手と手を合わせて友情!
「なんだか体が固まってますね」
マリーがぼやきながら体を動かすたびに鈍い音が部屋に響きます。いや、なり過ぎでしょう。
「あなた、丸一日寝てたんですよ?」
「え、そんなわけないでしょ」
確かにマリーにとっては夕食後に寝て起きたら深夜という状況。軽く寝たという感覚が強いんでしょうね。
「結構な騒ぎが夜中ありましたよ?」
「どういったものですの?」
「フレディゴが街で暴れてたり、城が襲われたり、あと火柱が上がってましたよ」
「物騒ですわね」
『え、物騒で済ませちゃうの?』
あんまり詳しく言うと私の関与が疑われますから大雑把に説明しましたが、この人も本当に大概に緩いですね。街ではマリーのほうが常識人だと思われているようですがそんなことはないと思うんですよね。
「それで?」
「ん?」
なにがそれでなんでしょうか?
「なにか用があったのでは?」
「ああ、私は特にありませんよ。ただ宿屋の少年が死んでないか確認して欲しいと言われたのでね。確認しに来ただけけですよ」
死んでなくてよかったですよ。死体の処理をしなくて済みましたから。
「それはご迷惑を。あ、わたしくしから聞きたいことがあるんですが」
「……なんでしょう」
まさか、気づいたのですか?
襲撃犯が私だと!
ならばここでマリーを殺るしかないようですね。
「なんでそんな嫌そうな顔したあとに覚悟を決めたような顔をするんですか? わたくしが聞きたいのはあなたが今後どうするかですよ」
「今後?」
「はい、私の目的は騎士の国であるパラディアンに来ることでしたし、しばらくはここで背中の聖剣について調べるつもりです。ですからリリカ、あなたが何処か違う国を見て回るのであればわたくしとはここでお別れですわ」
「そんな……」
マリーとここでお別れ?
それは…… つまり……
「わたくしも辛いですわ。ですが「これでお母様みたいなマリーと離れられるんだね!」
『え?』
「いやー、マリーは小言が多すぎます。もっと大らかな心で人に接しないと結婚できませんよ? まさか血剣で脅すわけじゃないでしょ? 『世の男が求めてるのは従順、清楚! かつ男を立てる女性である!』と長老も言ってましたし」
「……」
聞いた当初は「何言ってるんですかね?この耄碌ジジイ」と思いましたが確かに色々言ってくる女は面倒というのが外の世界に出てわかりましたからね!
「だからマリーはもっと人の話を心を広くして受け止めてあげるべきなんだけど頭! 頭が! ギシギシと音立てるくらい握るのはやめてぇぇぇ!」
私の頭は無言で近づいてきたマリーに掴まれ、あり得ないほどの力で握られています。あまりの痛さに涙がこぼれてしまうほどです。
「あなたにはもう少し人のことを考えるということを教えないとダメみたいですわね!」
「痛い! 痛い! 暴力反対ぃぃぃいだぁぁぁぁい!」
『じごうじとくだよ』
深夜の宿屋に私の悲鳴が響くのでした。
◇◇
「まぁ、いいですわ。それであなた方は今後どちらに向かわれるのですか」
ひとしきり私に暴力を振り終え満足したのかマリーが尋ねて来ました。
「特に目的ありませんし、とりあえずはくーちゃんとも話していましたが雪とやらを見に行こかと思いますね」
ズキズキと痛む頭をさすりながら答えます。
雪見たことないですからね。
非常に興味がわきます。
「となると北のドラグマのほうに向かうわけですか」
「まだ調べてないですけど雪が見れるならそちらに向かうことになるでしょうね」
私の言葉にマリーは難しい表情を浮かべます。なんですかね?
「北のドラグマは三大国家と並ぶほどねは大国。結構な距離ですし行くまでが過酷ですわよ?」
「退屈しないんじゃないかな〜」
暇になるようなことにならならければいいんですけどね。
あっけらかんという私を見てマリーは深々とため息を付きます。あ、絶対失礼なことを考えましたね。
「ドラグマは情報が入りにくいんですよ。別名『氷獄の国』ですから。わたくしが知ってるだけの情報では最近いろいろと動いて戦争が始まろうとしているということしかわかりませんし」
「心配してくれてるの?」
「一応はパーティを組んだ仲ですからね」
「マリー……」
私、マリーのこと誤解していたかもしれません。守銭奴だと思ってましたけど……
「せいぜい、わたしくしの見えないとこで無様に死んどいてください。見える範囲ではごめんですわ」
「前言撤回。あなた最低ですよ」
ハッハッハッハ
二人して声を上げて笑いどちからともなく差し出された手をがっちりと握手。
友情の握手? そんな生ぬるい関係が私達にあるわけがありません。
空いた手をグッ! と力を込めると大きく振りかぶりマリーのガン目に向け放ちます。
「がひぃ!」
「あだぁ!」
マリーも同じことを考えていたのか私の顔面に拳を叩きつけて来ました。
二人で悲鳴を上げ、よろめきながらも握手は解きません。そう、これは決闘なんです。
「あなたのほうが最低でしょ!」
「マリーに言われたくありません!」
言葉を交わすたびに拳が飛び同時に血しぶきが舞い、鉄くさい匂いが部屋に充満しています。
『わたしねむいからねるね。ほどほどに〜』
欠伸をしながら出て行ったくーちゃん。
そんなくーちゃんを無視して私とマリーは二人で気絶するまで会話を続けたのでした。
これやるとメガネ壊れるんでやめたほうがいいですマジで