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妖怪転生  作者: 骸骨紳士
心境の妖怪変化
7/13

英雄とは程遠い何か

なんかちょっと雑な作りになっているかもです。そういった点がありましたらご指摘お願いします。

俺はヘルディアの部屋のベッドの上で横たわり物思いに耽っていた。かれこれ、ヘルディアと生活し始めてもう二か月以上が経った。俺が考えていたことは二つあった。一つは一か月前に起こった、謎の現象についてだ。あれ以降特に生活に変化があるわけでもなく、同じ事も起こる事が無かったので、これは俺の思い過ごしだと言う事で整理をつけた。もう一つはうんと小さい頃、男の子なら誰しもが一度は憧れただろう英雄について考えていた。

英雄、何故突然そんな事を考えていたか、理由は俺の弱さを痛感したからだ。

あんな雑魚にも苦戦するようじゃとてもヘルディアを守る事なんて出来ない。あの時俺は、一瞬躊躇してしまった。ヘルディアが死んでしまうかもしれないという局面でだ。情けない話だ。結果としては敵は殺す事ができヘルディアも何とか助かったが、あと少し判断が遅れていたらと考えるとゾッとする。


体をベッドから起こし立ち上がる。俺はソファーに猫のように丸まって眠っているヘルディアを見つめる。守りたい。なんとしてでも。そう俺に再確認させるような穏やかな寝顔を見て、俺は右手を爪が手のひらに食い込むほどに握り締めた。

強さがまだまだ足りない。ヘルディアを守るだけの強さが。気持ちを落ち着かせる為に俺はヘルディアの家を出た。


今日は一週間に一度の一日中闇に覆われている日と言う事もあって外は妖怪たちが賑わいを見せていた。時刻は人間界ではまだ昼の十二時過ぎくらいだったはず。魔界に住み始めてかれこれ二か月くらい経つが相変わらずこの光景にはなれない。

昼時だからか、平妖京へいようきょうに軒を並べている食事処がかなり込み合っている。その中でもあまり食事を必要としない種族たちは、娯楽に興じている。その中で何をするでもなく歩いている人影を見つけた。髪は短髪で茶色、特徴的なのは頭にある茶色と黒のストライプ模様の獣耳とそれと同様の模様の太い尻尾だ。あいつは、狸三郎りさぶろうここ最近知り合った数少ない友達だ。


「おーい、こんな時間に何やってんだー」


「ん、その声は光一だべか?」


こっちに気付いた利三郎がこちらに顔を向ける。


「よう、そっちこそどうしたべかこんな時間に」


「いや、ただ暇だったからうろついていただけだ。そっちは何してんだ?お前だって基本食事は必要ないだろ?」


コイツも俺と同じで心食族しんしょくぞくだから食事は必要ないはずだが。


「オラもおめぇど同じで、暇だったからだっぺ」


人懐っこい笑顔を浮かべてそう言うと、キョロキョロと辺りを見回した。


「あれ、そういえばヘルディアちゃんはどうしたべか、いつも一緒にいるのに」


「あぁ、ヘルディアなら気持ちよさそうに寝ていたから置いてきた」


「ふーん、そうだったんだな。ところでヘルディアちゃんとはどこまでいったんだべ」


「へぇ?な、何がだ?」


「だから、もうまぐわったりしたのかって聞いてんだべ」


「な、ななな何言ってんのお前!そ、そこまではしていない!つか唐突すぎんだろ!」


突然何を言い出すかと思えば、コイツ偶に訳分からない事言いだすんだよな。


「おお、す、すまなかったべ光一何もそこまで怒らんでもええべ」


「いや、怒っては・・・、はぁ、もういいや、まだキスまでだ。そこまでできる度量があるならとっくにしてる」


「うむ、そうだったんだべな。道理で偶にヘルディアちゃんが『私って、魅力ないのかなぁ』って相談してくると思ったらそう言う事だったんだべなぁ」


すまんヘルディアそうじゃないんだ。単に俺に勇気が無いだけで、魅力が無いなんて絶対にない。


「そんなこと相談していたんだな、今後気を付けるよ」


「んだ、それがええっぺよ。それよりもどうだべ、偶にはオラと人間界に散歩でもどうだ?」


コイツと散歩か、まぁ悪くないかもな。


「いいよ、ちょうど暇してた訳だしな」


そして俺達は人間界への道を開き魔界を後にした。


―――


人間界も魔界と大差ないほどにぎわっていた。大して大きくない町ではあるのだが、やはり昼時は人の往来も激しくなるというものだ。

ちなみに狸三郎は人間界に出るときは騒ぎを起こさない為に人間に扮する変化の術を使っている。と言っても耳と尻尾がなくなっただけなんだがな。


「そういや気になってたんだが、狸三郎のその訛りってどこの方言なんだ」


「んー、昔仲良くしていた人間が方言がきつかったから、気が付いたらその喋り方がうつっていただけでどこって事は無いべ」


道理で半端に訛っていた訳だ。納得がいった。コイツは妖怪の癖に人間と仲がいいからな。



「狸三郎は何で人間なんかと仲良いんだ?」


「そうだな、おめぇにはわかんねえかもしれないけんど、オラは人間に救われた。すっごく感謝してるべ。みんながみんな良い人間とは限らないかもしんねえけんど、その逆も言えるべ」


「そういうものなのか」


確かに理解できないわけではない。俺は今まで小さい世界の中で生きてきた。自分の周りだけを見てすべてを決めつけていたところもあるかもしれない。あの時の家族の様に、どんな絶望的な状況でも家族を見捨てようとしなかったように、そんな人間の在り方もあったんだと知った。


「まぁ無理にどは言わねえが、いつか光一にも分かる時が来るんでねえか?少なくとも最初に復讐だけを考えていたおめぇとは違うわけなんだべ?それだけでも十分な進歩と言えるべ」


「ふっ、確かにな」


他愛ない話をしてたところで、一つトラブルが発生した。多くの人間の悲鳴が街の大きな銀行から聞こえてきた。どうやら銀行強盗が押し入ったらしいな。全く、あの銀行もついてるんだかついてないんだか分からないな。こんなタイミングで銀行強盗なんて、俺はもちろん隣にいる狸三郎が黙っているわけがない。警察はまだ動いていなさそうだな。面倒だしさっさと終わらせてやるか。

俺達は顔を見合わせ頷き合うとゆっくりと銀行の方へ向かう。

銀行内部に入るとそこには黒ずくめの格好とスキーマスクをした男たちが三人いた。

典型的な銀行強盗の図だなこれは。


「たくっ、今時スキーマスクで顔隠す奴がいるなんてな。時代遅れじゃね?」


「な、何者だ貴様ら!ってただの若いガキ二人かよ運が無かったな。死にたくなかったらおとなしくていてもらおうか!」


俺達に気付いた銀行強盗のリーダー格のような奴がこちらがただの人間と思ったらしく凄みをきかせてくる。全員右手に銃器を持っている。どれも一応本物っぽいな。日本も物騒になったもんだな。


「あんたら、今の内に降伏しておいた方が身のためだぜ。痛い目に遭いたくなかったらな」


「はっ!何を言い出すかと思えば警察でもない一般市民が舐めた口を」


「光一、あんまり刺激するのはよく無いべ」


宥める様に狸三郎はそう言い、依然としておっとりとした表情を浮かべる。


「おめぇ達、こんな悪い事してねぇで今すぐ他の皆を開放してあげるんだ。それが皆の為になるべ」


「何言ってんだよお前、この状況分かってんのか?何様のつもりだ?」


「けっ、正義のヒーロー気取りかとことんバカな奴らだ。だがこれを前にしてもまだそんな口きけるかな?」


真ん中のリーダー格の男の俺達から見て右側にいる男が銃を狸三郎に向けて嗤う。

俺達はそれを黙って見ていた。


「・・・、撃つって言うなら止めねぇべ。」


「ちっ、ほ、ほんとに撃つぞ!こ、怖くねぇのかよテメェら!」


そういう男の銃を握る手は若干震えていた。撃つことに抵抗があるのは相手の方らしい。殺す覚悟もないのにそういう事をブラフでやってくるとはな。


「・・・、どうしたべ、撃つ勇気が無いって言うならこんな事やめるべきだ」


その一言が男に火をつけたらしい。覚悟を決めた目になり狸三郎の胸目がけて銃口の狙いを定めゆっくりと引き金を引く。銃口から銃声を轟かせ銃弾が一直線に狸三郎へと飛んでくる。

しかしそれは狸三郎に当たる事なくあっさりと真っ二つに斬り割かれ床に落ちる。しかも手刀でだ。

コイツの実力は分かっていたつもりだったが、ここまでとは想定外だ。


「ひぃぃ!ば、化けもんだ!」


「何モンなんだコイツら!」


「これでわかったべ、おとなしく降参するべ」


狸三郎はここまでされてもなお慈母の様な穏やかな表情を湛えている。


「くっ、お前ら怯むな一斉に撃つぞ!」


リーダーの掛け声とともにリーダーと左側の男も銃を構え狸三郎に目がける。

同時に一斉に喧しい銃声とともに銃弾が幾つも狸三郎に飛んでくる。俺は無駄な事をと思いつつもその光景を傍観していた。強盗集団は一心不乱に銃を乱射。一方の狸三郎は冷静に右手だけですべての銃弾を斬り落としていた。しばらくの間悲鳴と銃声だけがこの場を支配した後、弾切れになったらしく恐怖で震える男たちの姿があった。


「もうバカな真似は止めて大人しく降参するべ」


「くっ、ちっくしょーーー!!」


これだけの実力差を見せつけられて尚意地を見せて狸三郎に殴りかかるリーダ各。

諦めが悪いな。それに何か焦りを感じる。


真っ直ぐ放たれた右ストレートはその場にいる誰もが予想しなかっただろう。

その拳が狸三郎の顔に直撃するとは。

何故躱さなかったのか疑問に思っていると。


「もうこんな悲しい事は止めるべ。おめぇ達はただ遊ぶ金が欲しくてこんな事をしているやけじゃねぇべ?」


「!?な、何でそれを?」


「目を見ればわかるべ。おめぇは誰かの為にこんな事をしている。違うべか?」


「っ!……、そ、そうだよお前の言う通りだ。俺は金がいるんだ!病気の娘の為に!」


あの男から感じた焦りはこういう事だったか。流石は狸三郎だな。よくその事を見抜けた。

男は図星を突かれその上敵わないと理解したのかその場に崩れる様に膝をついた。


「…、いくらだべ。いくら必要なんだべ?」


「?さ、三百万だが何故そんな事を聞く?」


「なんだ、そんなもんか。それぐらいだったらおめぇにあげるべ。だからもう止めるべ。こんな事しても娘さんは喜ばないべ」


「え?な、何で俺なんかにお金をくれるなんて言うんだ?お前はいったい何者なんだ?」


妖怪です。とは言うわけにはいかないがな。それとこいつはかなり溜め込んでいるからな、それに無類の人間好きだし困ってる奴がいたら無条件で助けるお人好しだ。


「ただの通りすがりのバカ二人だ。それと銀行員さんまだこの事って警察には知らせてないんですか?」


「えっ?あ、はい。まだ警察には知らせてないです…」


目の前にいた女性銀行員が答える。


「じゃあ悪いんだけどこの場にいる全員にお願いで、今回の事はこいつに免じて内緒にしといてくれないか?」


「お、お前まで何でそこまでするんだ?警察につきだすとかはしないのか?」


「俺だけなら兎も角、こいつは超がつくほどお人好しなんでね。せいぜい感謝するんだな俺の友達に」


そんな会話をしている間に高速で魔界に行っていた狸三郎がお金の準備ができたらしく、黒のバッグに詰められた大金を男に渡す。

渡されたバッグの中身を男は確認すると、何故かもう一度金額を確認する。


「お、おいあんたこれ何度数えても五百万以上入っているぞ!何でこんなに…」


「多い分はそこの友達二人に渡すといいべ。何せ態々こんな事に付き合ってくれたんだべからな」


狸三郎の慈悲に溢れた表情と言葉にさっきまですごい剣幕だった銀行強盗達が号泣し出す。

なんて人情味に溢れた奴なんだと心底思った。


「「「皆さん本日はご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした!」」」


銀行強盗達は反省し、その場にいる全員に一斉に謝罪の言葉を述べた。


「娘さんは早く元気になるといいべな」


「ありがとうございました!このご恩は一生忘れません!」


「それじゃとっとと退散するか。面倒なことになる前に」


「そうだべな」


一見落着したので俺達は銀行を後にした。

とても満足そうな顔をしている狸三郎を見やる。


「ほんっとお人好しだな狸三郎は」


「そんなことないべ、オラはただ自分の好きな事を好きなようにしてるだけだべ」


「ふーん」


相変わらず変わった奴だな。人間を無条件で助けるのが好きなんて、それも善人悪人問わずにときもんだ。


「おめぇもいつか気付く時がきっとくるべ」


太陽の様に眩しい笑顔を浮かべていた。


「それじゃあオラはもう帰るけんど光一はどうするんだべ?」


「俺は、そうだな。もう少し見て回るよ」


「そっか、んじゃまた今度会うべ光一」


「あぁ、じゃあな狸三郎」


狸三郎は魔界への道を作り帰って行った。

さて、俺はどうするかな。

俺も、狸三郎みたく強くなりたい。もう少し人間界を回って悪人でも成敗してくかな。


―――


夜の帳が降りてきたが今回はあまり標的が見つからなかったな。そう思いつつ町の表通りを歩いていると道の端っこで今にも泣き出しそうな顔で地図と道を交互に見ている少女を見つけた。

黒色の制服に黒髪のロングヘアー。垂れ目でおっとりとした表情だが、見る人を引き付ける魅力を醸し出している。

俺は何となくその少女が気になりその少女に近付く。


「あの、どうかしたんですか?俺で良ければ力になりますよ」


「ひゃう!あわわ、吃驚しました」


「あっ、ご、ごめん脅かすつもりは無かったんだけど…」


「はわわ、こちらこそ声を掛けてくださったのに驚いてしまいすみませんでした!」


「いいですって謝らなくても、明らかに怪しい人に見えますもんね俺。それよりももしかして道に迷ってる?」


「あっはい。ちょっとこのレストランへ行きたいんですけど、分かりますか?そ、それと全然怪しくないですよ!」


「ああここなら分かりますよ。良ければ案内しましょうか?」


「本当ですか!ありがとうございます!」


表情を一転させて明るい笑顔を見せる少女を見て俺も少し嬉しくなりつい狸三郎の事を言えないなと思った。

少女を連れて目的の道まで案内をしていく中少し周りの目が気になった。今は潜伏能力ハイディングスキルを発動していない為黒いマントに身を包んだ男が少女を連れ回しているという怪しい構図が出来上がっているはずだ。

そうこうしている内に目的のレストランが見えてきた。


「はい、ここが君の目的だった場所で間違いないよね?」


「はい!間違いないです!本当にありがとうございました!その、よろしければ一緒にお茶しませんか?お礼として奢りますので」


「うーん、いや、気持ちだけ受け取っておくよ。そんな大した事してないし」


「えー、そうなんですか・・・、私少しあなたとお話したいと思っていたんですが、何か用事でもあるんでしょうか」


「いや、用事は特にないけど」


「じゃあやっぱり一緒にお茶しましょう!ここで会ったのも何かの縁ですし!」


「わ、分かったじゃあお言葉に甘えるよ」


半ば食い気味に誘われた為断るに断れなかった。そのまま二人でレストランの中に入っていく。そのまま店員に席へ案内され向かい合うように座る。

これって浮気にならないよな?大丈夫かな・・・。


「どうかしましたか?もしかして強引に誘ったこと怒ってます?」


「いや、そうじゃないけど。そういえばなんでここを探していたんだ?」


「えっと、友達にここのスイーツが美味しいって聞いたからぜひ食べてみたいと思って」


「そっか」


ちなみに俺はオレンジジュース少女は件のスイーツを注文していた。

品物が届くまで談話している状況である。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は水無月香奈子みなずきかなこっていいます。気軽に香奈子って呼んでください」


「俺は、風間光一だ。光一でいいぞ」


「光一さんですかいい名前ですね」


俺はそうは思ってないがな。あのクソったれた両親が適当につけた名だと思うとどうもいけ好かない。それでもヘルディアにコウイチと呼ばれるのは悪くない響きだと思うけど。

そうこうしている内に店員によって品物が運ばれてきた。俺のはただのオレンジジュースだが、香奈子のは見た目にもどこか可愛らしいガラスのカップに入ったバニラアイスとてっぺんにさくらんぼが乗っかりアイスの周りを色とりどりのクッキーで囲んであるものだった。

香奈子はそのスイーツを見て恍惚の表情を浮かべていた。


「これが噂のスイーツですか。何か見た目は思っていたのとは少し違いますが、美味しそうです」


銀色のスプーンを手に小さな口を開きパクリと一口食べる。


「おぉ、これは中々美味です!アイスの味がしつこくなく、あっさりしていて美味しいです!光一さんも一口いかがですか?」


アイスを掬ったスプーンを俺の口元に向けてくる。


「あ、いやそれはほんとにいいから」


「そうですか、やっぱり私との間接キスは嫌ですか?そうですよねこれだけカッコよくて性格も良かったら彼女くらいいますよね・・・」


たしかにそう言う理由で断ったのもあるがそこまで露骨にがっかりするところかな。

少しの疑問を残しながらも他愛のない会話をしながら一緒の時間を過ごした。


―――


「すっかり遅くなっちゃいましたね」


空に浮かぶ満月を見上げて香奈子はそう言った。

外はすっかり暗くなっていた。


「こんな時間だし女の子一人じゃなにかと危ないだろうし、家まで送っていくよ」


「・・・・・・、本当に光一さんは優しいんですね・・・」


一瞬陰りのある表情を浮かべたのは気になったが、多分気のせいだろう。


「それじゃあ、お言葉に甘えて家まで送っていただけますか?」


「うん、元々そのつもりだったしあまり気にしなくていいからね」


「・・・はい」


そのまま二人で並んで歩くようにして香奈子の家まで歩いて行った。まだ高校一年生ということもあり両親と、弟の四人暮らしだと言う。さぞ家族も心配していることだろう。

歩いてしばらくした頃人っ子一人いない住宅街に入り俺はなんとなく両親に復讐した時のことを思い出していた。あれから二ヶ月も経ったのか。あの時は復讐心で我を忘れていたがヘルディアのおかげで嫌な人間ばかりではないって知る事が出来た。何より、死にたいとまで思っていた俺が今はこうして大切な人の為に生きたいとまで思っている。

あの頃に比べたら随分変わったよな俺。なんて思っていたら突然香奈子が足を止めた。


「ん?どうした?」


「・・・、ごめんなさい・・・」


「?なんの事だ?もしかしてここまで付き合わせたことを謝っているのか?それは気にしなくて良いと言ったはずだが」


その言葉に対して香奈子は無言で頭を横に振った。


「じゃあなんで謝るんだ」


そう言った瞬間何者かに俺の左肩を背後から撃ち抜かれた。


「ぐっ!いって。な、何者だ!」


俺は即座に振り返り攻撃を仕掛けてきた相手を探す。地上にはいない、ってことは上空か!


「いやいや、ご苦労様ですよ香菜子さん」


上空にいたのは紫の長髪を靡かせ、蝙蝠の様な羽を背中に持った明らかに人じゃない何かが悠然と浮かんでいた。紫紺色の瞳と細い顔立ちのせいで男か女か一瞬わからなかったが、微かに喉仏があるのが確認出来男だと分かる。


「っ!本当にごめんなさい!」


背後から涙声の香奈子の声が聞こえてくる。なるほどさっきのごめんなさいはこういう意味だったのか。こいつらグルだったか。


「お前!何者だ!」


「ふふっ、僕はガルバスこの間は僕の可愛い契約者コントラクターがお世話になったね」


「っ!?ってことはお前はあんときのハゲの契約元の悪魔か!一体何の真似だ!こんな女の子まで巻き込んで!」


俺は左肩を押さえながら治癒の術をかけて傷を直していく。


「何故って、目障りだからだよ君たちが。まぁ幸い管理委員の者ではない事は把握済みですが、いずれにせよ僕達の計画を邪魔する者には消えてもらわないと」


「計画?なんの事だ!」


「君には関係ないことだよ。ここで死ぬんだからね。そうそうそれと香菜子さんお勤めご苦労様だったねもう君は用済みだから、死んでいいよ」


ガルバスの右人差し指が香奈子を指すと同時に、指から魔力を込めた弾丸が放たれる。

くそっ!武器の顕現は間に合わない。

俺は弾丸が放たれた瞬間香奈子の前に立ち塞がり、右腕で弾丸を受け止める。


「えっ?ど、どうして私なんかを庇うんですか!私は光一さんを騙したんですよ!」


「知らないな。俺が聞きたいくらいだ。でもお前は決して悪気があったわけじゃない。ただ脅されていただけの被害者だろ?守る理由なんてそれだけで十分だろ」


「ふっ、君ならそういうと思っていたよ。この偽善者が!」


本性を露わにし指を銃の形にして魔力を込め始める。


「くっ!顕現せよ!断罪の刃(シザークロス)!」


咄嗟に武器を構えるもこのままここを動けば香奈子に攻撃が当たってしまう。

ガルバスは右人差し指から魔力の弾丸を連射してきた。

俺はそれをなんとか断罪の刃(シザークロス)で防ぐが、弾速が早く数も多い為捌ききれず少しずつ体に命中していく。

くそっ防ぎきれない。少しずつ体力を削られていく。それに流れ弾が香奈子に当たらないようにする必要もある。一歩でも動けば香奈子は死ぬ。


「ほらほら、どうしたの、そんな自分を騙した人間なんて庇わなければ痛い目に遭わずに済むかもしれないよ」


確かにそうだ。でも今ここで香奈子を見捨てるわけにはいかない。コイツも被害者なんだ。悪いのは全部ガルバスだ。

だがこのままででは二人とも死んでしまう。防戦一方になっているこの状況をなんとか打破出来ないか。

そんな時ガルバスの放った一つの弾丸が捌ききれず俺の腹部を貫いた。


「がはっ!」


痛みのあまり倒れそうになるのを断罪の刃(シザークロス)を地面に支え棒の様に突き刺し、耐える。

しかしここぞとばかりにガルバスは魔力の弾丸を連射してくる。俺はそれに対応できず全弾体に命中してしまう。


「うぐぁっ!」


耐え切れずに右膝を地面に付ける。


「もう・・・もう止めてください!私なんかの為に光一さんが痛い目に遭う必要なんてないんです!私なんて死んでもいいですから!だから・・・もう庇わないで!」


「・・・れ」


「えっ?」


ぎりっ


「黙れって言ったんだよ!お前は俺が守る!だからそう簡単に死ぬなんて言ってんじゃねーよ!」


「で、でも!」


「やれやれ、反吐が出るね。偽善もここまでくれば天晴れだよ。なら君の思い通りその女の子を庇って死ぬんだね!そうすれば女の子の命だけは助けてあげるかもね」


ガルバスは俺の左胸目掛けて魔力の弾丸を放った。

くそ・・・体がもう動かない間に合わない。でもこれで香奈子は助かるのか。いやそんな事はないはずだ。あの残虐非道の悪魔が目の前の命を助けるとは思えない。

だがその思考とは裏腹に弾丸は俺の左胸に命中する。


「うぐぁ!」


意識が遠のき俺は地面に前のめりに倒れた。


「っ!そ、そんな光一さん!嫌だ!死なないで」


「ふふ、無駄だよ香菜子さん。彼はもうじき死ぬ。そう悲しむこともないだろう?どうせ赤の他人だ」


どうやらガルバスが地面に降りて、香奈子と何かを話しているようだ。しかしもう意識が遠ざかっていて何を話しているか断片的にしか聞こえない。

ダメだもう意識がなくなる。完全に意識が闇の中に沈み込んでいく。

・・・・・・・・・。


『コウイチっ、ちょっとコウイチ!こんなところで死ぬなんてぜーったい許さないんだから!』


ヘル・・・ディア?何で声が聞こえてくるんだ。


「そこにいるのか?ヘルディア・・・」


『コウイチは私の大切な家族なのっ!こんなところで死なれたら・・・私また一人ぼっちになっちゃうよ・・・。だから、生きて帰ってきて!』


ヘルディア・・・。そうだ、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。もうヘルディアを悲しませるわけにはいかない。

動け!俺の体!ガルバスを殺して香奈子を守って生きてヘルディアの元へ帰るんだ!


「はっ!?」


永遠とも思える永い時間意識を手放していた気がしたが、なんとか意識を取り戻せたみたいだ。


「ふはははっ!そこまで言うならお前もあいつの元へ逝かせてやるよ!」


「・・・ごめんなさい光一さん私の為なんかに死なせてしまって。今私も逝きます」


気が付けば今正に香奈子が殺される寸前だった。ガルバスは紫紺に輝く長剣を手に今まさに香奈子を貫かんとしている。

俺は歯を食いしばって立ち上がる。


「何っ!?まだ生きていたのかい意外としぶといね」


「っ!こ、光一さん、よかったまだ生きていたんですね」


「へっ、やる事を思い出して地獄の淵から蘇ったんだ」


俺は直ぐに左胸に手を当てて治癒の術をかけながらガルバスの前に立ち塞がる。


「言ったろ?俺はお前を守るって。俺は家で俺の帰りを待っている大切な家族がいるんだ。だから死ぬわけにはいかない」


「やれやれ、死にぞこないのくせに一体何が出来るというんだい?」


「あんたを殺すことぐらい訳ないさ」


治療も程々に俺は地面に突き刺さったままの断罪のシザークロスを掴む。


「今度は二度と起き上がれないように切り刻んであげるよ!」


横薙ぎに振られた長剣を弾き返すとガルバスは舌打ちをし連続で剣撃を繰り出してくる。俺もそれに対して剣を交えながら防いでいく。いくら少し治療したとはいえ体はボロボロで悲鳴を上げている。


「しつこいね君も。とっとと諦めたらどうだい!」


ガルバスは長剣を真上に持っていき。真っ直ぐ振り下ろす。

俺はそれを断罪のシザークロスを両手でもち大きく開き一撃を受け止める。


「へへっ、お前の剣捕らえたぞ!」


断罪の刃(シザークロス)の中心部分で長剣を抑え、同時に挟むようにして両手に力を込める。


「く、まだこんな力が残っていたなんてね」


ガルバスは長剣をなんとか動かそうとするがそれをギリギリの力で押さえ込み渾身の力で断罪のシザークロスを捻るようにしながら閉じようとする。


「うああああああああ!!」


ガキンという音と共に紫紺の長剣が折れて紫のガラス片の様な物を撒き散らし、物質化していた魔力が飛び散る。それと同時に勢いよく断罪のシザークロスが激しい金属音と共に閉じられる。


「う、嘘だろ!?どうしてお前なんかに!?」


「てめぇ、歯ぁ食いしばれやあ!」


断罪の刃(シザークロス)を右手で持ち直しガルバスの顔面に左フックを思いっきりめり込ませる。

その反動でガルバスは左側に飛んでいった。俺はなんとか体を動かしてガルバスの元へと近づいていく。


「うぐぅ!な、なぜだ!何がそこまでお前を駆り立てるんだ!」


「お前には一生掛かっても理解できないだろうさ」


怒りと驚きに満ちた表情を浮かべているガルバスの顔に断罪のシザークロスを突き刺す。

すると黒い霧になって辺りに霧散していった。完全に消え去ったのを確認し俺は妖力の物質化を解除する。

やっと、終わった。マジで死ぬかと思った。

俺は後ろを振り向くと泣きじゃくっている香奈子の姿があった。


「うぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」


さっきからずっと涙声で謝り続けている。俺はゆっくりと香奈子に近づき優しく頭の上に右手を乗せる。


「大丈夫か、怪我はないか?」


無言で小さく頷く。


「そっか、なら良かった。それと俺の事はもう気にするな。これぐらいどうって事無いから」


「そ、そんなことないです!私のせいで光一さんは死にかけたんですよ!なのに、なのにどうして平気そうな顔をして・・・私に優しくするんですか!」


頬を掻きながら答えを探す。


「俺が好きでやった事だ。だからお前は気にするな。それに香奈子だってあの悪魔に誑かされた被害者だろ?」


「で、でもっ!」


俺は右手の人差し指で香菜子の口を塞ぐ。


「謝るのもう禁止な。今こうして俺もお前も生きているんだからそれでいいだろ」


香奈子の顔が一気に紅潮する。

ちょ、ちょーっとキザ過ぎたかな。


「・・・、分かりました。そこまで言われたら何も言えないじゃないですか・・・」


「うむ、分かればよろしい」


「あ、あのっ!こ、光一さんはその、彼女さんはやっぱりいるんですか?」


「へ?急にどうしたの?」


「い、いえちょっと気になって・・・」


「い、一応いるけど」


「そ、そうですよね、予想はしてましたけど・・・。い、今の質問は忘れてください!」


「ん、わかったよ」


露骨に残念そうな顔をしていたな。一体何でだ。

取り敢えずそろそろ帰らないときっとヘルディアも心配しているに違い無い。

俺は魔界への道を作る。


「あっ、もう帰っちゃうんですか・・・」


「ああ、待ってる奴がいるんでな」


「あの、また、会えますか?」


「そうだな、またこっちに来ることがあったら会おう」


「約束ですよ?私ここの地域の萃霊すいれい高校に通っています。家もそこの近くにありますので機会があれば会いに来てくださいね」


「分かったよ。じゃあまたね」


「はい、また・・・」


お別れをして俺は魔界へと帰っていく。流石に傷だらけで帰るわけにはいかないので、全身の傷を治癒してからヘルディアの家へ向かった。


「ただいまー」


「おっそーい!もうどこ行ってたの?こんな遅くまで帰らないから心配したんだよっ!」


家に入るとそこには頬を膨らませてぷりぷり怒っているヘルディアがいた。

怒っている姿も可愛いな。


「ってどうしたのそれ!?服がボロボロだよ!?何かあったの?」


「あ、ああ実は・・・」


やべ、服直すの忘れてた。

俺はその後今日起こった出来事をヘルディアに話し、「無理しちゃダメっ」とか「私以外の女の子とお茶してたんだー。ふーん」とかなり冷たい目で見られたので弁明に苦労した。

久しぶりの更新です。遅れて申し訳ないです。次は早めに更新します。

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