二十一話
「……よし、終わった」
ウサギの持ってきた服に身を包み、頬の傷を化粧で隠した少年の姿は、すっかりそこらにいる町娘の姿へと変貌を遂げていた。
「オマエ……すごいな。頬の傷がなくなっただけじゃなくて、なんというか……顔立ちからしてまるで別人みたいだ」
「別に、このぐらい……慣れれば簡単にできる」
少年はやや視線を逸らしながらぶっきらぼうにそう言った。照れているのか、それとも化粧のせいか、頬がほんのりと赤らんでいる。
「とにかく、これで外に出る準備はできた」
少年はそう言うと、先ほどまで着ていたドレスと化粧箱を樽の中に隠す。
「……ここでいいか」
「まあ、こんなところ滅多に人は来ないだろ」
隠し終えると、彼らは入口に戻ってその扉をゆっくりと開く。
「よし、行こう」
「おう!」
そうして、一人と一羽は倉庫の外へ出た。
彼らは倉庫を出発すると、真っ直ぐに近くの門へと向かう。ライールには街の入口となる門がいくつもあり、それぞれに門番が二人ずつ配置されている。だが、そこで彼らにとっての計算違いが起こった。
「なんかあそこの門……物々しくないか?」
「ちょっとマズいかも知れないな……」
彼らが向かった門の先には二人の門番の他に、ガタイのいい男が三人、門から出て行く人々を見張っていた。通行人は、いつもよりも物々しい門の雰囲気に、肩を小さくしながら通ってゆく。
「ボクが戻らないせいで、見張りが増えたのかも。これじゃ誤魔化しきれるかどうか……」
「一旦引き返すか?」
「いや、このまま行こう」
少年はウサギを両腕でしっかり抱えると、やや怯えるふりをしながら男達の前に姿を現す。
「ん?」
男達の内の一人が訝しげに少女――正確には少女の姿をした少年――の方を見た。しかしすぐに視線を逸らすと、それより少し離れた場所を歩いていた商人に視線を移す。
「おい」
「ひぃ!あ、あの、なんでございましょう?」
「その大荷物はなんだ。中を改めさせろ」
「こ、これは商品で……大体なんの権限があって……」
商人と男達が言い争いを始めたのを横目に、ウサギを連れた少年は易々と門を通り抜けることができた。
「あれは……リック……?」
その姿を、一人の青年が見ていたことにも気付かずに。
リックを探して歩き回っていた俺は、気づけば街の出入り口である門の近くまで来てしまっていた。
「流石にこんなひらけたところにはいないよなぁ」
俺は肩をすくめる。こんな人通りの多い場所に、リックが来る訳がない。そう思って引き返そうとした俺の視線の先に一人の少女の姿が映り、思わず俺は足を止める。
「あれは……リック……?」
その少女は、珍しいことにウサギを抱えていた。やけに厳つい門番達の前を、少女は怯えながら通り抜け、街の外へ出る。
「あいつ、なんで女の子なんかに捕まってるんだ……?」
大方、可愛いもの好きの街娘にでも捕まったのだろうと俺は見当をつける。しかし、一緒にいる人間というのがあのような少女で良かったと、俺は安心する。あれならば、リックに危険なことはないだろう。
「でも、街の外まで追うとなると……セシルを置いていく訳にはいかないな。一旦、宿に戻るか」
俺はリックの無事を確認すると、宿に戻る為にその場から踵を返した。
宿に戻ると、俺は早速セシルに事情を告げた。
「……という訳で、これから街を出ようと思う」
「まあ、リックが……」
セシルは少し驚いているようだった。まあ、それはそうだろう。リックが女の子と一緒にいて、更に街を出ようとしているだなんて。
「とにかく、荷物を纏めよう。セシル、鞄を広げてくれ」
「はい、わかりました」
俺とセシルは急いで荷物を纏めると、宿の主人に挨拶をして出発する。宿を出た時、俺は一度後方を振り返った。
「そういえば、あいつ……どうしてるのかな」
街の東側で偶然再開した少年。俺達の隣室にいた彼は、今頃一体どこで何をしているのだろうか。
「でもとにかく今は、リックを追わないと」
「ゲイルさん?どうしました?」
「いや、なんでもない」
俺は宿に背を向けると、街の北側の門に向けてセシルと歩き出した。




