え、そっち?
宿に帰り十分に睡眠を取るとすでに日が落ちて窓から見える景色は黒く覆われていました。
おかしい…… 寝たのは朝のはずなのに何故。
『あ、リリカ起きた?』
テーブルの上で新聞を読んでいたくーちゃんが外を見て呆然としている私を見て声をかけて来ます。
「……くーちゃん、何故外が暗いのでしょう?」
『よく寝てたからだよ?』
確かによく寝てました。熟睡です。
頭もスッキリとしていますからね。
『とりあえずは服ね』
「あー、そうですね」
あまりにも眠かったので服は脱いだままベッドに入ったんでしたね。ベッドの下には脱ぎ散らかした服がありますし。
「でも、これもう着れませんしね」
面倒くさがった私がベッドから手を伸ばし、やっとの思いで拾い上げた服は王城に乗り込んだ時に着ていた物でエルフの服よりも耐久力が低いわけで、すでに何箇所かは破れていてとても着れるような服ではありませんでした。こんな服を着て外に出てしまっては世の男性を虜にしてしまいますね
ため息を一つ付くと手にしていた服を放り投げ、魔法のカバンからいつものエルフの服を取り出します。
うん、やはりこれが一番しっくりきますね。
「私が寝てる間になにかありました?」
『一回宿屋のバイトの子が来たよ。ノックしてたから返事したけどわたし見えないみたいだったし。入って来てリリカの裸を見て顔真っ赤にして出てったよ』
「ふむ、初心ですが美少女の裸を見たのです。あとでお金を請求しに行きましょう」
『エルフのイメージくずれるね』
「押し付けられたイメージの払拭ですよ」
いくら取れますかね。私の裸。
『そういえばマリーが来ないよ』
「もう、夜中のいい時間です。寝てるんじゃないですか?」
『そうなのかな〜』
ふむ、くーちゃんはマリーに会いたいのですかね? ならば起こしにいくとしましょう。
そう決断するや否やベッドから飛び降り扉に向かいます。
ドアノブに手をかけようとしたその時、扉を軽くノックする音が部屋の中に響きました。
「はい、どなたですか?」
『リリカ⁉︎』
時間にしてノックをされてから数秒、私は何のためらいもなく扉を開き、くーちゃんは悲鳴のような声を上げます。
扉を開けると何度かここの宿屋で働いているのをみたバイトの子が立っていました。
「あの、お連れのか……た……が」
「はい?」
私を見て話している途中でバイトの子は一瞬にして顔が真っ赤になり目を見開きます。
なにをまじまじと?
『リリカ! ふく! ふく!』
「あ、」
そうでした。私、服着てませんでしたね。
なるほど。私の美しく透き通るような白い裸体に見惚れているわけですか。さすが美少女たる私ですね。こんな子供まで魅力してしまうとは。
あ、悲鳴の一つでも上げといたほうがそれっぽいですかね? 迷惑料とか取れそうですし。
そう考えつくと私は大きく息を吸い込み、
「キャア『キャァァァァァァァァァァァ!』
悲鳴を上げようとしましたが私より大きな声を出し鼻血を吹き出すバイトの少年の悲鳴に掻き消されました。
「『え…… 悲鳴上げるのそっち?』」
くーちゃんと私は悲鳴を上げ血を撒き散らしながら走り去る少年を呆然としながら見送るのでした。
映画を見ていて隣の人が悲鳴上げたせいでこっちの悲鳴を上げるタイミングを逃す!