本気でしぬかとおもいました
体が回る、視界が回る、ついでに変な感触がして骨が折れる。
雪に飲み込まれた私はなすすべもなく、かつ抵抗できる要素が一切ないまま白の世界を回り続けます。
(これはまずい!)
今はなんとか意識を保っていますが、この状況です。いつ死んでもおかしくないでしょう。
幸いにもまだ手には握ったままの魔石がありますからね。これで雪を燃やし尽くせば言い訳ですが。
だだし、手放したらどちらに火柱が向くかわからないというのが問題です。
もし、私の体の方に火柱が向いた場合、一瞬で焼け焦げて死ぬでしょうし、うまくいったとしても私の手がどうなるか想像したくありません。
恐らくは超回復薬で治るんでしょうが…… 先ほどまで肉の匂いでキャッキャウフフしていた私が自分の腕の焼ける匂いを嗅ぐ羽目になりそうです。
ガスっと音はならず衝撃だけが頭に伝わってきました。いや、音なら聞こえてるんですよ。多分雪が流れる音がゴーゴーと。
バカな思考をしている時間はなさそうです。どうせこのままなら死ぬわけですし。
私は覚悟を決め、握りしめたままの魔石に魔力を流し込みます。
途端、私の視界は白一色から一瞬で元の雪のちらつく空とそして天を貫く火柱によって塗りつぶされました。
「私は賭けにかったぁぁけどぉわたしのうでがじょうじにやけつないたぁぁぉぁい!」
火柱の発生源は私が握る魔石。
当然私の腕は一瞬で炭化。
肉の焼ける匂いが漂う中、悲鳴を上げながら私は膝をつき魔石を手からこぼれ落としました。
轟々と音を上げながら上がる火柱は私に迫る雪を片っ端から溶かしていきます。
私は無事な方の手を使い魔法のカバンを漁り、超回復薬を一気に飲み干します。
変化は如実に現れ、ビシビシと炭化した腕がひび割れ綺麗な肌が、頭に何かがぶつかったのかぱっくりと切れていた血を流していた傷跡が塞がり、ついでに何本か折れていた骨すらも繋がり完治。
「今回は本気で死ぬかと思いました……」
完治はしましたがジクジクと全身が痛む中、私はぼそりと呟きます。
里での訓練は精神的な死が身近にありましたが今回の物理的すぎます。
魔石を持っていたこと、ブーツベアの肉を焼くために魔石をたまたま手にしていたこと。この要因がなければ死んでいました。
あれは、自然とは個人の力でどうにかなるものでないとよくわかりましたからね。
綺麗に再生された手を開いたり閉じたりを繰り返してきちんと動くことを確認し、腰に下がる妖刀を眺めます。
「ご主人のピンチなのにあなた、なにもしませんでしたね」
私の言葉がわかったのかいつもの不機嫌な震えではなく喜びで震えていることが私にはわかりました。
さすがは妖刀、人の不幸を喜ぶとは人でなし! ……刀でしたね。
「まぁ、いいですけどね。だったら私もあなたの名前を呼ばないだけですよ妖刀」
そう、この妖刀には私達が名付けようとした名前ではなくきちんとした名前があったのです。元の名前魔剣アルガンではなく妖刀としての名前が。
「だからおまえのことはポチと呼んでやります」
今までで一番というくらいの不機嫌さでガチカチと震える妖刀に姿を満足気に眺め起き上がり、今だに上がり続ける火柱を眺めます。
周辺にはすでに雪が流れておらず、先ほどのような轟々という音は全く響いていませんでした。
「死地はは脱しましたけど、完全に方向が分からなくなりましたね」
周辺を見回しても雪しかありません。もともとあったものは全て雪で押し流されたわけですし。方角を確認するものなんて当然ありませんからね。
「さて、こういう場合は動かないというのが鉄則なわけなんですが」
それはあくまで助けてくれる人がいる場合の話なんですよね。
くーちゃんが救助の人を連れて来てくれる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。
「幸いなのは目的地近くの山が見えているということですか」
ドラクマはドラクマ山の麓に作られた街です。
つまり、ドラクマ山の方を目指しながら歩いて行けばいいわけですからね。
やがて、火柱が完全に消失し、再び静寂が世界を支配します。
「行きますか」
私は白く染まるため息をつきながらおそらくドラクマ山であろう山を目指して歩き始めるのでした。
こんなお手軽で助かるわけありません!