79.犯人は俺です。本当にありがとうございました!
先ほど、俺たちをこの部屋に案内した女性の係員が、いつの間にか俺たちのやりとりをじっと見ていた。
「先ほど、お客様の部屋でなんらかの魔法の発動を感知いたしましたが、ご無事ですか?」
淡々とした口振りで、女性係員は壁に空いた大穴の向こうから、俺たちに声をかけてくる。
やばい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいだろ!
見られただろ! 穴とか獅子王とか!
クリスは今にも気絶寸前だ。
俺は叫んだ。
「う、うわーーーー! 獅子王だあー! すげぇ! こんなに臨場感のある幻影が出てくるなんてびっくりだなー!」
プリシラとフランベルが察して俺に続く。
「マジすごいよねー! 恐ろしさがはんぱないしぃ」
「壁に開いた穴までまるで本物みたいだよー! すごいなー!」
おいフランベル! そこは触れなくていいところだぞ!
女性係員はキョトンとした顔だ。
獅子王が首を傾げる。
「レオ様……壁には穴が開いておりますし、私も幻影ではなく召喚獣の幻体なのですが」
「いいから黙って俺たちを怖がらせろッ」
俺は小声で言って獅子王を肘で小突く。
理解してくれたのか、獅子王はゆっくり頷いた。
「ふ、ふは、ふはははは! この獅子王に挑もうとはおろ、愚かなり人間どもぉ!」
獅子王が適当に腕を振るいだす。
俺とプリシラとフランベルで、かいくぐるようにして攻撃を避けた。
が、二度三度と続けるうちに、獅子王の攻撃を受けて、俺は床の上に転がった。
「うわー! やっぱ獅子王は強いぜー」
「はっはっはっは! 人間どもを根絶やしにしてくれるわー! あー、なんか気持ちがスーっとするぞ! ふはははは! ふはははは!」
おお、獅子王もノッてきてるじゃないか。
意外とこういうのにも付き合ってくれるんだな。
もしかして、すごく良い奴なんじゃないか?
というわけだから頼む。頼むからこの俺たちに今できる、精一杯の茶番劇で納得してくれ係員さん!
女性の係員は軽く視線を落とすと、少し考えこむような素振りで呟いた。
「たしかドラゴンとの戦闘のはずでしたが……少々お待ちください。プログラムの確認をしてまいります」
早足で係員が通路の向こうに去って行く。
プリシラとフランベルがホッと胸をなで下ろす。
俺は獅子王の顔を見上げた。
「というわけだから、この部屋の壁と同色の石材を頼む」
「は、はいー! すぐにご用意いたします!」
一度、獅子王は召喚用の魔法陣の中に沈み込んで、すぐにこちらの要求の物を調達してくれた。
この恩は、そちらの世界の災厄を一つ取り除いて返すぜ獅子王!
◆
係員が戻ってくる前に壁を埋め、俺が理論魔法で壁に隙間ができないよう接合し、部屋の床や壁に張り巡らされた魔法式的な繋がりを修復すると、獅子王を元の世界に見送って……俺たちは何食わぬ顔のまま、正面玄関にある受付を目指して通路を進んだ。
ちなみに、クリスが壊してしまったリングも、俺がある程度修復したのだが……もしかしたら少しだけ、効きが強くなってしまっているかもしれない。
ついつい、壊れたモノを直すと元のモノよりも、強化してしまいがちなんだよな。
それはそれとして、すっかりクリスは気落ちしてしまった。
「ごめんなさい。わたしのせいで」
プリシラもフランベルも首を左右に振った。
「しょーがないよ。本当に幻影にみえないくらいドラゴンはすごかったし、クリっちはレオっちを助けたかっただけだもんね」
「そうだよ! むしろ制御リングがやわすぎるのさ!」
俺も頷いた。
「まあ、気にするなよクリス。怪我人も出なかったし、部屋の方も壁を強化して、元々走らせてあった魔法式より、効率の良い式に書き換えておいたから」
クリスは浮かない顔だ。
うーん、どうすれば元気を取り戻してくれるんだ?
俺は軽くせき払いを挟んだ。
「ともかく、今後はこういうゲームみたいなものでも、俺は絶対に負けない。弱いところはクリスに見せない。それなら安心だろ?」
「レオの負担になるなんて……私は仲間失格ね」
余計にクリスは落ちこんだ。。
「クリスは自分を責めすぎだぞ。それに、裁判じゃ情状酌量って言葉があるだろ?」
「え……ええ」
「さっきのは、その余地が十分あると思うぜ」
真面目なのはいいんだが、もう少しクリスには自責の念から解放されてほしいな。
フランベルがあっけらかんと笑った。
「そうだよクリス! 魔法の暴発を気にしてたら、魔法使いなんてやってられないんだしさ」
「お前はもう少しだけ、反省の気持ちを持てるようになろうなフランベル」
プリシラが小悪魔チックにニッコリ笑った。
「まあ、なにはともあれ無事に出てこられてよかったよね。そーだ! じゃあクリっちのおごりでお茶しに行こうよ! いいお店知ってるからさ! それでノーカン! このお話はおしまい! ね?」
プリシラがうまく緩衝材になってくれて、ようやくクリスも少しだけ、笑顔を取り戻した。
手続きを済ませて制御リングを返却し、外に出ようとしたその時――。
「お客様! 先ほどは失礼いたしました。プログラムに問題は認められませんでしたが、誤作動により、違うプログラムが再生されてしまったようです。申し訳ございません。本日は当方の不手際で大変ご迷惑をおかけいたしましたので、皆様方には今後一年間の利用フリーパスを進呈させていただき、お詫びにかえさせていただきたいのです!」
俺は振り返らずに、三人に言う。
「逃げるぞ……みんな」
「「「えええッ!?」」」
クソ真面目な奴がクリス以外にもう一人いたー!?
あんまり関わり合いになると、どんなお詫びという名の重荷を背負わせてくるかわかったもんじゃない。
俺たちは逃げるように建物を飛び出した。
もう、この施設には二度と来ることはない……と、願いたい。
――後日。
正式オープンした施設――幻影闘技場。
複数あるブースの中に“獅子王が乱入し、壁が崩壊する特別バージョン”になる部屋があるという噂が立っていた。
さらに制御リングには“幻影にだけ効く魔法が使えるようになる”個体があるという、これまた都市伝説が生まれたとのことだ。
そういった噂が呼び水となって、今では王都でも指折りの人気スポットになったとかなんとか。
犯人は俺です。本当にありがとうございました!




