表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフさんが通ります  作者: るーるー
出会い編
59/332

バランスとはいつも綱渡りである

 私とくーちゃんは魔石をそこら中にばら撒き悲鳴を量産しながら城へと前進して行きます。


「魔石、すごい!」

『犯罪者すぎる……』


 すでに周囲は元の外観を保つことが不可能なくらいの変容です。

 おそらくはそれなりの防備を敷いていたのでしょうが魔石であっさりと崩壊しています。

 魔石あれは騎士いらないんじゃないかな?


『だから魔石は希少なんだって』

「国のバランスあっさり崩しそうですね」


 なにせ数個で国で一番の防御を持つ城がこの現状ですからね。

 軍隊に一人一個持たせたら楽しいことになりそうです。

 さて、適当に進んできたわけですが……

 順調に進んでいた歩みを止め、眼前にそびえるやたらと頑丈そうな扉を見上げます。

 軽く拳を作りノックをしますが金属のような音が響くだけで開けてくれそうにありません。

 せっかくノックしたのに。

 まぁ、私が敵ならこんな惨状が広がる中扉を開けたりはしないでしょうね。


『どうやって中に入るの?』

「え、どうやってって……」


 くーちゃんの方を見ながら私はごく自然な動作で魔石を取り出すと固く閉じられた扉に向かい放り投げます。


「開けてくれないなら無理やり開けようかなと……」


 放られた魔石は宙で振動。

 封じられた魔法が解き放たれ光が放たれます。

 おそらく発動した魔法は炎。

 一瞬にして眼前の扉を焼き尽くし、さらには扉のその先にも破壊の炎を撒き散らして行きました。


「おー」


 目の前の惨状に私は感嘆の声をあげます。

 焼き尽くされた扉はドロドロと溶け出しており今だに熱を発しています。

 これ、踏んだら危なそうですよね。

 なんとなく魔石の使い方がわかってきましたね。

 使う際に自分の魔力で方向だけ指定するとそちらに魔石の魔法がその方向に発動するようです。

 使い勝手がよすぎますね。


『どうやって進むの?』

「どうしましょうかね」


 適当に落ちていた石を拾い今だに熱を発している壁に放り投げて見ますが一瞬で溶けました。

 やっぱり危ないですね。


「くーちゃん、吹き飛ばしましょう」

『しかたないなー』


 面倒そうに言いながらも少し嬉しそうですね。

 頼られるのが嬉しいんでしょうかね。

 くーちゃんが放った精霊魔法で床を覆っていた赤いドロドロは壁際に押しやられ安全な道が出来上がります。

 さすがは精霊さんです。


『できたよー』

「ご苦労様です」


 嬉しそうに報告してくるくーちゃんに労いの言葉をかけながら道を歩きます。

 所々に人の形をした黒い痕がありますね、

 なんでしょう? これ。


『かげのあと?』

「なるほど」


 つまり人の影だけ残して人体は焼き尽くしてしまったわけですね。興味深い現象です。


「なんだ! さっきの音は!」

「敵襲! 敵襲だ!」


 ガチャガチャと騒がしい音がこちらに向かってきているようですね。

 さすがにあれだけ派手にやればバレるのは当然というところでしょう。


『戦うの?』

「魔石を使ったら一瞬なんですけどね」


 まだまだありますし、でもそれは楽しくないですよね。

 せっかく王城にお邪魔したわけですし。何よりこの距離、使うと私も巻き込まれます。


「盛大に暴れるとしましょう」


 手の中で遊んでいた魔石を一つだけ残し、他を魔法のカバン(マジックバック)に戻し、仮面の下で私は笑みを浮かべます。


「いたぞ! 侵入だ!」

「あ、見つかっちゃいましたね」

『意にも介してないくせに』


 呆れたような声が聞こえます。

 わざと見つかりましたしね。


「こちらへゆっくりと向け侵入者!」

「はいはい」


 言われた通りにゆっくりと後ろを振り向きます。

 私に武器を向けているのは三人。

 それぞれ軽装ではありますが防具をつけていますね。槍の切っ先は完全に私に向いていますが。


「なんでそんなに軽装なんですか? 一応私、侵入者なんですけど?」


 私は若干不機嫌な声を上げます。

 王城に泥棒が入ったんですからもっと頑張って守らないと。


「うるさい! 街では暴動のようなものも起こっているし、城にも攻撃をされているんだ!」


 全部私が主導しているんですけどね。

 さすがにそれはわからないようですね。


「貴様こそ何者だ! そんなふざけた仮面をつけやがって」

「この仮面の良さがわからないとは……」

『いや、センス悪いよ?』


 なぜ、このセンスがわからないんですかね。

 解せません。


「私のセンスが時代を先取りしすぎたんですね」

『いや、それはない』

「何をブツブツと!」


 ああ、放ったらかしにしてすいませんでしたね。

 槍を構える三人に向かい特に構えをとるわけでもなく無造作に近づいて行きます。


「止まれ! 止まらないと攻撃する!」

「はぁ」


 ため息を尽きながらも前進をやめません。

 仮にですが、エルフの兵士だった場合笑顔で槍で攻撃してくるでしょう。

 そう考えるとこの国の人たちは、


「手ぬるいですよねぇ」


 軽く笑みを浮かべ魔法のカバン(マジックバック)からナイフを取り出します。『旋風』を使えばバレてしまうかもしれませんからね。

 私が武器を取り出したことを見て騎士達は警戒を強めます。


「遅いですよ」

「はぁ!」


 一人の騎士が距離を詰め、気合いの一声を上げながら突き出された槍を踊るようして躱します。当然突き出した姿勢で固まるというのは隙だらけです。そんな隙を逃さずに脹脛にナイフを突き刺し捻じります。

 何かを捻じり切る感触を手に感じながら悲鳴を上げる騎士の口の中に素早く残していた魔石をねじ込みます。そしてすぐにその騎士の胸元を軽く押し、残り二人のほうに押しやりました。

 私も後ろに一歩下がった次の瞬間、騎士の口にねじ込んだ魔石が発動。周囲を巻き込みながら風の刃が顕現、人間をあっという間に肉塊へと変貌さしました。

 受け止めた二人も同様です。


「さ、行きましょう」

『この国、今日で滅びるんじゃないかな』


 それならその国は運がなかったんじゃないですかね?

 くーちゃんの独白に私は心の中でそう思いながら元人間の肉塊を跨ぐのでした。

よろしければご意見・ご感想をお寄せください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ