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12.理論魔法「ランクA」

倒れ込むと、そこは……砂地だった。

痛みは無い。


クリスが完成させた魔法式は“彼女が立っている一ブロック以外のステージ石材を消滅させる”というものだった。


おかげで俺の下半身は健在である。ほっとした。


うーむ、俺もまだまだだ。

あれしきのことで取り乱して、クリスの魔法式を読み違えるなんて。


ところでこれって、場外負けになるのか?

倒れたまま顔だけ上げて、俺は審判を務めるエミリアを見つめた。


「え、ええと、戦闘続行不能により、この勝負は引き分けです!」


エミリアが宣言すると、クリスが「えっ!?」という顔になる。


「エミリア先生! 私の勝ちじゃないんですか?」


エミリアはフルフルと首を左右に振った。


「先ほど公式試合のルールブックにさっと目を通したのですが、魔法の影響で足場の半分以上が崩壊して戦闘続行が不可能になった場合には、引き分けになるそうです」


そんなルールがあるなんて初耳だ。


エミリアは続けた。


「このルールが出来たきっかけは、今から七年前に起こった公式試合で、とある精霊魔法使いの生徒が編み出した戦法でした。その時は、土属性の精霊魔法で相手の足場を次々破壊するという方法だったみたいです。以降、引き分けを狙って故意に足場を破壊し、それが悪質なケースと判断された場合には反則負けという条項も付け加えられました」


確かに、そんな方法がまかり通るなら、試合は足場崩し合戦になってしまう。


クリスは意外にもすんなり納得したようだ。


「わかりました。引き分けという判定に異存はありません」


ふう。助かった。

負けってことになると、クリス相手に俺が一矢も報えてない感じだしな。


しかし、公式試合の基本的なルールくらいは知ってたが、場外負けに関してこんな細かい取り決めがあったなんて。


魔法の発展と試合の蓄積で、公式戦のルールも日々、改良が加えられているんだろう。


俺は立ち上がると、作業着についた砂を叩いた。


「クリスを相手に引き分けたなら上等だろ」


はたから見れば、俺が最初に一発お見舞いしたあと、箒を投げたらそれは不可解な動きをみせて見当違いの方向に飛んでいき、突然対戦相手の胸を俺が揉みしだいたかと思えば、足場が消失してリングアウト――という訳のわからない試合だったに違い無い。


うむ。こうして反芻してみると、実に混乱する試合展開だ。


観覧席のプリシラが愉快そうに笑った。


「つーかさー。学園の管理人……ううん、えーと“いい大人”が女子生徒の胸を揉むとか事案じゃね? マジうけるんですけど」


そこに触れるなよ! というか、いい大人ってなんだ! わざわざ言い直す必要ないだろ!


思い出したようにクリスが俺を睨みつけた。


「う、訴えてやる」


「いや待て本当にそういうのはやめてくれ! その訴訟をされると俺は死ぬ。社会的に抹殺される!」


顔を真っ赤にさせて、自分の胸を腕で守るような姿勢のままクリスは続けた。


「じゃ、じゃあ……お詫びの気持ちも込めて……コーチしてよ」


「は、はいい?」


「最初の踏み込み、来るとわかっていてもかわせなかった。慣性制御で衝撃を殺すのが精一杯で……それに、こちらが仕掛けたトラップの魔法式をわざと発動させて、隙を作って……そこに飛び込まれるなんて思いもしなかったわ」


クリスは小さく身震いした。彼女にとっては、俺の攻撃はかなり衝撃的だったらしい。


センスも知識も技術も、魔族じみた同時処理能力もあるクリスだが、どうやら実戦経験には乏しいみたいだ。


俺はクリスに向けて一度頷くと、観覧席を見上げて声を上げた。


「わかった! 俺に出来る範囲内で協力する。というわけで、誰か立候補してくれないか? 男子諸君も代表二人が女子だからって、気後れしなくてもいいんだぞ!」


生徒たちから沈黙が返ってきた。


俺の実力云々以前に、それは性犯罪者を見るような眼差しだった。



ちくしょう! どうしてこうなるんだよ!?

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