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フィフス  作者: 北の大地
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四話

 思わず声を上げた俺に、胡乱気な視線を向けたのは長老だった。その顔は、俺に対するなんだこいつといった不信感を露わにしていた。


 「旅の者よ、おぬしには関係のない話だ」


 いつの間にか俺の呼び方が「旅の方」から「旅の者」に変わっているし、この老人はよほど俺の介入が気に食わないようだ。まあ当然だろう。村の秘密に余所者が首を突っ込もうとしているのだから。


「天霊どの、なぜこの旅人をお連れになったのです?わしはてっきり天霊どのの付き人と思っておりましたが、先ほどからの態度をみるに、どうやら違うようですな」


「いや、コイツは……」


「俺のことはどうだっていい!なあ、さっきからお前らは何の話をしているんだ?……っ!」


 それはウィルドゥーラに関する話なのか?そう言いかけて俺は慌てて口を噤む。待て、俺が知っていることは、この老人には黙っていた方がいいのではないか?今ならまだ、俺は無知な旅人を演じることができる。


「なあ一体……」


「黙らんかい!」


 俺が口を開きかけたところで、長老の一喝が飛んできた。気圧された俺は思わず口を閉ざす。中々、迫力のある喝であった。


「……ふん。余所者がごちゃごちゃと首を突っ込む話ではない。ましてや怪しげな旅の者など……待て、旅人?貴様もしや、昨晩からベルの所に寝泊まりしている小僧ではあるまいな?」


 そういうと長老はジロリと俺を睨みつける。どう考えても今のはベル婆やセシルに聞かれたくない話だったんだろうな……だとすると、益々この老人にこれ以上の詮索を仕掛けるのは無謀か。というか長老よ、とうとう俺の呼び方が「貴様」になってるぞ。


「す、すまない。贄がどうこうと、不穏な話に聞こえたものだから。ああ、俺のことは無視して、どうか話を続けてくれ」


「もう話すことなどないわ」


「もう話すことなんかない」


 俺がしらばっくれると、不機嫌そうな声が二方向から帰ってきた。どうやら長老ばかりでなく、手元の羽ウサギも虫の居所が悪いらしい。


「そ、そいつは失礼した。じゃあ、俺はそろそろお暇させてもらうことにするよ」


 ここは逃げるに限る。居心地が悪くなった俺は、この場からの退散を決め込んだ。長老は本当にもう話すことがないのだろう、むっつりと黙りこんだまま俺を一瞥すると、ふいと顔を背けて、特に口出ししてくるようなことはなかった。俺はウサギを抱えたまま、逃げるように村長の家を出て行った。





 村長の家を出てから暫く、俺達は無言だった。やがて沈黙に耐えきれなくなったのか、ウサギがその小さな口を開いた。


「なあオマエ、本当は知っているんだろう?」


 ここでしらばっくれても仕方がない。それに、こいつには思わせぶりなことを言ってしまった。


「ウィルドゥーラのことか」


 するとウサギは素直にこくりと頷いた。さっきから思っていたが、こいつの仕草は一々人間くさいな。


「やっぱり……なあ、あれで本当に良かったのかな。確かに、これで村は助かる筈なんだ。でも……」


「村にウィルドゥーラの脅威を告知していたのは、お前だったのか」


「ああそうだ。その脅威の避け方も。それを知っていたオイラは、この村の守護天霊となって代々の村長にこのことを伝えてきた。だから村はこれまで平和でいられたんだ」


「毎回、村娘一人を犠牲にして?」


「……っ、そうだ」


 俺が痛い所を突くと、ウサギは悲痛そうな声で肯定した。こいつはやはり、村から生贄を出さねばならないところに、内心苦々しさを感じていたのだろう。だからこそ願っていたに違いない。何か違う方法はないものかと――


「お前さ、なんで素直に長老に相談しなかったんだ?一緒に生贄を出さない方法を考えてくれって。そうすりゃ、あの頭の固そうな長老も少しは考えてくれたかもしれないのに」


「無理だ。そりゃ、最初のうちはオイラだって時の村長に相談もしたさ。でも、なんの解決策も出なかった。偶然、人がよくて腕の立つ冒険者でも通りかかれば話は別だが、ここはノルド村だ。そんな希望に縋ったって、どうしようもないのにな……」


 それで何百年もこの状況に甘んじていたっていうのか。それを聞いて、俺の中では沸々と怒りが沸き上がってきた。そんなあるはずもない偶然にしか、この村は縋るものがなかったのか。神はこいつを遣わしておきながら、一体何をしていたんだ。


「村さえ救えりゃそれでいいのかよ……!」


 俺が怒りに震えていると、ウサギが悲しそうな声で言う。


「今回もまた、村娘が一人犠牲になって、村は助かるだろう。悔しいが、オイラ達にはどうすることも……」


「いや、それはない」


 怪訝そうな顔をするウサギに、俺は説明した。今村には年頃の娘が一人しかいないこと。そしてその保護者であるベル婆が何故かウィルドゥーラのことを知っており、一人娘たるセシルを逃がそうと画策していることを。


「でも、それじゃあ村は……」


「ウィルドゥーラは村を襲うだろうな。でも、ベル婆にとってはそれでいいんだ。セシルを守り抜くことができれば」


「そんな……」


 ウサギは力なくうなだれると、悲しそうに首を振った。だが、いつかこんなことになるのは、こいつにだって分かっていた筈だ。


「村のことを考えれば、止めるべきなんだろうな。でも、オイラはには何もできない。いや、したくないんだ……」


 そして俺達の間に長い沈黙が降りた。セシルを俺が連れ出せば、きっと村は滅ぶだろう。だからといって彼女を生贄に選ぶことなど、どうしてできようか。

 もしくは、元凶たるウィルドゥーラをなんとかするしかない。だが、今の俺でなんといってもレベルが足りなすぎるし……待て、レベル?

 俺は自分の腰にぶら下がっている剣を一瞥すると、チラリとウサギを見やってから、自分の懐に手を当てた。もしかしたら――いや、やってみる価値はあるかもしれない。


「おい」


 俺はうなだれたままぼんやりしているウサギに声を掛ける。


「森に戻るぞ。今すぐにだ」


 いきなりそう言われたウサギはキョトンとしてこちらを見上げた。相変わらず可愛い――そんな小動物を抱えたまま、俺は今度は急ぎ足で森へと向かった。





 森に戻った俺は、ウサギを地面に下ろすと、まずは慎重に獲物を探す。ここで都合よくゴブリンでも出てくれば完全にRPGなんだがな――そう思っていると、不意に近くの茂みがガサゴソと音を立てた。


 すわゴブリンか――?そう思って俺が身構えた途端、ガサリと茂みが蠢いて、中から巨大な蛇が姿を現した。


「なんだただの蛇……」


「へへへへへ蛇だあああああっ!」


 何故か足元のウサギが相当にビビっている。何故だ。ただの蛇じゃないか。だが俺は、身構えた姿勢を解かないまま、注意深く蛇を観察する。蛇はどうやらこちらに敵意があるようで、シューシューと音を立てながら大きな牙でこちらを威嚇している。こちらからの距離は……三メートルくらいか。


「お、おい!蛇出てきちゃったぞ蛇!どうするんだいやオマエなんとかしろ!」


 ビビりすぎだろう……天霊の癖にこいつはなんで蛇が怖いんだ。ウサギだからか?わからん。だが、丁度いい獲物が見つかった。俺はほくそ笑むと、懐から短剣を取り出し、静かに鞘から抜き放った。


「さーて、実験といこうか」


 俺は短剣を構えたまま、未だにこちらを威嚇している蛇に向かって一歩踏み出す。するとそれに反応するかのように、物凄い勢いで蛇がこちらに襲いかかってきた。――速い!だが少しでも――俺は短剣をがむしゃらに蛇に向かって投げつける。うまく当たるように願って投げた短剣は、しかし俺の意思に反するかのように蛇の頭を少し掠めただけだった。だが――


「ぎゃあ!……あれ?」


 蛇は頭を抱えたウサギの正面に倒れたまま、事切れていた。


「し、死んでる……?」


 呆然と呟くウサギの傍らで、俺もまた、信じられないものを見るかのような目で死んでいる蛇を見た。まさか本当に蛇を倒すことができたなんて――だが、これで俺の予測は確信に変わった。やはり、この短剣にも+99が掛けられている。一体どういう仕掛けでこんなことになっているのかは分からないが、この短剣と腰の長剣さえあれば、どんな敵がでてこようと、今の俺でも倒すことができるのではないだろうか。


 俺は蛇の側に近付くと、落ちていた短剣を拾い上げた。あとの条件はもう一つ――俺はまだ驚いているウサギに向かって振り返ると、そいつに問いかけた。


「お前、その羽で空は飛べるか?」


 ウサギは顔を上げると不思議そうにしながらも答えた。


「あ、ああ。これでも天霊だからな」


 それを聞いて俺は安堵した。これで条件は整った。


「おい、羽ウサギ。ウィルドゥーラを倒しに行くぞ。俺達で」


「え……ええっ!?」


 驚いて飛び上がるウサギの、その仕草が俺にはとても滑稽に映った。

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