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ケツバズーカ

作者: 富山晴京

 僕たちは空き地で遊んでいた。

 そして最近、新たな遊びを、僕らは考案した。

 この空き地には、ガス管を管理しているところがあるのだけれど、そこに何のためにあるのか知らないが、一つの、狭い部屋に通じるドアがあった。

 その狭い部屋というのが、それこそ人間一人はいるのがやっとぐらいの広さで、何もない。

 そのうえ、照明がないものだから、扉を閉めてしまうと、まったく暗くなってしまう。

 ここで重要なのは、この扉である。

 この扉、どうも立て付けが悪いのか、一度閉めるとなかなか開かなくなるのだ。

 それこそ、多少の努力をもってしなければ開かない。

 この努力のほどが、ちょうどいい運動になる。

しかもこの扉というのが、簡単に開きもせず、かといって開かないというわけでもないという絶妙のバランスを保っているのだ。

 だから、私たちはこの扉の中に友達を一人ずつ交代で閉じ込めて、それを救い出すというゲームを最近やっていたのである。

 さて、今日も今日とて、私たちは扉に一人を閉じ込めた。

 いつもなら、全員がまんべんなく二三回ばかり体当たりすれば、扉は開く。

 ところが、そこまでやっても開かない。

 我々にとって、全員が数回体当たりというのは、一種のボーダーラインであった。たいていそれくらいやれば開く、というのが今までの経験から言えることであった。

 それから何回も体当たりをしてみるが、いつまでたっても開かない。

 これにはいよいよ僕らも焦りだした。

「なんかやばくね、これ?」

「ちょっときつく締めすぎたかもな……」

 言いながら、僕らはドアをけったり、ドアノブをガチャガチャやってみる。しかしなかなか開かない。寸分たりとて、動く気配がない。それがまるでこのドアが永遠に開かないとでも言っているようで、より不安をかきたてる。

 ヒヤッとする空気のようなものが胸の中に入り込んでくるような気がした。

 皆が一様に顔に深刻なものを抱えている。

「これ、ちょっとマジで開かねえんだけど、やばくね?」

 一人が言いながら、体当たりをする。やはり開かない。

 もうかれこれ、いつもの二倍近くは体当たりをした。しかし扉は一向に動く気配はない。

「おい、中からもちゃんと引っ張れよ!」

「引っ張ってるよ!」

 中から悲鳴のようにいやに甲高い声が返ってくる。

「どうしよう開かないよ!ねえどうしよう!」

 とうとう、中の人がパニックを起こした。

 そりゃそうだ。この扉が開かないで誰が一番困るかといえば、そりゃ中に入っている人である。

 そのパニックがこの状況をよりひっ迫させた。

 この扉が開かなければ、中にいる彼は出てこられない。

 そうなれば、僕らが彼を閉じ込めたことになってしまう。

 永遠にこのままというわけではないだろう。親が来てくれれば、何とかなるだろう。

 しかし来たからにはまず僕らを叱るだろう。いかなる罰則が待っているかわからない。

 殊に今回は友達を閉じ込めてしまったのである。友達の親は怒る。また、そんな時ほど親は一層怒る。僕が親を困らせると、親はいつにもまして、罰を重くする。

 殴る。ける。心を押しつぶす罵声。そんなものが心の中を満たしていく。

 頭の芯が凍ってしびれるような、そんな感覚がした。

 開かない、そんなはずはない。

 そんな恐ろしい幻想を、信じたくはない。

 信じたくなくて、扉をける。

 しかし扉は動かない。

 幻想が、現実へと追い付き始める。

 どうあっても開けなけりゃいけない。

 その時、聡君が扉の前に尻を突き出した。

 尻をぴったりと扉に着ける。

「ケツバズーカ!」

 そして恐ろしい勢いでもって、尻をドアにたたきつけ始めた。

 だだだだだだだだだん!

 怒濤の勢いでもって、尻が扉を連打する。まるで機関銃だ。

 と、ドアがじりじりと交代し始める。

「おお、開いてきたぞ!」

 だだだだだだだだだん……。

 やがて、彼は力尽きて、地面に寝ころんだ。

「よし、あとは任せとけ!」

 そうして僕らはドアをがんがんとけりまくった。

 ドアが一度後退し始めると、見る見るうちにドアは後退し始めた。

 そして間もなく、ドアは開いた。

 ドアが開くと、中にいた彼はへらへらと笑っていた。ついさっきまでパニックになっていたくせに。

 かくいう僕も、不安に顔を凍らせていたのが嘘のように、笑っていたことだろう。

 僕らはそれから、友達の家へゲームをやりに行った。


 あれから大分経つ。

 ここまでの時間の中で、いろいろなことを忘れてきてしまったけれど、この時のことだけはよく覚えている。

 今思うと、ケツバズーカという技のなんとあほらしいことか。

 僕はこのケツバズーカという技を思うと、顔がほころぶ。

 このケツバズーカを思い出すと、その馬鹿みたいなネーミングに笑うのはもちろんのことだが、それと同時に、頼もしさのようなものを感じて、心が安らかにもなるのだ。


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