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45.新メニュー追加!

昼休み直前に、ギリアムに頼まれていた専門書を直接手渡しにいった。


教員室には午前の授業を終えた教員たちが、次々と帰ってきている。


中で待つのも居づらいので、廊下に立っていると……。


「おやおや、出来の悪い生徒のように廊下に立っているなんて、どうしたんですか平民の管理人?」


最初からご挨拶だなギリアム。


にんまり笑うと余計に蛇みたいだ。


「頼まれていた本だ。確かに渡したからな」


「おー。貴方でも私の役に立てるんですね。感心感心。ではとっとと立ち去ってください」


俺はじっとギリアムを見据えた。


こいつのお使いを頼まれて襲撃に遭ったのだ。


あの時間、人通りが余計に少なくなるあの書店の立地や環境は、襲撃にあまりに条件が良すぎる。


「どうしました? 私の美しい顔に見とれているんですか? そういうことは気持ちが悪いのでやめてください」


「い、いえ……なんでもありません」


ギリアムはまったく意に介さない。


俺が知る限り、ギリアムはポーカーフェイスとはほど遠い男だ。


ちょっとしたことで激昂するし、感情を抑えられる性格ではない。


俺の視線に一切動揺をみせないということは、襲撃は本当にたまたまでギリアムは無関係……か。


ギリアムとこれ以上顔を突き合わせていてもしかたない。


「失礼します」


「ああ、君は本当に失礼な男だよ。心から反省するように」


ギリアムの言葉を背中で聞き流しつつ、俺は昼飯を調達しに購買部へと向かった。



午後の授業も終わり、管理人の業務もつつがなく一段落ついた。


こまめにバラ園の手入れも進めている。施設の損壊といった、大きなトラブルにも見舞われなかったので余裕があった。


魔法武器を作る魔高炉の調子が、少し悪いというので簡単に修理をしたくらいか。


こちらは専門家を呼ばなくても、修理できる範囲の故障だった。


足りない鋼材の発注表をまとめて、総務部に提出した。


――そして、今日も放課後は三人娘の特訓だ。


攻撃面ではフランベルとクリスはなかなかのものだ。


守備に関してはプリシラもなんとか形になりつつある。


この先、どう指導しようか考えていると、いの一番にフランベルが校庭に姿を現した。


「師匠! ぼく……自分なりに特訓を考えてみたんだ!」


子犬のように俺の前まで駆け寄って、フランベルはアイスブルーの瞳をキラキラさせた。


腕組みをすると俺は相づちを打つ。


「ほうほう。どんな特訓だ?」


自主的に考えてくるなんて、少し驚いたな。良い案なら採用しよう。


「ぼくの一閃なんだけど、使うと眠っちゃうよね」


継続戦闘能力を放棄するからこそ、繰り出せる技だ。


俺の教えた抜刀術を、フランベルはそうアレンジした。


「そうだな。その時に出せる力の全部を一撃に乗せる。フランベルらしいじゃないか?」


フランベルはポニーテールを振り回すようにブンブンと左右に振った。


「そうなんだ! けど、倒れて相打ちじゃ、ちゃんとした勝ちにはならない。だから、ぎりぎり立っていられるだけの余力を残したいんだよ」


ぐっと拳を握って熱弁するフランベルに俺は頷いた。


「まあ、一理あるか。それで、具体的にはどんな特訓を考えてるんだ?」


フランベルは打刀の柄にそっと手をそえる。


「それは当然、一閃を打ってためすに限るよね……ししょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


いきなりフランベルは俺めがけて一閃をぶっぱなした。


なにをするんだよまったく!


俺は紙一重で避けた。


フランベルは力を加減したらしく、踏み込みも甘いし剣速も鈍い。切れも感じられず窮屈な一閃だ。


加減しようと気を遣うことで、魔法力をロスしてるぞ。


「ZZZ……zzz……」


刀を振り抜いた途端に、フランベルは寝息を立てて倒れそうになった。すかさず前から支える。


刀の柄を握り込んだまま、フランベルは俺に抱かれて胸の中で寝息を立てた。


そこに遅れて、二人の少女が姿を現す。


「あー! レオっちえろーい!」


「ちょ、ちょっと何してるの?」


遅れてやってきたプリシラとクリスに、俺はフランベルを抱きしめる姿を見せてしまった。


「い、いや誤解だから」


さらに二人の生徒の後ろで、エミリアがプルプルと小動物のように震えていた。


「れ、レオさん。だ、抱きしめるにしても女子生徒にするのはその……よ、よくありません!」


「エミリア先生も落ち着けって。フランベルがまた一閃をぶっぱなしたんだ。撃つと眠っちまうんだよ」


フランベルの技について、秘密を漏洩させないために知っている人間は俺と本人を含めて、ここにいる五人だけだ。


避けられたら強制的に寝るなんて、弱点以外のなにものでもない。


エミリアがハッとした顔になった。


「そ、そうだったんですか。すみません早とちりして……わたしって本当にダメな教員です」


困り顔でうつむいて、あっという間にエミリアは自信を失う。


「エミリア先生は些細なことで落ちこみすぎだぞ! それにプリシラ……お前が変なことを言うからいつもおかしなことになるんだ。クリスもあっさりプリシラの言葉を信じすぎだ」


プリシラが不満げに口先を尖らせた。


「えー。あたしは見たまんまの事実を言っただけじゃん」


クリスもうんうんと、二度ほど首を縦に振る。


「プリシラでなくても、そういう誤解を与える姿勢と言えるわ。しっかりしてちょうだいレオ」


なぜ俺ばかりがこうも責められねばならんのだ!


「ともかく、しばらくフランベルは起きそうにないから、医務室で休ませよう。二人は攻守に分けて組み手をやっててくれ。エミリア先生は俺と一緒に来てほしい」


「は、はい! お手伝いします」


俺はフランベルの手から打ち刀をそっと取り上げて、鞘に納めると彼女の身体を背負った。エミリアに付き添ってもらって、医務室に向かう。


首だけ振り返って「クリスもプリシラもサボるなよ!」と、一言くぎを刺した。



医務室でフランベルをベッドに寝かせると、エミリアにフランベルを看ていてもらうよう頼んで、俺は一人で校庭に戻る。


クリスもプリシラも真面目に組み手の真っ最中だ。


プリシラが攻撃側でクリスが防御側だった。


残念ながら、クリスはまだ武器を持った相手の動きを感じきれていない。


その原因のいくらかに、プリシラの攻めっ気の無さも影響しているようだ。


プリシラの攻撃は手数も少なく、クォータースタッフのリーチも活かしきれていない。


数日、訓練したくらいじゃ身につかないことくらいわかってはいたが、このままじゃさすがに攻撃力不足だな。


「組み手そこまで! フランベルがダウンしたんで、今日は新メニューを行う」


二人は武器を収めると、キョトンとした顔で俺に向き直った。


クリスが真面目に言う。


「今の訓練も満足に出来ているとは思えないのに、新しい事ができるのかしら?」


プリシラが「そーだそーだー!」と声をあげた。


お前のための新メニューなんだぞプリシラ。


「特別、新しい事なんてしないぜ。ただ学園の施設を利用して、いつもより少しだけすごいことをしようってだけだ。二人ともついてこい!」



怪訝そうな顔の二人を引き連れて、俺は校庭から場所を祭祀場に移すことにした。

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