得意なんです!
とりあえずはエルフの服を着て軽く髪を梳かし、見れる程度の身だしなみを整えた私は魔法のカバンに荷物を放り込み腰に付けると一階へと降ります。
これでいつでも旅立てますね。
下に降りると先程私の裸を見たバイトの子が鼻に詰め物をして気まずそうにしながら立っていました。
「さ、先程は失礼しました!」
深々と頭を下げてあやまってきます。毒気が抜けますね。
「まぁ、事故ですし、私も悪かったので迷惑料は無しにしといて上げます」
『子供からお金、本当に取る気だったんだ……』
「ありがとうございます!」
なぜか少年には涙を流しながら言われましたが。あとくーちゃん、世の中には対価が必要なんですよ。私の裸は高いんですからね無料にしてもらっただけでも破格というものですよ。
「それで? こんな夜中に私に何の用です?」
時間で言うと深夜と言ってもいいですからね。
こんな夜中に女性の部屋に入ってくるなんて、エルフの里なら殺されても文句言えませんからね。彼らなら笑いながら殺すでしょうし。
まさか……
「実はお客様の「すいません、私あなたを恋愛感情で見れないんで」
確かに私は恋愛はウェルカムなんですけどね。さすがに子供では…… やっぱりこう王子様みたいで収入が安定してて頼り甲斐のある人じゃないとねぇ。
『意外と普通。というかリリカより頼り甲斐のある男の人いるの?』
くーちゃん、世の男性を舐めすぎですよ。クズみたいな人もいますけど、きっと一人くらい素敵な男性がいますよ。
「だからごめんなさい」
「えっと、なんで僕ふられたみたいになってるんですか?」
「え、ちがうんですか?」
なんだか私が自意識過剰の女みたいになってるじゃないですか。
「じゃぁ、なんです」
『あからさまに不機嫌にならないの』
そうは言いますがね。やる気が出ませんよ。やる気が。
「は、話を戻しますがお連れ様のことです」
「お連れ様というとマリーですか?」
私の問いにコクコクと頭を上下に振り頷きます。ついさっきくーちゃんと話したばかりなんですよね。
「なんですか? またマリーがなにかしましたか?」
『いや、リリカほどじゃないと思うよ?』
「いえ、お客様ほどではありません」
くーちゃんと少年に同時に否定されました。
私の評価どうなってるんですかね? アンケートとかとったほうがいいですか?
「じゃぁ、なんです? また部屋を血まみれにしましたか?」
「それはいつものことなんで」
『それをいつものことっていう宿屋もおかしい……』
頭を抱えるくーちゃんを横目に考えます。
マリー関連のトラブルは血剣しか問題はないと思うんですけどね。もしくは以前言っていた借金取りか。でもマリーが負けるとは思えませんし。仮にも前衛ですから。
「実はお客様のお連れの方が全く眼を覚まさないんです!」
「眠いだけでしょ?」
一言で斬り捨てます。
対したことありませんでしたね。
『もう少し!もう少し労わってあげて!?』
いや、眠かったら寝るでしょう?
うちの里にも三年に一度くらいしか起きないエルフとかいましたし、マリーもそんな体質に変わったのかもしれませんからね。ここはそっとしておきましょう。
『絶対面倒になってきたでしょう? リリカ』
ソンナコトアリマセン。自主性を尊重しているだけです。
「とりあえずなんとかしていただきたいんです!」
「仕方ないですね」
確かに宿屋としても人死なんかをだしたら評判も落ちるでしょうしね。
マリーも一応パーティ組んでいたわけですしね。見るだけ見てみるとしましょう。
少年に背中を押され、先程降りてきた階段を再び上がっていきます。
と言いましてもマリーが南無っている理由に心当たりが全く……
「あ……」
『なにか思い出したの?』
「……そういえば城に乗り込むときに普通の睡眠薬だったら不安でしたから通常の三倍以上混ぜといたんでした」
『……言ってたね』
下手したら永遠に起きないかもしれませんね。
もし死んでいたらこの少年を殺し目撃者を消した上で死体を処理しないといけませんね。
コレは大仕事です。覚悟を決めましょう。フレディゴの連中を使ってもいいんですけどやったのは私ですからね。私が最後まで始末をつけるのが筋と言うものでしょう。
『なんだか物騒なことを考えてない?』
「いえ、まずはこの少年をバラす」
『建前と本音が逆になってるよ⁉︎』
「大丈夫です。くーちゃん、私、こう見えても証拠隠滅は得意なんです」
『胸張るとこじゃないよ……』
頭の中であらゆる手段を考えながらマリーの部屋の前に立ちます。
「よし、シュミレーションは済みました。まだ寝ているようなら窓から叩き落として事故死を装いましょう」
『いや、無理があるんじゃ……』
「慌てたように入る私、窓の淵に足をかけ絶望感漂わせるような顔を浮かべたマリー、そして自殺。完璧ですよ」
『穴だらけ! 穴だらけだから!』
私はドアノブを握り、焦ったような表情を作ります。
今の私なら劇団と呼ばれる女優すら顔負けの演技ができるでしょう。ドアノブを回し、マリーの部屋に入り叫びます。
「マリー! 早まってはいけません!」
「え、なにが?」
私の目の前にはベッドから立ち上がり伸びをしながらキョトンとした表情を浮かべるマリーの姿がありました。
私はしばらく無言、少しして落ち着くと小さくため息を付き。
『「起きてるじゃん!」』
くーちゃんと共に叫びました。
通常の三倍の睡眠薬飲ましたのに生きてるとかこの人も大概だなぁ。
めんどくさくなると切り捨てる。
さらには証拠隠滅もやってしまうエルフさん外道クオリティ