イ・チ?もしかしてああいうのが好みなの?」


「ちょ、ちょっと待て確かに魔姫乃さんは美人さんだが俺が好きなのはヘルディアだけだって前も言っただろ!?」


なんで人前でこんな事叫ばなきゃならんのだ。なにこれ、公開処刑?


「うん、知ってるよ♪」


じゃあ何故言わせたし。嫌がらせか。


「大分緊張がほぐれてきましたわね」


魔姫乃さんがクスクスっと笑ってこちらを見ている。

これが目的だったのかなヘルディアは、だとしても結構痛かったんだが。


「おっ待たせー!まきのんとお客様ー、料理でーす!」


勢いよく麩を開けて入ってきたのは先程門前で挨拶をしていた三人の真ん中の子だった。

髪型は二ツ花によく似ているが飛び出している髪の色が違っていて紫色をしていた。

あとは眼鏡をしている。

二ツ花とは正反対でえらく元気のいい子だ。


「美祢特製の料理~、たーんとぉ食べてください!」


手早く料理をそれぞれの座卓に並べていく。それにしてもこんな感じのキャラを何かのゲームで見たような・・・。


置かれた料理は豪華絢爛の一言に尽きるものだった。鯛のお頭付きの刺身や、松茸ご飯他様々な和風な料理が並んでいた。


「それじゃあ、二ツ花と後お菊を呼んでいただけるかしら?あの時の事件に関わった者とお話もしたいでしょうし」


「わっかりましたー!すーぐ呼んできますよー!」


そう言うと嵐のように去っていった。

本当に元気な人だな。

それはそうと、お菊さんはきっとさっきの三人の右端にいた黒いおかっぱの子だろう。

あの三人も襲撃ににあった被害者だからな。何か話が聞けるといいが。


――――――


「それではまたお越しくださな」


門の前で俺達は手を振って別れた。

結論から言うと襲撃にあった四人全員が黒幕の姿を視認できずにいて、襲われた理由も不明瞭だった。

恐らくは平妖京でも名のある豪族だったから襲うことによって、管理委員を誘き出す為じゃないかと話し合いの結果そう結論づけた。


奴らは、悪魔族は人間界を支配しようと考えているのか。それとも負けた腹いせに復讐を考えているのか。どちらにせよ、その計画を邪魔する奴らが管理委員だった為そいつらから始末しようという考えなのか。


なんて思考を巡らせていると例の襲撃があった広場が見えてきた。


『犯人は管理委員だけでなく、恐らくあなたがたも目の敵にしていると思われますわ』


『それは、私達が悪魔族を退治しているからかしら?』


『えぇ、あなたがたはそれなりに力の強い妖怪の上、管理委員の方々と同じくらい人間と近くにいる存在。その中で同じく一時期は人間を憎んでいた時期もあった。この事から考えると、もしかしたら力ずくで仲間に引き入れようとする者も現れないとも言えませんわ』


ついさっきの会話を思い出す。

場合によっては洗脳をしてでも、最後にそう言っていたな。


「っ!?」


殺気?誰だ?

俺は直ぐさま振り返ると、目の前に紫に輝く魔弾が迫っていた。


「コウイチ危ない!」


咄嗟にヘルディアが前に出て右腕で魔弾を弾き返す。


「あんた、何者よ!私のコウイチに手を出すなんて、死にたいのかしら?」


俺達が向いた方向は例の広場の中央。そこには不気味に佇んでいる男がいた。


「かかっ!よく防いだな嬢ちゃん。まぁこれくらい出来なきゃ面白くないからなぁ」


男の見た目は紫の髪を逆立てて、黒のロングコートと特徴的な銀色の帯が両肩から胸にかけて交差するように巻かれていることだ。


「あのお嬢様を襲った時はやけにあっけなかたからなぁ。せいぜい楽しませてくれよ?なにせ俺の可愛い弟のガルバスを殺ったんだろ?」


「「っ!?」」


俺とヘルディアは戦慄に飲まれた。まさかあの俺達より強い魔姫乃さんとその従者を倒した男がこんなすぐに俺たちの目の前に現れるとは。

次回 難敵

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