拾った!
さわやかな朝、鳥達のさえずりが聞こえてくる中、私とくーちゃんは城下街を普通に歩いていていきます。
すでに仮面は外しており、新鮮な空気を吸うことができますね。
ズキズキと痛む腕に耐え魔法のカバンから昨日に作った薬を取り出しチビチビと煽ります。
「まずぃ」
さすがに薬としての効果に特化さしているので味は最悪です。今度作るときはもう少し調整しましょう。
『なに飲んでるの?』
興味があるのかくーちゃんが眼を輝かせながら覗き込んできます。
私はまだ薬の残っているシリンダーをくーちゃんに見えるように掲げます。中にはまだ半分ほど紅い液体が乗っています。
「この前作った薬の一つ、超再生薬です」
『超再生薬』はその名の通り死ぬほどの傷を負ったとしても再生するという優れた薬です。。作る際に実……手助けしてくれた友達はそのせいで腕が四本になってましたね。まぁ、四本も腕があれば便利でしょうから謝りませんでしたが。
『超再生薬』を飲んでいるおかげですで腕は激痛ではなくただの鈍い痛みを放つだけになってます。一息に全部飲んだら瞬時に再生するんですが死ぬほどでもないですし、それになにより不味すぎますからね。
ダラダラと飲みながら周囲を観察していると非常に騒々しい。
「ほんと、お祭りあと見たいですね」
『わたしの知るお祭りは血が流れないよ?』
『超再生薬』を試しに少し舐めたくーちゃんが嫌そうな顔をしながら所々にある赤黒いものを指差します。
祭りですから、血くらい流れますよね?
里では腕が飛ぶことなんて結構普通にありましたし。その光景を見慣れている私からしたらこんなものは些細な光景です。
城下街はそこいら中がぐしゃぐしゃです。壊れている店もあれば火が付けられたのか炭と化しているものもあります。
フレディゴの連中はなかなかいい仕事をしたようですね。
『それ、なんとかしないとね』
「そうですね。急ぎましょう」
再びくーちゃんが指差したのは私が持つ布で包んだ魔剣。帰る時は邪魔になると思い魔法のカバンに入れようとしたんですがこの魔剣、魔法のカバンに入るのを拒否するかのように入ってくれませんでしたからね。抜き身の刃を持って歩いて捕まるのも嫌なので仕方なしに布で包んで持ち歩くことにしたのです。
たかだか剣の癖になんて生意気なやつなんだ。
「さっさと歩け!」
「へへ、歩いてやるよ。これで俺も金持ちだからな」
声のほうに目をやると縄をかけられた数人のフレディゴのメンバーが騎士に引きずられるように連行されているところでした。
フレディゴのメンバーはやりきったような表情を。逆に騎士達のほうはゲンナリと疲れた表情を浮かべています。
これ、普通は逆ですよね?
騎士の顔にはやりきった感の色はなく只々疲れの色しかありません。
「お勤めご苦労様です」
「? ああ……ありがとう」
主犯ですがなんとなく悪い気がするしてすれ違い際に挨拶しておきました。やっぱり疲れてますね。
そんな光景があちこちでみられる中、私は目的地へと歩きます。
目当ての場所にたどり着くと扉を叩きます。
「朝ですよ!朝ですよ! 朝ですよ! お客様ですよ!」
『めいわくなおきゃくー』
ひたすらに拳を扉に叩き続けます。木製の扉がミシミシと悲鳴を上げますがかまいません。だって私の家じゃないですから!
しかし、この扉今にも壊れそうですね。既に鳴り響いている音はミシミシを通り越しバキバキと言ってますし……
『こわれてるこわれてる』
「なんと」
なんということでしょう……
扉に私の拳大の穴が開いています! いつの間に!
「あなたがやったんですよ!」
「ふぎゃ!」
突如として大きな声と共に開け放たれた扉が私の顔面を襲い、更に破壊しながらも開かれます。
かなり痛いです。
思わず強打した顔を覆いながら破損した扉の前に蹲ります。
「で、なんですか! こんな朝から何の用ですか! リリカさん」
顔を覆った手の間から上を見上げます。
かなりイラついた様子のルーン・ナトルアスが私を見下ろしていました。
「し、仕事を持ってきたんです」
「仕事? また刀をやりましたか?」
え、そんなに私信用されていませんか?
壊していないんですけどね『旋風』は。
とりあえず起き上がり布に包んでいた魔剣をルーンに見せます。
訝しげな顔をしながらも私から魔剣を受け取ると徐々にイラついていた表情が驚愕に変わっていきます。
しまいには柄を握る手がカタカタと振るえ魔剣が揺れます。
やめて、危ないから、震えるのはやめてください。
「……これ人口ではなく本物の魔剣じゃないですか! どこで手に入れたんです!?」
この剣幕……
確実に本当のことを言うと面倒なことに巻き込まれる可能性がありますね。適当に嘘をついて誤魔化すとしましょう。
「……拾った?」
「噓をつけ! しかもなんで疑問系なんだ!」
一瞬でばれた!? この完璧な噓が!?
さらにルーンが持っていた魔剣の柄で頭を叩かれます。……最近私の周り暴力振るう人増えてませんかね?
『類は友を呼ぶ 変人は変人を呼ぶ by長老(故?)』
忌々しい長老の名言が叩かれ痛む頭に浮かぶのでした。
「そんな事はどうでもいいんです! ここは鍛冶を生業とする場であり、私はお客様なわけです! お客様ですよ!神様ですよ!」
そうですよ、何で私が下手に出ないといけないんですか! お客様は偉いのです!
「ちっ、そのお客様がなんの御用です」
こ、この人、仮にもお客である私に舌打ちですか……
ルーンが差し出してきた魔剣を受け取りながら私は愕然とします。
「……あの、お客なんですからもう少し態度をなんとかしません?」
「まともなお客なら扉をぶち壊したりしません」
『だよね~』
くーちゃんも敵でしたか…… まぁいいですけど。
言い訳するのも疲れたので諦めましょう。
「私の依頼はその剣の鞘を作って欲しいということです。さすがに抜き身のままはまずいですので」
「すぐに騎士に捕まるでしょうね」
納得したようにルーンは頷きます。
そこは理解していただけてよかったですよ。本当に。
「……厄介ごとほごめんですよ?」
「善処しますよ」
なるべくね
咄嗟に言った嘘。
なんですぐにばれるんでしょうね