10.証明の戦場へ
第三闘技場はドーム型の屋内施設だ。
観覧席にぐるりと囲まれた中央ステージ上で、一対一の公式試合が行われる。
エミリア先生の名前を出して、総務部に利用申請を出すとあっさり許可が下りたのだが、それにもきちんと理由があった。
本日の利用予定が無いことを、俺が知っていたからだ。
本当は第四闘技場が良かったんだけど、あいにく別のクラスが押さえていた。
あっちの方が頑丈なんだよなぁ。
第三闘技場の中央ステージに使われているのは、一般的な石材である。
場外部分には、落下の衝撃を和らげるために砂が敷かれていた。
ステージは円形で角が存在しない。
その直径は五十メートル。
両端に俺とクリスが立つ。
魔力灯の照明がステージを照らしだし、客席は暗く息を呑むように静まり返っていた。
俺はステージ端から中央に向かって、歩みを進めながら告げる。
「試合は交流戦公式ルール。武器使用は可。ただし、魔法武器の安全装置を使用した、非殺傷モードに限定する。魔法の暴発などで相手を殺してしまった場合と、ギブアップ宣言をした場合は敗北。ステージの場外に相手の身体の一部を触れさせるか、気絶など相手を戦闘不能状態にした者が勝者だ。戦闘不能や、そのほか細かいルールに関する判定は、すべてエミリア先生にしてもらう」
「は、はい! わかりました!」
ステージ下の場外ゾーンで、エミリアが返事をした。
さらに十メートルほど進んで、俺はクリスと対峙する。
「本当にいいのね? 今さら、手を抜けなんて言われても困るわよ」
「お手柔らかに頼むぜ」
「ところで……なんで箒なの?」
俺の武器は、普段から掃除で使っている愛用の逸品だ。
「使い慣れた道具には、力が宿るものだからな」
「そう……まあいいわ。こちらは理論魔法使いらしく行かせてもらうから」
彼女が手にしていたのは円形計算尺型の魔法補助装置だ。
俺には使い方がさっぱりわからないんだが、平民の旅人があれを持っていただけで、野盗を追い払ったなんて逸話まであった。
野盗には理論魔法がなんなのか理解することはできない。
だが、理論魔法使いの象徴とも言える計算尺の持ち主が、人知を越えた恐ろしい存在だということは、広く知られている。
不意に、客席から女生徒の声援が俺に向けられた。
「死んだら葬式くらいは出てあげるよー!」
プリシラだ。なんて縁起でも無いことを言うんだ、まったく。
「うるせぇ! 試合は殺し合いじゃないんだぞ!」
「あっ! せっかく応援してあげるのに、うるさいとか何その言い方、チョー感じ悪いんですけどー」
葬式なんて言い出すお前だって、十分感じ悪いだろうに。
ま、試合前の緊張をほぐそうと、彼女なりに気を遣ってくれてんのかな?
さてと――。
呼吸を整えて、俺は箒を正眼に構えた。
「準備は整った。開始の合図をしてくれ」
クリスも頷く。
「お願いします。エミリア先生」
エミリアは、ここまで来ても俺が心配みたいだ。
俺がじっと見つめると、観念したようにうなずいた。
「わ、わかりました。それでは……始めてください!」
年甲斐も無く、少しだけ緊張して……かすかにわき上がる高揚感に、俺は興奮を覚えていた。