情報は大事
ルーンになんとか魔剣の鞘を作ってもらうことを了承してもらった私はルーンに魔剣を預け、その足で冒険者ギルドに向かいます。
『なんで冒険者ギルドに向かうの?』
「情報収集ですよ」
行きかけの駄賃とその場の流れとはいえ魔物へと変わった王様を放置してきてしまったわけですからね。その後どうなったかの情報が欲しいわけですよ。
冒険者ギルドというのは色々な情報が入ってくるというのは最近知ったわけですし有効活用しときましょう。
『最後ほったらかしにして逃げたしね』
「いや、あんな状況で私は命賭けたくないですよ」
あの首なしだけなら狩ることもできたでしょうけど片腕が折れた状態で他の騎士達も相手をするのは面倒でしたからね。あの場は逃げるのが正解だったでしょう。
首なしだけは狩りたかったですが……
「なにより横槍入れられましたしやる気がなくなったんですよ」
『きぶんやすぎるよ~』
「やりたいことだけやって生きてますからね」
くーちゃんと話ながら冒険者ギルドの扉を開け、中に入ると大勢のギルド職員、そして騎士達が慌ただしく動いていました。
いつもならいろいろ貼られているはずのクエストボードにもほとんど何もはられていません。
とりあえずは邪魔にならないように隅のほうにある椅子に腰掛けます。いつもならすぐにギルド職員が駆けつけ注文を取ってくれるのですが忙しそうに動いてるためかなかなか来ません。
『わたしアップルジュースね』
「はいはい」
のんびりとメニューを見ながら待っているとパタパタと慌てた様子でギルド職員がやって来ました。
「お、お待たせしました」
「……美少女じゃなかった、チェンジで……」
パタパタやってきたのは美少女ではなくおっさんでした。
むさ苦しいのはいやなんです。美少女をください。かわいいの!
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもないです。サンドイッチ盛り合わせとアップルジュースを」
「かしこまりました」
注文を取ると再び慌てたように動き出します。
次は可愛い子がいいですね。
男? いりません。
まぁ、忙しいのはわかりますのでここは我慢しましょう。
他のテーブルにも冒険者が座っていますがなかなか注文を取りに行けてないみたいですね。喧騒が大きいのもあるのでしょう。
「さて、注文した品がくるまで情報収集と行きましょう」
『誰かに話を聞くの?』
「そんなことしません。私の耳で聞くんです」
くーちゃんにそう告げるとエルフの象徴である長耳を動かしてアピールします。
『かざり?』
「いや、ちゃんと聞こえますから」
飾りと思われていましたか、それはそれでショックなんですが…… 気を取り直して聞き耳を立てるとしましょう。
まずは冒険者から聞いていくとしましょう。
「なんか騎士とギルドの連中あわててねぇ?」
「昨日、賊が忍び込んだらしいぜ?」
「デュラハンが暴れたって聞いたぜ?」
「街ではフレディゴが暴れてたらしいしな」
「城を見たか? 半壊だぜ? 火柱が上がってたらしいし」
「ドラゴンが出たんだよ」
「仮面時いたが?」
「魔法実験に失敗したと聞いたぜ?」
なんだか本当のこともありますが嘘もありますね。ですが私の知りたいことではありませんね。
となると有益な情報を持っているのはやはり騎士達でしょうかね?
「なぜ、王から直接命令がこない!」
やたらと煌びやかな鎧を着た人がギルドに響き渡るほどの大声をあげます。
あれだけ大きければ聞き耳を立てる必要はありませんね。
「王は行方知れず、大臣も軒並みに体に穴が空いて死体となっているのが多く、指示を出す人がいないのです」
「姫様は無事なのか?」
「それが建物もかなり崩落しており死傷者が多数出ています。現在も救助活動中ですが今だ王族の方々は誰一人……」
「お前達は引き続き不審者及び王族の目撃情報を集めろ!」
『ハッ』
部下であろう騎士達は命令を受けると走りだしギルドで話を聞く者と外に行く者とに別れます。
「 クエストを頼みたい! 救助活動のだ!」
「は、はい」
隊長らしき男はカウンターに向かうとクエストを発注しているようです。
なるほど、ギルドに来たのは私と同じ情報収集のためとクエストと称して冒険者を救助活動に使おうという魂胆でしたか。とても有効的ですね。
「お待たせしました。サンドイッチとアップルジュースです」
『わーい』
くーちゃんは喜びアップルジュースにさされた人間用のストローに飛びつきます。精霊用のではないので精霊にとってはかなり大きいのですが特に問題なく美味しそうに飲んでいます。
また持ってきたのおっさんでした。美少女にしてくださいよ…… 無いものねだりしても意味は無いのはわかってますけど。
「忙しそうですね」
「ええ、王城の襲撃、街への破壊活動とそれらの対応に応じてもらおうと住民と騎士がクエストを発注しに矢継ぎ早にやってしますからね。人出が足りません」
「なるほど」
肩をすくめるおっさん越しにクエストカウンターを見ると確かに先程は気づきませんでしたが住民の姿もチラホラみられます。
そして何も貼られていな方クエストボードに受付嬢達がかなり足早に近寄ると次々とクエスト用紙を貼り付けて行き、あっという間にボードが埋め尽くされて行きます。
「街の復興用のクエストですよ」
「そんなクエストが」
確かに冒険者を使うというのはありですね。
次々と貼られて行くクエスト。そして、それを奪い合うかのように冒険者がクエストボードに殺到。数人の受付嬢が人波に攫われもみくちゃになっています。
数分経つと冒険者達はクエスト用紙を手にギルドから飛び出して行き、後に残されたのは再び空になったクエストボードと服や髪が人波のせいで乱れた受付嬢達でした。
「では失礼いたします」
呆然と見ていた私に一言告げ、おっさんは立ち去りました。とりあえずはサンドイッチを頬張りお腹を膨らましましょう。
『欲しい情報あったの?』
「とりあえずは欲しい情報は手に入りましたね」
『そうなの?』
「一つは私の正体がバレていないということ」
『バレてたらやばいよね』
そう、これはとても重要です。バレてたら目撃者消さないとダメでしたし。あとフレディゴにも完全にこの世からサヨナラしてもらわないといけないところでした。
幸いにも本当のことですが『仮面』の不審者としかわかっていないようです
「二つ目は王様の行方が分かっていない、もしくは正体がわかっていないということですね」
私とくーちゃんは首が付いてる王様を見ましたが生き残った騎士が見たのは首なしです。
率直に首なし=王様が結びつかなかったのでしょう。
「ですが謎もあります」
『なんの?』
「王族が行方不明ということです」
王様は首なしに変貌しましたが姫様は私、見てませんからね。普通ならすぐに見つかるはずなんですよね。それに王族がいなくても普通に機能しているこの街も変ですけどね。
『消し飛ばしたんじゃないの? 魔力で』
「……否定できないのが辛いところですね」
正体がバレてないからいいんですけどね。
喋りながらも食べたサンドイッチでお腹は膨れました。テーブルに銅貨を起き、ギルド出口に向かいます。
「とりあえずは宿に戻りましょう。眠いです」
『そうだねー、眠い』
眠そうな声を出しながら私の頭の上に座るくーちゃん。
出口まで来て不意にクエストボードのほうへ視線を向けます。
そこにはヨロヨロと起き上がる受付嬢達がいました。そんな受付嬢達のハードワークを見ながら私は絶対にギルド受付嬢にはならないと心に誓いましたね。
受付嬢とか絶対激務だと思う!個人的に!