私のセンス? 時代を置いてきぼりですよ
宿屋から逃走したとしてもすぐに北に向かうほど私もバカではありません。
まずはルーンに預けている魔剣と頼んでいる鞘を受け取りに行かないといけません。
『さすがに、なんの準備もしないで行きはしないんだね』
「……くーちゃん、私をバカだと思ってます?」
『ううん、違うの?』
あれ? 否定したようで肯定されたような気がしますが……
「一応、本で読んだ知識くらいならありますけど流石に初心者です。ですから多少は調べておかないといけないでしょう?」
『リリカ、なにか悪いものでも食べたの? わたしの知らないところで』
「どういう意味でしょう?」
くーちゃんがなにか異質な物を見るような目で私を見てきます。すごく理不尽な視線ですね。
「まぁ、いいです。とりあえずは魔剣と鞘ですよ」
今の楽しみはそれですからね。
どんな鞘が作られているかわかりませんが魔法のカバンに入れれないのであれば鞘がないと面倒ですし。なにより事あるごとに騎士に引きとめられたりしそうで嫌ですし。
スタスタとペースを落とさずに歩き続け見知った看板、剣と盾が描かれた看板が見えてきました。なにやら下に文字が書いてありますが読めません!
「くーちゃん、あれはなんと書いているんですかね?」
『ルーン鍛治店だけど、読み方覚えようよ、
リリカ』
文字覚えるの難しいんですよ。くーちゃんが読めるしいいかな、と思いますし。
ほら、私エルフ文字は読めますし。翻訳メガネありますし。
『前買った魔法道具は?』
「かけるのが面倒なんです」
サイズが合わないのが問題でしたね。かけるとズレるんですよあれ。いいサイズのがあれば盗ればいいと考えてます。
そう考え、口元を歪めながら昨日、私が拳で穴を開けて壊れたままの扉を開き、ルーン鍛治店の中に入ります。
「ルーン、今日は扉壊さずに入りましたよ! さあ、客として私を崇めなさい!」
『元から壊れてたからね〜』
水を差してくる精霊を無視しつつ店内に足を進めます。
店内は当たり前ですがやたらと、武具が置いてますね。積み重ねるように置いてあるのでふとした拍子に崩しそうで怖いです。
『ねー、あれ魔剣じゃないの?』
くーちゃんが指を差したのはテーブル。その上には確かに魔剣が置かれていました。ただし、剥き出しの刃ではなく精緻な装飾が施された漆黒の鞘に収まっていました。
「おお!」
思わず走りより周囲に積み重ねるられた武器に当たりますが気にしません。
『ああ……』
くーちゃんの声と同時に何かが崩れ壊れる音がしましたがそんなものは些細なものです。
漆黒の鞘に収まる魔剣を手に取り頬擦りします。
ああ、綺麗ですね。価値はよくわかりませんが綺麗なものは大好きです。
「破壊音が聞こえないから普通のお客様かと思えばあなたでしたか」
『崩壊音はしたけどね……』
「あ、ルーン。いい仕事ですね」
「ええ、私としてもいい仕事をしたと思いますよ」
ルーンを見ると目の下に隈がありますね。
そこまでしてこの鞘を作るなんて…… 褒めてつかわす。
「あ、代金はどうします?」
『宿の修理代からは逃げたのに……』
やっぱり聞いてたんですね。
いじわるな精霊です。
「ああ、今回は楽しめたのでいいですよ」
え、なにこの人、実はいい人⁉︎
「強いて言うならこの魔剣の呼び方を魔剣じゃなくしたいというのが要望です」
「呼び方? なんて呼ぶんです?」
「これはもはや剣ではなく刀です。ですから魔剣ではなく魔の刀、東の大陸では『妖刀』と呼ぶらしいのでそう呼んで欲しいです」
魔の刀、妖刀ですか。いいですね。
鞘を一撫でし、紅い刀身を晒しながら私はニコニコと笑います。
「よし、お前の名前は妖刀。妖刀ぽちです!」
『え、それ犬の名前じゃ⁉︎』
「ぽちはやめましょう!」
くーちゃんとルーンにブーイングを喰らいました。心なしか妖刀からも怒りの魔力が滲み出ている気がしますね。
「……仕方ありませんね。なら変えましょう」
ぽちはダメみたいです。
仕方ありません。私は寛大な女です。
『かっこいいのにしようよ』
「かっこいい、ですか」
かっこいい名前、かっこいい名前と。
「では、タマでどうです?」
「あなた、ネーミングセンスが壊滅的にダメなんですね」
これもダメだと?
どれだけわがままなんですか!
ならば、
「ではフランダースパトラッシュでど……」
『「それはなんだか可哀想な予感がすれやめてあげて(ください)!」』
二人に全力で止められました。
私のセンスに時代が着いて来れない!
そういう人はだいたい奇抜!
新しく
『魔王さまは自由がほしい』
投稿しました。
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