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21.王都で特訓?

土曜日――午前十時。


俺は王都の中央広場で、雑踏のただ中に立っていた。


広場の真ん中には巨大な銅像が建っており、王都民の定番待ち合わせスポットになっている。


魔族との戦争終結記念として作られたそれは、戦いの一番の功労者の姿を現したものだ。


――勇者の彫像。


十五歳ほどの少年の像だ。

無駄にデカイ。

高さ十メートル近くある。台座も合わせれば十五メートルにもなるだろう。


功績をたたえ、この像は王都の中心に未来永劫残されるのだとか。


俺の口から自然とため息が漏れた。


これだから王都は嫌なのだ。

なんとなく、居心地が悪くてそわそわする。


「レオっちー! 待ったぁ?」


子犬のように駆けながら、プリシラが広場の向こうで俺に手を振った。

彼女はエステリオの制服姿だ。


学園の生徒は王都内でも武器の携帯を許可されているのだが、彼女はクォータースタッフを持ってきていなかった。


「俺も今、着いたところだ」


「レオっちにしてはわかってんじゃん。そこは何分、何十分……つーか何時間待ってたとしても、女の子に気を遣わせないようにすんのがジョーシキってやつだし」


「そんな常識を押しつけてくるな。まったく……ところで武器はどうしたんだ?」


今日は王都で特訓に付き合うことになっているのだが、プリシラの希望で内容は彼女の持ち込みだ。


自主性を尊重して、俺は何の準備もしないまま待ち合わせの場所にやってきた。


「言ったでしょ! 武器が嫌いって。それに、あたしってばちゃーんと自分の得意なこと、考えて来たし」


「じゃあ今日は王都で何をするんだ?」


「えー! そんなの遊ぶに決まってんじゃん! レオっちってバカなの?」


「あ、遊ぶだと!?」


楽しそうにプリシラは目を細めた。


「そーだよ。遊ぶのが得意なことだから。さっそくデートしよっか!」


な、なんだとおおおおおおおお!? 


プリシラのほっぺたがぷくっとふくれる。


「レオっちはあたしとじゃ嫌なの?」


「いやその……というかだな、その格好はどうなんだ?」


「エステリオの制服の方が、レオっちも興奮すると思って。ほら、生徒証も持ってきたから、王都のいろんなお店で学割も受けられるし」


プリシラは自慢げに生徒証を俺に見せつける。


「お前なぁ。仮にも俺は学園の職員なんだぞ」


落胆する俺の顔をプリシラは指さした。


「あっ! なんかエロイこと考えた? そういうの無いからマジで。安心して楽しんじゃってよ!」


そのまま俺の隣に立つと、彼女は腕を絡めるように組んでくる。


「じゃあどうしよっか? いきなりカラオケとか?」


カラオケ――元は魔法歌の練習機材だった自動演奏装置だが、王都では平民たちにも広まって、歌は娯楽の一つになっていた。


「カラオケに行きたいなら、クリスとフランベルを誘えばいいだろ?」


「それがさぁ……クリスは真面目バカで遊んでくれないし、フランベルと二人きりだと……なんか恐いじゃん!」


あ、その気持ちはちょっと解る。あいつは何をしでかすか読めないところもあるし、俺の心の傷を無邪気にえぐるところがあるからな。


「けど、だからって俺と遊ぶってのはどうなんだ? 年齢だって一回りは離れてるし」


今みたいにあんまり密着されると……困るんだよ色々と。


「そうそう! レオっちって、ぶっちゃけ何歳なの?」


「一応、二十五歳だな」


プリシラがじとっとした視線で俺に聞く。


「なに『一応』って? 自分が生まれた日くらいわかるでしょ? 誕生日は?」


「八月五日だけど」


「そっかー。あたしは六月六日ね。プレゼント楽しみにしてるから」


おいおい。なんか知らないうちに、プレゼントすることになってるぞ。


さらにぴたっとプリシラは俺に密着してくる。


広場で待ち合わせをしている人々の視線が、ちょっと痛い。

王都に住んでいる九割は平民だ。


エステリオの制服を着ているということは、それだけでプリシラが魔法使いだと言って回っているようなものである。


目立つんだよなぁ……ほんと。


「頼むから、少し離れてくれないか?」


「えー? そんなこと言われると傷つくしー。じゃあ手を繋ごっか」


「それはそれで恥ずかしいんだが」


「レオっちってばわがままだよ! それじゃあこのまま、まずはお買い物に付き合ってもらおっかなぁ。それで、ランチしてカラオケに流れていくって感じ?」


「まるっきり遊びじゃないか! 特訓の要素が皆無だぞ!」


プリシラは「やれやれ」とため息をつく。


「人間、息抜きも必要だよ? あたしの得意なこととか、女の子の大切な部分とか、ぜんぶレオっちにだけ見せちゃうんだから!」


まったくプリシラのペースに巻き込まれてしまったな。まあ、息抜きが必要というのは一理ある。


「そういう誤解を招く言い方はやめてくれ。わかった! なんでも付き合うから!」


プリシラは日向に咲くひまわりのような笑顔を弾けさせた。


「やったー! レオっち大好き!」


さらに彼女はぎゅっと俺に密着する。


大好きって言われるようなことなんて、俺はしてないだろ。


「それじゃああさっそく、デート開始ね!」



プリシラに腕を引かれて、俺は彼女の行き着けの服や小物を扱う店に連行されるのだった。

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