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フィフス  作者: 北の大地
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十二話

 あの少年を救いたい――それはもしかしたら、俺の自己満足に過ぎないのかもしれない。けれど俺は既に知ってしまっている。彼に、あの子どもにこれから更なる不幸な運命が待ち受けていること。そして、今以上に彼が人間に対する絶望を知ってしまうことを。それを知りながら、どうして何もせずにいられようか。


「リック」


 声を掛けると、目の前のウサギは片耳を上げてこちらを見た。


「ん?」


「……出掛けるぞ」


 俺は昨晩と同じようにリックをひょいと小脇に抱える。


「って、一体どこ行くんだよゲイル!おいっ!」


「知らん」


 そして、傍らから聞こえる喚き声を黙殺しつつ、俺は適当に街へと繰り出した。





 昼間の街の大通りは、そこそこに活気づいていた。至るところに露店が立ち並び、通行人が行き来する。雑多な足音や商人の呼び声が飛び交って、俺の耳を埋め尽くす。こうやって見ると、本当に人々の息づかいが聞こえてくるようで――


「ここが、ライール……今ライールの街に立ってるんだよな、俺」


「何言ってるんだ?オマエ」


「いや、人が沢山いるなと思って」


「なんだよ、オマエも存外田舎者じゃないか」


 今、まさに現実のライールにいるという感動が、俺の身を包んでいる。不本意ながら隣のウサギには田舎者扱いされてしまったが、まあいい。俺はリックを無視して周囲の露店に目を向ける。どれも、本物だ――ゲームでは精々武器屋、防具屋、道具屋くらいしかなかった露店も、食べ物屋、雑貨屋、服屋、占い屋なんかが加わって人々の生活感に溢れている。……待て、今一つだけ変なのが――


「……占い屋?」


「珍しいな、こんな小さな街に占い人がいるなんて」


「リック、占い人って?」


「知らないのか?魔力で人の運命を占うんだと。まあ、オイラも聞いたことがあるだけで、実際に占ってもらったことはないんだけどな」


「占い屋か……」


 そんなものはゲームのライールにはなかった。少し興味を引かれて、俺は水晶玉の看板を掲げた占い屋へと足を向けてみる。


「いらっしゃい」


 俺達を出迎えたのはしわがれた声の老婆だった。なるほど確かに占い屋らしいと、俺は胡散臭い老婆を見ながら思った。なんというか、雰囲気がまったくそれらしいのだ。


「おや、珍しいお客さんだねぇ」


 老婆が俺とリックを交互に見ながらそう言った。一体、どちらのことを指しているのだろうか。


「お前さん達、随分と遠くから来たようだ」


 それを聞いて、俺は自然と顔が険しくなるのを感じた。この老婆――占い人ってのは、一体どこまで見通せるんだ?


「お婆さん、俺達は……」


「さて、商売といこうかね」


 俺の言いかけた言葉を遮って、老婆は言った。


「お前さん達、何が知りたい?」


 知りたいことは沢山ある。だが――


「占いってのは、人にかけられた呪いについても分かるのか?」


 俺が今知りたいことは、それだった。


「ほう……」


 すると老婆は感心したような声を上げた。


「面白いところに目をつけるね。そうか、呪いか……お前さん、さては教会に行ったね?」


「まあな」


「そうかいそうかい。まあ、心配は要らんよ。少なくともお前さん達は呪われていない」


 それを聞いて、俺は少し安堵すると共に、知りたいのはそこじゃないとかぶりを振る。


「あの教会について知りたいんだが」


「五十ゴルだよ」


 ゴルはフィフスにおける通貨の単位だ。俺は小さな革袋からやや小さめの銅貨を五枚取り出すと、老婆に手渡した。貨幣の数え方は、昨日の内にセシルから学んでいる。


「確かに……それでは、占おう」


 そして、老婆は手元の水晶玉に手を翳すと、ゆっくりと目を閉じた。


「ふむ……お前さんの気がかりになっているのは、あの神父様だね?」


「あ、ああ……」


「……呪われている、わけではないようだよ。むしろこれは……何かに憑かれてるんじゃないかねぇ。街の東側へ行ってごらん。そこに真実がある」


「街の、東側……」


「占いで分かるのはここまでだ。あとは自分で答えを探し出すんだね」


「ああ、ありがとう」


 神父の件に関して、思ったより簡単にヒントが貰えてしまった。それはそれで有り難いと思いつつも、俺は――


「そうそう。これはついでだが、お前さんの考えている子どもならば呪われているよ。深く……強い呪いだ。くれぐれも助けようなどとは考えないことだね」


 釘を差された――だが、俺はあの子を諦めたくはない。呪いだと?そんなもの、解けばいいだけの話じゃないか。

 俺は拳を強く握りしめる。なんと言われようと、俺の決心が鈍ることはない。キッと睨むように老婆を見れば、彼女は先ほどまで脱いでいたフードをすっぽりと被って、もう占いは終わりだとでも言うように固く口を結んでいた。

 俺は革袋から更に二枚、銅貨を取り出して老婆の前に置くと、サッと踵を返して占い屋を後にした。





 青年が立ち去った後、一軒の占い屋がひっそりと大通りから姿を消す。だが通行人は、誰一人としてそのことに気付かない――





 占い屋を後にした俺は、大通りから少し離れた小路をぶらぶらと歩きながら思案していた。


「うーん」


「どうした、ゲイル」


「なあリック、街の東側に行ってみるべきだと思うか?」


 リックがきょとんとした顔でこちらを見る。


「行くんじゃないのか?」


「行こうとは思っているが……その、今すぐ行くべきか、迷ってる」


 するとリックは俺の腕からスルリと抜け出して、俺の正面に降り立った。


「セシルは?一緒に連れて行かないのか?」


「それは……」


 俺は迷っていた。街の東側に行けば、きっと神父に関わる何かがあるに違いない。だが、もしそれが危険なものだったら?俺は危ないことにセシルを巻き込みたくない。だが、これからも一緒に旅を続けて行くのに、そんな悠長なことを言っていられないことも確かなのだ。


「どうしてセシルを連れて行かないんだ?」


 リックが純真そうな瞳で俺を見据える。


「セシルなら、この話を知ったらきっと行きたがると思うぞ」


「そう、だよな」


「ああ。それにセシルは役に立つ。少なくとも、魔法初心者のオマエよりはよっぽどな」


「あ……」


 そうか。セシルは俺なんかよりも、よっぽど熟練した魔法が使えるのだ。悩んでいる場合ではなかった。と同時に、複雑な気分にもなる。俺は、まだまだ状況の判断がうまくつけられないらしい。


「セシルを呼びに行こう」


 そして俺達は、セシルを呼びに宿へと戻った。





 宿へ戻った俺達は、占い屋の言ったことをそのままセシルに伝えた。すると彼女は思案するように暫く俯いてから、パッと顔を上げて街の東側へ行きたいと言い出した。


「街の東側へ行けば、神父様の噂を確かめることができるのですね?」


「ああ……おそらくは。だが、もしかしたら何か危険なことがあるかもしれない」


「大丈夫です!さあ、早速出掛けましょう」


 本当に大丈夫だろうかと不安になる俺の隣で、リックはうんうんと頷くとちょこんと俺の肩に飛び乗った。重い。


「お、重い……」


「ほらさっさと行くぞ!夕飯までには帰ってくるんだ。オイラ人参が食べたい!」


「ふふ、そうですね。ここのお宿の料理は美味しいですから、なるべく急いで帰ってきましょうね」


「お、おう……」


 随分気軽だなこいつら――だが、面倒事を手早く済ませたいのは俺も一緒だ。夕飯までに帰ってくる。そう心に決めて、俺は二人を連れて宿を出発した。


 まさか、夕飯に間に合うどころか、ありつくことさえできなくなるとは思わずに――

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