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30.応用訓練

管理人の仕事で少しひやりとするニアミスはあったものの、それはそれ。


気持ちを切り替えてコーチの仕事に専念することにした。


放課後の特訓メニューも魔法武器による組み手である。


基本から外れて多少無軌道であっても、クリスとプリシラには少しでも魔法武器を振るうことに慣れてもらいたい。


二人には攻防の役割分担を決めた組み手を続けてもらった。


クリスが攻めでプリシラが防御だ。エミリアには引き続き審判をお願いしてある。


クリスの攻撃を受け止めて、プリシラが悲鳴を上げた。


「ちょっとクリっちってば、強すぎるし!」


「本気でやらないと訓練にならないでしょ!? それに今朝は私が勝ったんだから、その呼び名はやめてちょうだい!」


エミリアが「友達との約束は、ちゃんと守った方がいいですよプリシラさん」と、なだめるように言う。


「と、友達とか……は、恥ずかしいし」


「隙有り!」


カアアアアン! と、甲高い音とともに、プリシラの手からクォータースタッフが跳ね上げられた。


「あー! やられた! クリっちもう一回!」


「普通に名前で呼んでってば!」


今度は攻守を逆にして二人の組み手は続いた。



そんな二人の様子を確認してから、俺はフランベルに向き直った。


アイスブルーの瞳をキラキラさせて、彼女は俺を見つめている。


まるで遊んで欲しくて仕方ない子犬みたいな雰囲気だ。


「さあやろう師匠!」


「師匠はやめてくれ」


「師匠は師匠だよ!」


プリシラ同様、こちらの呼び方も直りそうにないな。


「組み手の前に、フランベルに聞きたいことがあるんだが……いいか?」


「なんでも聞いてよ!」


「どこで剣を習ったんだ?」


「習ったことはないよ」


なるほど。どうりで納得がいった。


「我流でそこまで強くなったのか。驚いたな」


フランベルの剣は自由だ。動物的で、才能だけで戦っている。反射神経と闘争本能に頼り切りの、他の誰にも真似ができない剣――。


野生の獅子が強いのは修練を積んだからじゃない。


元々強いのだ。


それを地でいく剣技だった。


だから下手に型にはめるのは、野生の獣を窮屈な檻に閉じ込めるようなものに思えてならない。


フランベルははにかむように笑う。


「照れるよ師匠。けど、今のままじゃぼくは勝てないんでしょ?」


明るい口振りとは対照的に、アイスブルーの瞳は遠くを見通すように冷たく澄んでいた。


「試合ってのは相手があって成り立つものだし、それだけに相性の善し悪しも出てくるからな」


「やっぱり他の学科の魔法も使えないと、だめなのかな」


フランベルがしゅんとうなだれた。


俺が心配する前に、当人が一番気にしていたか。


己の剣の柔軟性の無さに。


「ねえ師匠! ぼくは勝ちたい。けど、どうしていいかわからないんだ」


「わかった。じゃあまずは……やっかいな感情魔法の対策だな。エミリア先生! ちょっと手伝ってくれ。クリスとプリシラは自己判定で組み手を交互に三本ずつ。終わったら休憩だ」


スカートの裾を翻すような足取りで、エミリアがこちらにやってきた。


「は、はい! わたしでお役に立てることならなんなりと!」


「エミリア先生には感情魔法を頼みたいんだ」


俺の言葉にエミリアは眼鏡の奥の瞳を丸くさせた。


「え!? わ、わたしは……その……あんまり得意じゃなくて」


「ランクはどれくらいだ?」


「Dです。ただ、判定ぎりぎりでした。教員なのに申し訳ないです」


落ちこむようにうつむくと、寄せられて強調された胸の谷間に、つい視線が吸い寄せられる。


いかんいかん。


先日のダブリン騒動や、今朝のフランベルのブラ進呈の件で、人としての信頼を失いかけたばかりなのに。


俺は顔を上向き気味にした。


「そんなに落ちこまないでくれ。ランクDで問題無い。というか、俺にはできないことをしてもらうんだし」


「は、はい! すぐ落ちこむのは良くないくせなのに……わたしって……ううっ」


「また落ちこんでるから!」


エミリアはかすかに潤んだ瞳で俺を見つめた。


眼鏡をとって目をこすってから、うんとうなずく。


「すみません! もう、落ちこみません!」


よかった。持ち直してくれたみたいだな。


俺は説明を続けた。


「これからフランベルと俺が組み手をするので、エミリア先生はフランベルの行動を感情魔法で妨害をしてほしい。集中力を乱す“錯乱”ならランクEだから、安定して使えるんじゃないか?」


「は、はい。それならたぶん大丈夫です」


基本は声による伝達だが、主語を設定することで指向性を持たせることができる。それが感情魔法の特徴だ。


先日、王都で暴漢たちに襲われた時は、俺とプリシラだけが催眠の標的にされていた。


声を聞いた人間に無差別で効いたりしたら、仲間も術者自身にも魔法がかかっちまうからな。


感情魔法における主語の設定は、基本中の基本だ。


段取りも整ったところで、俺は箒を構えてフランベルと対峙した。


「師匠、それで戦うの?」


「箒といっても、結構頑丈にできてるから遠慮無く打ち込んでこい」


「じゃあ、行くよ!」


開始の合図は彼女の声だった。


相変わらずフランベルは、最初の踏み込みからして野生の肉食獣の動きを見せる。


躍動する四肢に、思わず見入ってしまいそうだ。


彼女は刃渡りの長いロングソードを間髪入れずに、軽々と振るう。


初撃を避けて追撃を箒で払い、最後の突きをかわしたところで、俺の背後でエミリアが感情魔法を唱えた。


――おい、待て今の魔法には主語がないぞ!


瞬間、俺は咄嗟に抵抗の言葉を口ずさんでいた。無意識化で無効化してしまう。こればかりは癖になってるな。


組み手の最中だったクリスとプリシラ、それに術者のエミリア自身もその場で挙動不審になり始めた。


フランベルの足も止まる。



「「「「あばばばばばばば」」」」



四人が錯乱状態になった。


なんだこれ。なんだこの状況は。全員おかしなことになってるぞ。


ええと、俺もエミリアの魔法を喰らったことにしよう。


「あばばばばばばば」



まさかこんなことになるなんて。うっかり先生――エミリア恐るべし。

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