手に入れられる物は手に入れるのがお利口さん
襲いかかってくる輩にはそれ相応の対価を。
飛びかかってくる輩に拳をプレゼントしつつも私は応戦を開始します。
「この仮面野郎が!」
『野郎?』
武器を振り回してくる男の言葉に眉を潜ませながらも躱し無防備になっている体へと返した拳を叩き込みます。
崩れ落ちる男を仮面の下で笑みを浮かべながら見下ろします。
「美少女にたいして野郎とは、不敬ですね」
瞬く間に二人をのした私を警戒したのか取り囲む人達に先程のような勢いはありません。
『ねぇ、リリカって後衛だよね?』
「私の主要武装は弓ですからね。そうなりますが?」
怪訝そうな顔をして尋ねてきたくーちゃんの質問に答えます。
『なんで明らかに前衛ぽい人を拳で無力化できるの?』
あー、やっぱり気になりますか。
「まぁ、簡単に言うとエルフ特有の戦闘訓練ですね。幼少のころからやたらと武芸武芸ですから」
『そうなの?』
突き出される槍を掴みこちらに引き寄せます。自然と驚きの表情を浮かべながら近づいてきた顔面に嬉々として拳を抉りこませます。
拳に粘ついた血が張り付きますが興味を示さずに再び拳を構えます。
「エルフの子供は自分に適性のある武器がわかるまでひたすらに鍛えられますのでね。ある程度の技量までは半ば強制的に叩き込まれるわけです」
その過程で明らかに普通のエルフとは違う能力が化現することもあるわけですが。
滑るように敵に対して近づいた私は拳打を放ち、着実に敵の数を減らして行きます。
武器による攻撃は大体私の瞳が捉えるので躱したり掴んだりすることができますし、本来なら接近戦が一番相性がいいんですけどね。
『エルフの軍とか見たくないなぁ』
「身内びいきと思われがちですがあれは戦うだけそんな相手です」
言わば人為的天災です。
あんなものと関わるとロクなことがありませんから。
「はい、終わり」
襲いかかってきた男の首に目掛けて蹴りを放ち、男が抵抗する間も無く意識を刈り取り大地しずめます。
周囲を見渡すと既に周りには戦意を持っている人は見当たりませんね。武器を持っていても震えている人が大半ですし。
「で、まだやります? というか、私なにか落としましたかね?」
拳から滴り落ちる血を腕を振ることによって払います。血が音を立てながら地に染みていきます。それが余計に恐怖を煽ったのか少数で私を囲む男達が媚びたような笑みを浮かべてきます。
「我々はなにも見てない。なぁ?」
「ああ、なにかみちがえただけなんじゃないのか? 」
「ああ、ただの旅人に酷い奴らだ」
我が身可愛さってやつですね。
こういう手のひら返しをあっさりとしてくる人は嫌いじゃないですよ。
私が構えを解いても特に攻撃してくる素振りも見せないことに私は仮面の下で苦笑を浮かべます。
私も特に警戒をしないまま、先程目をつけていた外に繋がられている馬に視線を向けます。
「ついでに、あそこに『落ちている』馬も拾いますけど問題ありますか?」
腰に下げる妖刀を見えるようにチラつかせると揃いも揃って首を上下に降ります。
「ドウゾゴジユウニ」
皆さん、非常に好意的ですね。
スタスタと私はお目当ての馬に向かい歩きます。
馬の方はいうと一瞬、私に目を向けてきますがすぐに草を食べることを再開しています。
私が目をつけたのは黒い馬です。明らかに周りの馬よりは体が一回りは大きく屈強そうです。
私が目の前に立ったことでようやく馬のほうが面倒くさげにこちらを見てきました。フンっと鼻を鳴らしながら。
「……なんでしょう、こいつ、私のことバカにしてません?」
『まぁ、してるよね』
たかだか馬のくせに。
『「たかだかエルフが」だってさ』
くーちゃん、馬の言葉わかるんですね。
同じようなことを思っていたみたいですね。
「馬っころ、そのエルフ風情に使われるんですよ」
私の言葉がわかるのか馬はすごく嫌そうな眼をしてこちらを見つめてきます。なにが気に食わないというのか。
そんなことは無視しますがね。
馬に無理やり乗り込むと馬が一声啼きますが振り下ろそうとすることなく私を背に乗せます。
「高いですね」
背に乗ることで一気に視界が高くなります。これだけでもかなりの気分が高揚しますね。
「よし、お前の名前ですがジュ……」
『カトラスにしよう!』
私が馬上から馬の名前をつけようとするとくーちゃんが割り込んできました。なぜです。
「いえ、ジュ『カトラスだよ』
「……カトラスでいいです」
なんでそんなに必死にいうのかわかりませんが、ジュパジュパマルという名前は諦めましょう。
こうして新しい馬の『カトラス』が仲間に入ったのでした。
ストックがなくなりました( ̄O ̄;)