家族の絆と謎の契約者
初めて真面目な戦闘シーンを書いています。絶対に変だと思うので注意して閲覧ください。
ヘルディアと暮らし初めて早一ヶ月が経とうとしていた。俺らは偶には休息も大事と言うことで、お昼から人間界に出掛けていた。所謂デートと言うやつで、俺とヘルディアは手を絡めるようにして繋ぎながら並んで歩いていた。 ヘルディアはというと、終始うきうきした様子で鼻歌を歌っていた。よほど嬉しいんだろうな、これはデートした甲斐があるってもんだ。肝心のデート場所と言えば、今現在は人の往来の激しい繁華街を巡っていた。何故今回人間界に来たのかと聞かれれば、単純に魔界では何度もデートをしたから偶には気分転換と言う事で人間界に遊びに行くことになった。幸いにして、魔界の妖和国と実際の日本で使われている通貨は同じなので、人間界で買い物も可能となっている。なぜそのようなシステムが実現しているのかは、妖怪は妖魔族の中でも人間と深い関係があるからだそうで、表の人間が知らないだけで、人間と妖怪間での取引なども行われているそうだ。それが理由で妖和国にも日本通貨が出回っているという事だと魔界の古参者から聞いた。なので妖和国で仕事を行うと日本通貨で給料が貰えるのだ。
「それにしても、今日は良い天気でよかったな」
「そうね、絶好のデート日和って感じっ」
他愛のない会話を交わしながら、俺は辺りを見渡して少し人間界を懐かしむ。ちょっと前まで毛嫌いしていたが、こうして大切な人と一緒にいると景色の違って見えるな。なんて感傷に浸っていると、どこかからか香ばしい香りが漂って来た。この香りは、焼き鳥かな。懐かしいなそういや人間の頃はよく買って食べてたっけ、俺はタレよりも塩派だったな。なんて考えていたら久々に食べたくなってきた。
「なぁヘルディア。ちょっとあそこの焼き鳥屋に寄ってかないか?」
「うん、別にいいけど私達には人間の食べ物って不要じゃない?」
「偶にはいいだろ楽しむだけなんだから」
「ふふっ、それもそうね。それじゃ行きましょっか」
俺達は向かって左側にある焼き鳥屋へと足を運んで行った。近づけば近づくほど焼き鳥の香ばしい香りがより一層食欲を駆り立てる。店の前まで行き、店員のおばさんを見やる。
「すみません、ひなの焼き鳥塩味を二本ください」
完全に余所行きの声である。おばさんは「あいよ」と言い焼き鳥をにほん焼き始め、出来上がった物を手渡してくる。「日本で二百円だよ」と少しよぼよぼしい声でそう伝えてくるので、俺はズボンのポケットから財布を取り出し百円玉を二枚手渡す。「毎度あり」と会釈し二百円を受け取ったおばさんは営業スマイルでこちらを見送る。俺達は焼き鳥を片手に、近くのベンチに腰掛け焼き鳥を食す。うむ、久々に食べたがやっぱり美味いなこれは、病みつきになる味だと感心せざるを得ない。一方でヘルディアはというと、
「はむっ、もぐもぐ、んくっ。んん!美味しい!もしかしてこれ初めて食べてかも!」
ヘルディアは生前の記憶があやふやな為、食べた事があるかどうか本人自身よく分かっていない様だ。
それはさておき・・・、さっきから周りの好奇な目がやたらと気になる。それもそのはず、俺らはいつもの仕事着で人間界の街中に昼間っから闊歩しているわけだから、注目を集めるのも無理はない。俺は食べ終わった焼き鳥の串を近くのゴミ捨て場に捨てて、しばし考える。いくらなんでもこれは不自然かもなぁ。だって傍から見たらただのコスプレイヤーだもん。これは、かなり痛いカップルと思われてもおかしくない。早く何とかしないと。そう思いふと右側に目をやると、かなり大規模な衣料店を発見した。あそこなら男物から女物までそろってそうだな。ちょっと高価そうだが、ここ一か月で結構な額を二人で稼いできたしな。問題ないだろう。俺の考えが纏まったところで、ヘルディアも焼き鳥を食べ終わったらしくきちんと串をゴミ捨て場に捨てていた。
「よしっ、ヘルディア。次はあそこの衣料店に行こうか」
「うん?あそこのお店?いいけど、何の用?」
「ちっとこの格好じゃ目立ちすぎるからな、衣装替えをしに行こうかと思ったんだが、駄目だったか?」
「なるほどね、そういう事だったの。道理でさっきから少しそわそわしてると思ったら、そのことが気になっていたのね。まぁ確かにいい気はしないものね」
「うしっ、それじゃあ行くか」
俺達は再度、手を繋ぎ合って衣料店の方角へと足を運ぶ。店内へ入るとそこは太陽の光よりも眩しいのではないかと思うほどの照明と、沢山の衣類が陳列されていた。隣にいたヘルディアが「うぅ、眩しいよぅ」と言いつつ、眼の前に手を翳していた。それには俺も激しく同意だったが、すぐに目も慣れてきた。さて、まずはヘルディアの服から探すかな。
「ヘルディア。お前この中で何か好きな服選んでちょっと試着して来いよ」
俺は女性服売り場を指差し、服選びをさせる事にした。
「ううん、私はコウイチが着てほしいっていう服を選んでほしいな」
うーむ、そう来ましたか。ヘルディアに似合いそうな服か・・・。何がいいだろうか。俺は考える為にヘルディアをまじまじと見つめる。いつもヘルディアはゴスロリ系統の服を好んで着ている。今日も仕事着の紅色のゴスロリと、それにセットとなるような紅色のヘッドドレスをつけている。俺はふとヘルディアが髪を下ろしていた時の事を思い出す。今はツインテールにして纏めているが、下している姿も可愛かったんだよな。と思い、かかっている桜色のスカートと、白色と所々に桜の意匠が施されたTシャツ、それから小物として白の花の髪飾りに目をつけ、その三点を選んでヘルディアをコーディネートしてみる。正直女性服には詳しくないのでこれで良いのか分からなかったが、ヘルディアに薦めてみたところ二つ返事でOKをもらいそのまま試着室へ入っていく。しばらくして試着室のカーテンが開かれて、俺が薦めた服装に身を包んだヘルディアが姿を現す。自分で言うのもなんだがなかなかの良いコーディネートになったと思う。
「どうかな?にあってるかな?」
「ああ、すごく似合ってるよ。いつもとは違う雰囲気で可愛いよ」
「そっか、良かった。ありがとね素敵な服を選んでくれて」
「礼を言うのはこっちの方だ。ファッションに詳しくない俺のコーディネートに付き合ってくれたんだから」
ちなみにここの店ではその場で着て買って帰る事が出来る。なので先ずは真っ先にヘルディアの分の服の料金を支払ってくる。そのまま支払いを済ませ次は俺の番だが、あまり良いのが思いつかないな。何せお洒落には微塵も興味が無かったからだ。ここはヘルディアに任せてみよう。
「ヘルディア、次は俺の服を選んでくれないか?」
「わかったわー」
そう言って、そそくさと紳士服売り場へと向かって行く。ヘルディアは迷いの無い手つきで服を見繕っていく、そして「はいこれ、着てみて」と渡されたのは黒のTシャツとジャケット、そして黒のチノパンだった。どこまでも俺は黒のイメージが強いらしい。まあ好きだから問題ないけど。手渡された服を持って試着室に入り、着替える。着替えが終わったところで試着室のカーテンを開ける。自分でも確認はしてみたが、まあ普通だった。
「うんうんっ、似合ってるよ。カッコいい!」
「そ、そうか?」
なんて事は無いと思うがヘルディアにそう言ってもらえるなら嬉しい。気に入ってもらえた様なのでこの服も購入しそのままその服を着て店を出る。ちなみに着ていた服は、店員さんに言ってビニール袋を用意してもらいそれに入れている。これで目立たなくなったので、次はどこか別の所を見に行きたいところだ。うむ、確か近くに遊園地があったはずだ。そこでデートと言うのもなかなか良いかもしれないな。確かここから北に向かった方向にあったはず。
「よーしっ、じゃあ最後は遊園地で遊んでいくか」
「ゆうえんち?なにそれ?」
「うーむ、遊園地を知らないのか・・・、まぁ行けばどんな所か分かるよ」
「そっか、じゃあそのゆうえんちって所に行こっか」
「おう、もう午後の三時だしな、早く行こうか」
俺達は小走りで遊園地へと向かって行った。
―――
俺達は日が暮れるまで、遊園地を堪能した。俺も行ったこと自体無かったので、年甲斐もなくはしゃいでしまった。ヘルディアも楽しんでもらえたようで帰る頃には満足げな笑みを浮かべていた。時間は限られていたが、それなりのアトラクションで遊ぶ事が出来た。お化け屋敷以外は。唯一行ってないのがお化け屋敷だった。すでに人外な上、魔界暮らしの俺達からすれば子供だましもいいところだったからだ。むしろ脅かす側だからな。なんて冗談を交わし合っている所に、楽しいデートをぶち壊すアクシデントが起こる。目の前で、父親と母親、そしてまだ五歳くらいの子供を連れた三人家族が怪しい男に絡まれているのを発見してしまったからだ。絡んでいる男は身長は大体百八十前後と行った所で見た目は紺のスーツ姿で、肌は褐色、そのうえスキンヘッドでサングラスまでしているので傍から見ると誰かのボディーガードのように見える。しかし、明らかにその家族に悪意をむき出しにしているのが伝わってくる。何よりさっきから横でヘルディアが殺気立っている。そんな止めに入ろうかどうか考えている時褐色の男が不意に五歳くらいの幼子を容赦なく殴りつけた。なんてゲス野郎だ!あいつ・・・!すぐに制裁を加えようとするが、今のまま突撃すればともすれば殺してしまう。なんて一瞬戸惑ったのが間違いだった。子供の両親たちが、我が子を庇う様に褐色の男に果敢に立ちふさがるが、あっさりと横薙ぎに振られた右拳に吹き飛ばされてしまい。子供の両親は意識を失ってしまう。子供が両親に駆け寄って泣きじゃくっている所に事もあろうか追撃をかまそうとしていた。さすがにまずい!このままじゃ、あの家族は殺される・・・!最悪の結末が脳裏をよぎった瞬間。
「やめなさい!この愚か者!」
俺よりも先にヘルディアが疾風のごとき速さで殴り掛かっていた。あの速さならヘルディアの方が早くあの男を吹っ飛ばすだろう。そう安堵した瞬間。
「っ!?」
男が予想外の反応速度を見せヘルディアをロックオンしたかと思ったら、次の瞬間ヘルディアの拳を上手く受け流しそのまま、左手でヘルディアの首掴み持ち上げる。
「かはぁ!?う、うぐぅ・・・」
普通の人間ならまずヘルディアの速度についてこれない。それどころか攻撃をいなし、あっさりヘルディアの首を絞めるなど出来っこない。仮に出来たとしても、ヘルディアが掴まれた手を振りほどけないはずがない。絶対に。俺は状況が理解できずただ茫然としていた。なぜだ、あいつは、人間じゃないっていうのか!?い、いや待て!このままじゃ、ヘルディアが殺される!く、くそ!お、俺はヘルディアを守るって、そう誓ったはずだろ!?このままじゃ、でももし本当にあいつがただの人間だったら・・・、いや・・・もうそんな事どうだっていいだろ!?俺はあの男を殺してでも、ヘルディアを守る!!
「顕現せよ!断罪の刃」
俺は叫ぶと同時に男目がけて一直線に走っていった。そして、まずヘルディアを開放する為に男の左腕を斬り落とす。よし、まずはこれでヘルディアを開放できた。後は、そこにいる家族三人を逃がしてからこの男を殺す。俺のヘルディアに酷い目を合わせた報復だ!
「おい、あんたらはもう逃げろ!いいか!この事は警察にも誰にも言うなよ!」
そう叫び先ずは家族を逃がす。そのあとヘルディアの様子を見た。
「おい!ヘルディア!大丈夫か!?」
「かはぁ・・・ぁ・・・ぅ・・・」
「!?な、なぜだ!?何でまだこの腕はヘルディアの首を絞めているんだ!?」
確かに斬り落とした筈なのに!何故か今も腕だけでヘルディアの首を絞めている。
「何でと言われましてもねぇ、そういう契約なので」
「はぁ!?契約?いったい何のことだ!」
「さぁ?私に聞かれましてもねぇ。それよりも、早くしないとそのお嬢さん死んでしまいますよ?」
「くっ!この野郎!」
俺は急いでヘルディアを助ける為に、ヘルディアの首を絞めている左手を引きはがそうとしたが、尋常な力ではなかった。くそ、考えろ!他に何か方法は!
俺はダメもとでヘルディアの首と男の左手の間に強引に指を突っ込み、男に指を一本一本へし折っていく作戦に出た。思いのほか上手くいき何とか、ヘルディアを開放する事が出来た。
「ヘルディア!しっかりしろ!おい!俺の声が聞こえるか!?」
返事が無かった。ま、まさか、間に合わなかったのか・・・?
俺は祈る思いでヘルディアの胸に耳を当てた。
どくん、どくん。
良かった、問題なく心臓が動いている。近づいた事で息をしている事も確認できた。単に気絶しているだけと分かり俺はほっと胸を撫で下ろし、安堵するのも束の間、後ろに悠々と佇んでいる仇敵に向き直る。奴は間違いなく人間じゃない。だとすれば、
「おい、あんた。妖怪治安維持管理委員の者だろ?」
それ以外に考え付かなかった。
「言っとくが、俺らは禁は犯しちゃいねーぞ!いったい何の用だ!答えろ!」
「?はて、妖怪治安維持管理委員?そんなものは知りませんねぇ」
「あぁそうかい!とぼけるってんならそれでもいい、どっちにしろ人間じゃないなら、殺しても問題ないからな!」
俺はそう言い放つと同時に、左足を軸に回転し後ろ回し蹴りを顔面目がけて放つ。男にはそれを右腕でガードされるが、それも織り込み済みだった。そのまま右足を掴まれる前に素早く引き、一度バックステップで距離を取る。そして右手に握り締めた、断罪の刃を下から斬り上げる。だがそれを容易に、左足で横に蹴り飛ばされ、断罪の刃は宙を舞い、地面に突き刺さった。さすがにこれを避けて来るのは予想外だったので少し驚きの声を上げてしまう。男はその隙を狙って、俺の顔面目がけて右ストレートで突進してくる。俺はそれを上手く力の方向を左手で右側に逸らし、相手の勢いを逆に利用し、右回転してからの右肘を相手の後頭部に直撃させる。普通の人間ならこの一撃で死ぬか、気絶するはずだが、相手は人外ぴんぴんしてるに違いないので、間髪入れずに軽くジャンプし頭頂部に右踵落としを喰らわせる。これにはさすがに応えたか、ズシリという音を立てて前のめりに倒れる。
この隙に先ほど蹴とばされた断罪の刃の突き刺さっている場所まで駆けて行き、改めて右手で握り直し、男の上に立ち後頭部に断罪の刃の切っ先を突き付ける。
「これで、形勢逆転だな。殺す前に一つ聞かせてもらおう、お前は本当に管理委員の者ではないのか?」
「違うって言っているじゃありませんかぁ」
「ならお前は何者だ?」
「殺すなら関係ないんじゃないんですかぁ?まぁ、いいですけどねぇ。私はそうですね・・・、契約者とでも言えばいいんですかねぇ」
「契約者?誰の?」
「さぁ?私にも分かりませんのでねぇ」
「この状況でまだ白を切るつもりか、いい度胸だな」
「そんな事より重いんですけどねぇ。どけていただけませんかぁ!」
「っ!」
俺が乗っかって凶器を突き付けている事なんて、まるで関係ないと体現するように、勢いよく起き上がる。まだそんな力が残っていたとはな。俺は不意に起き上がられた反動で宙を舞う。そのまま空中で一回転し着地する。それと同時に断罪の刃を顔面目がけて左から右へ薙ぎ払う。契約者と名乗る男は右手を曲げ顔をガードするようなポーズをとる。バカが、この勢いなら右腕ごと首をはねる事が出来る。そう思っていた。俺の断罪の刃が男の右腕に当たるほんの一瞬に、
「・・・鉄壁防御」
ボソッと何かを呟いたと思った瞬間、ガァアン!という耳鳴りがしそうな金属音とともに俺の武器があっさりと弾かれてしまう。
くそ、まさか防衛魔術まで使ってくるとは、予想外だった。渾身の一撃を弾かれてしまった俺は大きな隙が出来てしまい、男の右中段蹴りが俺の腹部を痛打する。その勢いで俺は吹っ飛ばされてしまうが、空中で体を捻り何とか転倒する事だけは免れた。
「がはっ!く、油断してた・・・」
断罪の刃を地面に突き刺し体を立ち上がらせる。
「さてと、そろそろ本気を出しますかねぇ」
相変わらずのふざけた口調で、首を回してからそう言うと。
「斬り潰せ、肉潰しの斧」
男がそう呟くと、斧とハンマーが合体したような銀色の凶器が顕現する。まだこんな隠し玉を持っているとはな、ここまで来たらもう驚かないが、益々コイツの正体が気になるところだ。
「ここからが本番ってわけかい」
ニィと笑みを浮かべて、俺は本腰を入れる。一瞬の静寂がこの場を流れ、先手を切ったのは相手の男だった。地面を蹴飛ばしてこちらに突進してくるので、すかさず空中に飛翔し攻撃を躱す。当然相手もつけて来るので、断罪の刃で牽制しつつ、徐々に上へあがっていく。
上下左右に剣戟を交わしながら、お互い一歩も譲らぬ戦いをする。最初こそ、肉潰しの斧の、圧倒的な馬力に気圧されていたが、武器を交わえ続け一つの事に気づく、コイツ俺よりも武器の扱いに慣れていない。徐々に動きが鈍くなっていく、恐らく体が付いていけていない証拠だ。これなら覚えたての術を試すのにちょうどよさそうだ。一度、互いの武器を交差する形で打ち付け合い鍔迫り合いの構図になるが力で押し切られそうになるので、後ろに下がる。そして、両手を脱力するような恰好をして、
「妖術、俊翔」
術発動のトリガーとなる言葉を呟くと、自身の体が軽くなるのを感じた。これは、三分間自身の飛翔速度を通常の三倍にするという術だ。ただしこれを一度使うと再発動までに、十分以上の待機時間が発生してしまう為、まさにここぞというときに発動する妖術だ。よし、何度か練習しておいたかいがあった。俺は勝利を確信する笑みを浮かべて、目にも止まらぬ速さで、男の周囲を縦横無尽に飛び回り、上から下へ、下から横へ、横から上へと斬りつけて行った。そして最後に、空中で体当たりをし、横に寝かせるようにしてから男の真上から、腹部へと断罪の刃の切っ先を突き刺し、急降下して行く。そのまま地面に叩きつける形で落ちる。すると、もう戦う気力は残っていないといった状態で体を痙攣させていた。
「冥土の土産にお前の死因を教えてやるよ」
俺は男の腹部にさしている断罪の刃抜き、左に刃を構えた。
「それは、俺のヘルディアを傷つけ、俺を怒らせたことだ」
俺はそのまま断罪の刃を右に振るい首を掻き切った。
「せいぜい地獄に行かない事を祈るんだな」
そう吐き捨て、俺は武器の物質化を解除し、ヘルディアの元へ駆け寄る。
「・・・・・・・・・」
俺はいまだに目を覚まさないヘルディアを見つめていた。俺が不甲斐無いばっかりに、こんな酷い目に合わせてしまった。俺はその罪悪感だけで押しつぶされそうになった。
「ごめんな、・・・辛い思いをさせて・・・・・・」
そう呟いて俯いていると、微かにヘルディアの声が聞こえた気がした。
「ぅん、ううぅ・・・、あれ・・・どうしたの?コウイチ?そんな顔して・・・」
やっと目を覚ましたヘルディアに俺はまるで子供のように抱き着いた。
「ごめんな・・・っ、俺が、俺が弱いばっかりに、こんな目に合わせてしまって・・・」
「そんな・・・コウイチが悪いわけじゃないじゃない。だから、謝るの禁止っ、ねっ?」
「うぅ、ありがとうなヘルディア・・・」
俺は思わず強く抱きしてめていたらしい、ヘルディアから「ちょっといたいよ・・・」と言われハッとして力を緩める。本当に生きていてよかった。
「そういえばコウイチ、あのムカつくハゲは?もしかしてコウイチが殺したの?」
「あぁ、どうやらあいつは人間じゃなかったからな。それに、あいつ妙な事を言っていたな」
「妙な事?それっていったいどんな事?」
「たしか、契約者て言っていたな。結局誰の回し者で、いったい何の目的があったかすらわからなかった。・・・ただ、その男一度俺の攻撃を防衛魔術で防ぎやがったんだ」
「ま、魔術を使ったっていうの?そんな・・・まさか、人間のようで人間じゃない。それも魔術を使い、剰えそのハゲは自分の事を誰かの契約者って名乗ったて言うの?」
体を起こしたヘルディアが心底不思議そうに顎に指をあてて思いふける。
「どうした?何か思い当たる事でもあるのか?」
その問いかけに対して、少し自信なさそうに話しを始めた。
「んっとね、私が聞いた話なんだけど・・・まず魔術っていうのはもっとかみ砕いていうと魔法なのよ。魔法て言ったら普通は妖怪は使えなくて、西洋の悪魔たちが使う物なの。だから、そいつは間違いなく、妖怪ではないわ」
「妖怪じゃない・・・だと?つまりさっきのあいつは悪魔の手先かなんかだったて事か」
「それでね、普通悪魔は日本には入って来てはいけない。そう条約で取り決められているんだって。件の管理委員もそういった輩が条約を破って入って来た場合は追い返す、または排除するって話よ」
そうだったのか、つまり日本に本来いてはいけないはずの存在が侵攻して来ているって事か。
「そして一番気になるのは、さっきのハゲが誰かの契約者だって事、悪魔が一番得意としているのが、有名な悪魔の取引。人間相手に文字通り法外な内容で取引し、絶対遵守の契約を交わすって言う事。つまり、あのハゲはたぶらかされただけで、裏で糸を引いている黒幕がいるっていう証拠なのよ」
「そうか、なるほどな大体合点がいった。でもそれならそのうち管理委員の連中が解決してくれるんじゃないか?」
「恐らくね、まぁ用心する事に越した事は無いと思うわ」
「それもそうだな、そう言う事もあると分かっただけで警戒も出来るってもんだ。今回はそこまで強い奴じゃなかったが、そうじゃなかったら結構危なかったかもな」
「そうだったんだ、・・・、うん、見た目にもコウイチに大きなけがもないようで安心したっ」
そう言ってヘルディアはすっと立ち上がり、体に付いた土などをパンパンと払っていた。
「そういえば、あの三人家族はどうだったの?ちゃんと無事だった?」
「ああ、一瞬気絶していたが、大した外傷も無く無事帰っていったぞ」
「そっか、それならよかった」
「優しいんだなヘルディア。最初合った時はこんな心の優しい奴だとは思わなかったよ」
胸に手を当て心から安堵しているヘルディアを見て、心に思ったことを素直に言った。
「むー、ちょっとひどいー。あの時殺してた男たちだって複数人数で寄ってたかって、女の子を凌辱しようとしていたから、殺しただけなんだよ?」
「俺の事はどうするつもりだったんだ?元々は」
「んー、ちょっと脅したら逃げていくって思っていたんだけど、予想外の答えが返って来てね。それに、あの時も言ったけど、私と同じ瞳をしていたから・・・それで現在に至るって感じね」
そんな裏事情があったのか、ここ一か月以上はずっと一緒に過ごして来たのにまだまだ知らない事があったんだな。って、そりゃそうか、まだ一か月だもんな。
「じーーっ」
「んっ?どうした?俺の顔に何かついているか?」
なんだかやたらと見つめて来るのだが。擬音語付きで。
「いやー、なんか昔の事話していたら、無性にキスしたくなって・・・ねっ」
「そっか、じゃあ荷物拾って帰るか」
「んっ!」
目を瞑って、明らかにキスを催促しているのが分かる。文脈から察してはいたが、家に帰ってからでいいじゃないか。
・・・・・・・・・。キスするまで帰りませんオーラが半端ではなかった。はぁ、と一つため息をつく。分かったよ、分かりましたよ!もう。
「んっ・・・」
俺は優しく口づけをした。すると、途端に満足そうな顔をして「えへへー、セカンドキッスいっただきー」と上機嫌に回って見せた。
「んじゃ、これで満足したろ?さっさと帰るぞ」
「はーい」と言い、やっと承諾をもらえたのでようやく帰る事が出来そうだ。そう思った瞬間。
ゾクゥ
「っ!?」
突然、言い知れぬ寒気に襲われた。いや、寒気なんて生半可な物じゃない。俺の心臓を貫かんばかりの冷たい何か、それは今まで感じた事もない現象だった。まるで、地球丸ごと氷河期に襲われたかのような、そんな感覚だった。時間も何もかも凍り付かせるその何かに、俺は全く動けないでいた。敵意や殺気とも、つかない感覚。なんなんだこれは!?いったいなにが!?だれが!?そ、そうだヘルディアは、ヘルディアはどうしているんだ!?確認したいのはやまやまなのに、体が言う事を聞いてくれない。何も聞こえない、凍り付いた世界にたった一人取り残された。そんな絶望感が全身を襲う。くそ!どうなっているんだ!
やがて思考回路すら凍り付いたような感覚に襲われ、なにもかんがえられなくなって・・・い・・・く。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・イチ!」
・・・・・・・・・・・・。
「・・・コウイチ!しっかりしてよ!ねぇ!」
「・・・・・・っはぁ!?はぁ・・・お、おれはいったい・・・?」
「っ!コウイチっ!気が付いた?急に立ち止まって何の反応もなくなるから心配したんだよっ!」
「へっ?そ、そうだったのか?そ、そんな事よりもヘルディアお前は大丈夫だったのか!?」
「それはこっちの台詞っ!突然何もない所で立ったまま意識を失っていたのはコウイチの方なんだよっ!?」
俺、だけ・・・?そ、そんな馬鹿な、あそこまで大きい現象俺だけしか気づいていなかった?
何がどうなっているんだ・・・?
はてさて、結末はすでに決まっているのですが、その道程がなかなか思いつかなかったりと、早くも根を上げ始めるダメな作者の姿がそこには存在していた!
・・・・・・もし楽しみにしている方がいたら本当に申し訳ないです。