あなたうらみ買ってたんですか?
「これは助けた方がいいんですかね?」
頭を抱えているくーちゃんは答えてくれそうにないので周囲の雪の精霊に尋ねます。
『ちょーたすかる』
『まいにちまいにちこれうるさい』
『あまりのうるささにまくらをぬらしてるのー』
なんだかよくわからないことを言ってますね。しかし、くーちゃんの話ではこの氷の中で叫んでいるのは一応大精霊なわけじゃないですか? 精霊って物質すり抜けることができたと思うんですけどね。
『このこおりー、まりょくいっぱい』
『いずみこおるまえまであれねてた』
『ゆきがふってきてこおりができたらとじこめられてまいにちまいにちうるさいの』
たしかに、今氷に閉じ込められている大精霊? は氷を叩くだけですり抜けて来ませんし、この叩く音結構うるさいですからね。これに雪の精霊達も苦労してもいるのでしょう。
「ならあなた達がだして上げたらいいのでは?」
『ぼくたちじゃかりょくぶそくでー、それに……』
「それに?」
『さーびすざんぎょうごめんこうむる』
『ろうどうにはたいかを』
『めんどいのやー』
精霊って売り子みたいにお金貰ってたんですね。
時給制か日給制かとても気になるところですが。
「とりあえず、この氷を割ったらいいんですかね」
軽く泉の氷を叩いて見ますがかなりの厚さです。たやすくは割れないでしょう。
手っ取り早く魔石を使って叩き割ったらいいんでしょうか? でも下手したらまた雪崩が起きますし、あんな痛い思いはしたくないですしねぇ。
「いっそ見捨てるというのは手ではないですか? 精霊が死ぬというのは聞いたことありませんし。大精霊には氷が溶けるまで待って貰うということで」
『ここしずかでまりょくいっぱい』
『うまうま』
「……気に入ってるわけですか」
仕方なしにため息をついて再び氷を割る方法を考えます。
さっき気づきましたがこの氷、魔力を吸うみたいなんですよね。
吸われてるのは少量なんであんまり支障はありませんが、これは風矢でも貫くのは無理でしょう。
氷の中ではしくしくと泣く大精霊とは思えない醜態を晒してる奴がいますし。
「くーちゃん、この氷に閉じ込められてる大精霊はどなたです?」
頭を抱えているところを見るにくーちゃんは知っているのでしょう。
ようやくショックから立ち直ったのかフラフラとしながらくーちゃんは私の肩に座り込みます。
『さっき話してたセフィリア様じゃない方の大精霊だよ』
「ああ、頭が弱い方の」
『あなた達! 聞こえてるんだからね!』
意外と地獄耳でした。
ヒソヒソ声で話してたんですけどね。
「それではそこで無様にも氷に閉じ込められている貴女様、大精霊? 的な存在は一体なんなんでしょう?」
『あなた! 仮にも大精霊に対して敬意とかそんなのないの⁉︎』
「ハハハ」
敬意?なにそれ? 食べれるの?
私がバカにしているのがわかったのかみるみる顔を紅くしていっていますが氷を挟んだ現状ではなにもできませんよね。
「まぁ、冗談はさておき何の大精霊かだけ教えていただけませんか?」
『え〜どうしよっかな〜』
こちらが下手に出た瞬間うざい大精霊ですね。
本気で放置してやりましょうか。
『うそうそ! 私の名前はイフリュート。炎の大精霊よ』
こちらが放置しようとしたのがわかったのか慌てて答えてくれました。勘が鋭い大精霊ですね。
「炎の大精霊なら氷を溶かすくらい容易いんじゃないですか?」
『普通ならそうなんだけどこの中、水だから炎の魔力が出せないの』
なるほど完璧に閉じ込められているわけですか。
「そこから出たら力使えるんですか?」
『本調子には程遠いかは五割くらいかしら?』
「なら十分ですね」
魔法のカバンから魔石を取り出しイフリュートに見えるようにします。
「今から魔石でこの氷をぶち壊します。ただ、これを使ったら雪崩が起きる可能性があるので、雪崩が起きたらなんとかして欲しいんです」
『それくらい余裕よ』
人懐っこそうな笑みを浮かべるイフリュートを見た後、私は泉の淵へと向かい、泉に向かい魔力を軽く込めた魔石を放り投げます。
弧を描いて浮遊した魔石は発光。
恐ろしい熱量を解放しながらもう何度も見た火柱を顕現させます。
氷が魔力を吸っているせいかすぐには溶けませんでしたが次第にミシミシという音が聞こえ始め、やがて氷を完全に叩き潰し水を蒸発さしにかかります。
「……炎の大精霊なんですから火耐性ありますよね」
『多分』
使ってからなんですが、これ大精霊の火耐性値超えてたら大精霊の丸焼けが出来上がったりするんですかね。
『もーえろよもーえろよー』
『大精霊もーえろー』
『こーれであんみーん』
なにやら不穏な歌が雪の精霊たちが歌っています。よほど大精霊に恨みがあるのでしょうか?
視線を向けるのが怖いので炎炎と燃え続ける火柱を眺めていると泉の中から凄まじい勢いで上昇していく何かに気づきました。
「なんですあれ?」
興味を覚え眺めていると高速で上昇し続けたそれはやがて火柱をの先端を突き破り曇天の空に真紅の四つの花弁を広げました。
『自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
その花弁を開いたものこそ炎の大精霊イフリュートでした。
ボロカスに言われる大精霊さんでした