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フィフス  作者: 北の大地
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十三話

 街の東側――そこは、ちょっとした高級住宅の立ち並ぶ地域であった。周囲を歩く人々も大半が仕立ての良い服に身を包んでおり、旅装姿の俺達は少々肩身が狭い。しかし、街の東側に来たはいいが――


「どこに向かえばいいんだ……?」


 今にして思えば、随分とアバウトな情報だったと思う。一体、この地域のどこに神父と関わるものがあるというのだろうか。


「こういう時、ゲームなら空き家とか壺とかを漁るのがセオリーなんだが」


 そうそう簡単に見つかる訳がなかった。大体ゲームのように不法侵入紛いのことを繰り返して空き家を探し出せるほど、俺のメンタルは強くはない。


「見るからに空き家っぽい家とかがあれば、楽なんだけどなぁ……」


「あっ、あそこにありますよ!」


「え?」


 俺はセシルの指した方向に目をやる。するとそこには、見るからに人の住んでいなさそうなボロい建物が街並みから浮いて存在していた。


「あるのかよ……」


 その建物は周りをすっかり蔦に覆われていて、所々の壁が剥げかけ、いまにも崩れそうな外観をしていた。何故こんな建物が、この高級住宅地に残っているのだろうか。


「とりあえず、覗いてみるか」


 俺達は、その建物に向かって歩く。見れば見るほど――それは立派なボロ家であった。つくづく、何故この場所にこんな家が残っているのか、理解に苦しむ。

 建て付けの悪い木製の扉を開けて、俺達は中へ踏み込んだ。


「うわ、汚いな……」


 家の中には、割れた木箱やら、樽やらが散乱していた。あちこちに物が転がっていて、足の踏み場もない。それでもなんとか部屋の中を進み、俺達は家を探索する。


「うう……歩きにくいです」


「なんかこの部屋埃っぽいぞ」


 二人の口からも不満が飛び出す。それほどに、家中が汚かった。一体この家は何なのだろう。高級住宅地に一軒だけ佇むボロ家屋。内部もとてつもない散らかりぶりだが、果たして、こんなところに神父の手掛かりなどあるものだろうか?


「おいゲイル!あれ……」


 ふと、リックが声をあげて部屋の隅に飛び立つ。何だと思ってそちらを見れば、倒れた木箱の隣に階段らしきものが――って、おい、


「RPGかよ……」


 RPGであった。そういえば。ご都合展開もいいところである。もしくはあの占い屋も含めて、何かの仕組まれた罠だったりするのかもしれない。警戒を怠らないようにしながら、俺は階段に近づく。


「なあリック、出来過ぎじゃないか?これはもしかしたら誰かの罠」


「よし行ってみよう!」


 ウサギは何も考えちゃいなかった。真っ先に羽を広げたまま階段へ飛び込んだウサギを、慌ててセシルが追い掛ける。


「あ、リック!待ってください!」


 そうして駆け下りて行くセシルを見て、俺はひとつ溜め息をつくと、やれやれといった心持ちでその後に続くのだった。





 階段は思ったより長く続いていた。降りれば降りるほど、暗闇が俺の体を包むようで、俺は少し寒気を覚える。


「闇魔法か……」


 前方で、空中に留まっていたリックがそう呟いた。そういえば、こいつの適性は光だったな。


「気分が悪い……照らすぞ」


 リックがそう言うと、途端に、その体が光り始めた。ぼんやりとした発光だが、確かに、それは周囲を暖かく照らし出す。


「優しい光……ありがとうございます、リック。お陰で少し楽になりました」


 やはりセシルも俺と同じようにこの闇に息苦しさを感じていたらしい。少し気が楽になったところで、残りの階段を下って行く。


 階段を降りた先には、小さな扉があった。ちょうど人間が少し腰を曲げれば通れるくらいの扉だ。俺は扉に手をかけると、リックとセシルの顔を交互に確認する。


「……よし、行くぞ」


 二人が頷いたのを見て、俺は扉を開けると中に足を踏み入れる。ぬちゃりと足元で音がして、俺が目を向けると――


「うっ……」


 俺は慌てて口を押さえる。足元のそれは血であった。辺りにはどことなく鉄の匂いが立ち込めている。ここは――何だ?


「酷い……」


 気付けば、セシルもまた扉を抜けてこちら側に来ており、俺と同じように手で鼻と口を覆っていた。


「なんだよこの部屋……」


 俺の横をすり抜けるように飛んで、リックが呟く。ウサギの照らし出す光によって辺りを見回せば、そこは小さな部屋のようであった。壁には飛び散った血の模様が描かれていて、足元の血の海には所々何かの骨や皮のようなものが浮いている。凄惨な光景であった。そして、部屋の奥には――


「ン、ダレダ?」


 クチャクチャと音をたてながら、何かを食べている生き物の姿があった。いや、それを生き物と言っていいのかどうか――二メートル程の体躯に、四本の腕。足と呼べるようなものは無く、ただ体の溶けたような胴体が地面に貼り付いている。潰れたような顔の部分には巨大な目が付いていて、それがぎょろりとこちらを見つめているのが、なんとも不気味であった。


「怪物……」


 セシルが小さく呟く。そうだ、これは怪物だ――俺は咄嗟に身構える。そして、魔法を放とうとイメージを――


「おい、オマエ神父を知らないか?」


 リックが怪物に問いかける。俺は一旦、放とうとしていた魔法を取り止めた。そうか。奴は言葉を喋った。もしかしたら、何か会話することで情報を得られるかもしれない。


「シン、プ?シンプトイウノハ……これのことか?」


 するとゆらりと怪物の姿が揺れて、神父服を着た男の姿に変わった。


「神父……様……?」


 セシルの驚きようから察するに、どうやらあれがこの街の神父らしい。


「おいお前、神父をどうした。それともまさか、お前がこの街の神父本人だとでも言うのか?」


 俺はそいつを問い詰める。奴は神父の姿をした偽物か、それとも――


「ああ、この姿かい?便利だよ、この体になってからは――まあ残念なことに、私達がオレタチになっテからハ、神の加護ガ受ケられナくなってシまったのだがね」


 とても残念だよ――そう言って溜め息をつく神父の姿は、どこからどう見ても先ほどの怪物とは似ても似つかない人間のものであった。


「お前……神父をどうした」


「私達ならここにいるじゃないか。それとも青年、キみはオレタチのことヲ――いや、私達のことを疑うのかい?」


「お前は……」


「この街の神父は私達だ。それは疑いようのない事実だよ」


「分かった、訊き方を変えよう。教会で不幸を振り撒いているのは――お前か?」


「ほウ」


 すると神父はみるみるうちにその体を溶かして、また元の怪物の姿に戻った。


「アレハフコウトシテメブイタカ。ナラバ、オレタチノケイカ――計画、ハ、セイコウしたと言ってイイノだろウ」


 そう言う怪物は、四本ある腕の一つで傍らに落ちている何かを拾い上げると、またクチャクチャと音を立てて咀嚼し始めた。


「計画……?」


「オマエガシル必要ハ――ナい」


 そう言うと、怪物の姿をしたそいつは、いきなり俺に襲いかかってきた。





「危ないっ!」


 咄嗟に、セシルが俺の手を掴んで怪物から引き離す。瞬間、俺の居た場所に何かが飛んで来るのが見えた。


「ありがとう、セシル」


「いえ、それよりも……」


 神父は、四本の腕を使って何かを空中に描いている。ん?神父……?


「また神父に戻ってるだと!?」


 しかし腕は四本のままだ。そのまま、神父は爛々と光る青い目でこちらを見据えると、四本の手をこちらに向けた。


「滅ビろっ!」


「っ!まずい!」


 俺は咄嗟に風の力を使って、神父に向けて攻撃を放った。


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